小説・文学

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1Q84 BOOK 3

1Q84 BOOK 31Q84 BOOK 3
村上 春樹

新潮社 2010-04-16
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1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 21Q84 BOOK 2
村上 春樹

新潮社 2009-05-29
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1Q84 BOOK 1

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村上 春樹

新潮社 2009-05-29
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セックスボランティア

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河合 香織

新潮社

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この「セックスボランティア」を既に読んだ方はご存知とは思いますが、キャッチの聞いた書名とはうらはら、貴重な情報がまとめられた真面目なルポタージュでした。

自分の周りにも「障害」という枠に属した人がいますが、読んでいていろいろ考えさせられる、身につまされる情報が多かった。

このテーマは福祉の問題とも大きく関わってくると思うが「自分の権利を主張する=自分は損したくない」ような人が多い中、努力しても、今の現状が打開されるには何百年もかかりそうな気がしてきました。

日本では、「頑張ること」が美徳とされている→みんないっぱいいっぱいになりがち→自分のことで精一杯、というような流れで、人間を思考する、社会を思考する、文化を思考する、習慣もなければその価値も低いように、なんてことを考えてしまったり。

とはいえ、いろいろと鼓舞されるところは多かったので、今後自分の生活の中から実践したいものです。

贅沢な恋人たち

贅沢な恋人たち贅沢な恋人たち

村上龍、山田詠美、北方謙三、藤堂志津子、山川健一、森瑤子、村松友視、林真理子:著

幻冬舎 1997-04
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8人の日本の小説家による、「ホテルを舞台にした恋愛小説」という共通テーマをもった短編作品集。

個人的には初見でしたが、藤堂志津子氏の作品が印象的だった。この作品集は好評だった「贅沢な恋愛」の続編のよう。

このように、オムニパスというか複数の作家の作品集になっていると、普段読む作家が自然と制限されてしまう傾向を打破する契機がもてて嬉しく思ってしまう。

この作品集の中には、単行本で既読のものもあったが、文体や語り口、感覚など作家ごとの特徴を容易に感じることができて面白い。

読む機会の少ない短編小説などは、雑誌掲載などにとどまらず、このようなオムニパスでもいいので文庫まで落としてもらえれば、潜在的な読者の裾野は大きく広がるように思う。

持ち運びに便利な文庫や新書は形態として時代に即しているわけだし。本義的には雑誌の方が手に取りやすいはずなので本末転倒な気はしますが、普及版ということで。


スカートの中の秘密の生活

スカートの中の秘密の生活スカートの中の秘密の生活
田口 ランディ

幻冬舎

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今となってはちょっと古さが目に付く、インターネット通信、黎明期のエッセイ集ですが「オンナ心とはなんぞや」といった、僕が死ぬまでわかることのない事柄がぎっしりとつまっていて、今読んでもなにかと参考になる1冊。

ニフティなどのインターネット通信にハードも含めて年間100万くらいつっこんでいた田口氏の気合いが感じられる。

普段は女心のことなんて少しも考えないので、たまに「女心なんでわからん」と思い困ってしまった時に、反省も含めて読んでみようと思う。

原題は「淫乱菩薩」。


ハードボイルド/ハードラック

ハードボイルド/ハードラックハードボイルド/ハードラック
吉本 ばなな

幻冬舎

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「アルゼンチンババア」に引き続き、奈良さんのイラスト装丁に惹かれて文庫を購入。

「脳死とは?」ということを考えさせる作品で、個人的には「アルゼンチンババア」よりも映画にするのにちょうど良いような印象。

吉本ばなな作品は他もそうんな感じがしますが、所謂「女性」が「女性らしい」感性で生き生きとしている主人公を描いているように思う。

自分では共感するところなんてありませんが、「女の人はそういうもんなのかなぁ」なんて思ったり。

作者も主人公も女性だと、手法はさておき、描かれる世界は所謂「女性」から観た「ヤクザもの」や「格闘技」などと同様に追随を許さないものになっているようにも思う。

媚びればイイ、ということではないですが、そこを売りにされるように感じてしまうと同じことのように思います。

「ハードボイルド/ハードラック」ということで、そういうことなのかもしれません。

アフターダーク

アフターダークアフターダーク
村上 春樹

講談社

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先月、文庫におちた村上春樹氏の「アフターダーク」を読み始める。

村上春樹作品は、文庫モノは全て読み続けている数すくない作品郡ですが、不思議と彼の小説は一般でいうところの大作(文庫で600ページ以上くらい)が普通の長編、長編(350ページくらい)のものは短編、という感じがする。単に文体が軽いからかもしれませんが。

350ページくらいの長編では、登場人物の設定の説明だけで全体の半分以上のページを割いてしまっている印象があり、それ以外の「本当に読みたい部分」の分量に物足りなさを感じる。

オチというか尻切れで終わることは仕方ないにしても、そこに至るまでの描写はじっくり読ませてほしいものです。

シンプルな情熱

シンプルな情熱シンプルな情熱
アニー エルノー

堀 茂樹・訳

早川書房
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アゴタ・クリストフの訳者、堀茂樹氏つながりで同じくハヤカワepi文庫のアニー・エルノーに挑戦。

結果的にはあまり楽しめませんでしたが、ある人にとっては「恋愛はサイケデリックだ」ということを思い知りました。

文体は堀氏もあとがきに書いているように「客観的」といえばそうですが、喰いついてしまうような魅力は感じられなかった。

アゴタ・クリストフとアニー・エルノー、同じ訳者でともに女流作家ではありますが、全然違う、という当たり前のことを実感。

デウスの棄て児

デウスの棄て児デウスの棄て児
嶽本野ばら

小学館
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「ミシン」「世界の終わりという名の雑貨店」などの嶽本野ばら氏による、江戸時代の天草四郎を描いた、歴史小説、というより時代小説。

映画でもそうですが、作品のなかで成功する人、失敗する人、生き残る人、死ぬ人、結果的にそれぞれ描かれるわけですが、どのようなキャラクターの人物がどうなるのか? というのは作者の倫理観が反映されるところだと思う。

この「デウスの棄て児」でもそんな倫理観が垣間見られた。自分がその作家(作品)を好きになれるかどうかはこの倫理観によるところが大きいように思う。

「こんな奴には死んでもらいたい」と思う人物は実際に死んでいくし、「生き残ってもらいたい」と願う人物は生き残っている。

この倫理観は初見でハッキリ解かるもの、かつ、異なる層になることはあるが、そう変わるものでもないので好きな作家ならば基本的に安心してたのしめることになる。そこであらたな刺激が得られるかどうかはその作品のクオリティー次第ではありますが。

内容とはまったく関係ありませんが、そんなことを思った一冊です。

アルゼンチンババア

アルゼンチンババアアルゼンチンババア
よしもとばなな

ロッキングオン
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書店でもひときわ目を惹く、奈良美智さんの魅力的な装丁の本。

「アルゼンチンバナナ」ではなく「アルゼンチンババア」という題名に???ととりあえずひっかかる。

さらに帯には「映画化決定!」の文字が見え、衝動買いしてしまった。

吉本ばななさんの作品は昔「哀しい予感」「キッチン」「つぐみ」などを読んでいたのですが、最近は、というか、ここ10年以上、すっかりご無沙汰だった。

森田芳光監督の映画「キッチン」は案外好きなテイストだったのですが、今回の「アルゼンチンババア」は自分なりのひっかかりを感じぬまま終わってしまった。

思えば、吉本ばなな作品とは相性があまり良くないようで、自分的には価値を見出さないエリアがクローズアップされている感じを今回思った。

特に「許せない!」などと思うことはまったくないのですが、何かを待っているうちに全てが素通りしていってしまうような感じで、好き嫌い以前の問題のように思う。

映画化が決まるということは、少なくとも製作サイドでは「映画にする価値がある」とふんだはずだ。
とりわけ難しいわけではないと思うが、自分には想像もつかない食いつきもあるんだ、ということを考えた一冊。

自分が持っている、奈良美智さんのイラストTシャツ。これ着ていたら吉本ばななファンだと思われてしまうこともあるのかと考えると少し複雑。

縁切り神社

縁切り神社縁切り神社
田口ランディ

幻冬舎 2001-02
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ネットコラムニスト? の田口ランディ氏による、表題作「縁切り神社」を含めた短編小説集。

「縁切り神社」は実際に京都にあるようです。自分の都合の悪いときだけ神様にお願いする、という行為の代表のような気もしますが、キャッチーなネタであることは確か。

この作品は幻冬舎の「Web.Magazine」にアップされていますが、文体も軽く読みやすい。ランディ氏の短編小説はいわゆる小説の文体というよりWebの文体なのでしょう。ひっかからずに読み進められます。

でも、「ひっかかる」ってある意味「文学的」なことでもあるように思うで、そこらへんが、「中身が無い」というか「浅い」感じがするのですが、そこがランディ作品の良さのような気がします。

「人の死」を扱っているのに、だからこそ、その軽さが気になるのかもしれません。

でも、次は彼女のエッセイも読んでみたくなりました。

シシリエンヌ

シシリエンヌシシリエンヌ
嶽本野ばら

新潮社
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“これほどまでに美しくも悲しい官能小説がかつてあっただろうか?”というこの本の帯にあるコピーは、著者本人が作品を書き上げる前に考えていたとのことですが、のっけからの激しめの描写に「下妻物語」の著者なのに・・・、と、とても生々しい印象を受ける。

とはいえ、イヤラシイものには目が無い私はその描写にしだいにのめり込んでしまったのですが、「館」の描写あたりからそのスピード感が落ちてしまったように感じる。

全体のプロットについては「あと10ページしかないのにどういうオチをつけるつもりなのだろう」と心配してしまいましたが、不満に思うようなそれではなかったのは安心してしまった。

個人的には、かつて自分も愛用した8ミリカメラ「フジZC1000」や「フジZC800」でハンディキャップ女性達の「ブルーフィルム」を撮っているシーンなどは機材を含め情景が変にリアルに想像できてしまい、うれしい、というか、不思議な気持ちになります。

この「シシリエンヌ」は著者が未知の領域に挑んでいる気持ちは伝わりますが、小説として完成度に欠けているようにも思う。でも、完成された小説なんて好きでも何でもないのですが。


■Yahoo! ブックス
嶽本野ばら「シシリエンヌ」インタビュー

昨晩お会いしましょう

昨晩お会いしましょう昨晩お会いしましょう
田口 ランディ

幻冬舎
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田口ランディ氏作品は中原俊監督の映画「コンセント」をテアトル新宿で観て衝動を覚えて以来3部作にのめり込んだのですが、熊切監督の「アンテナ」、は未だに観れていないのですが、近い将来に必ず観たいものです。

3部作を読み終えると、他の作品が読みたかったのですが、エッセイばかりで長編が見つけられず何年も経ってしまいました。この「昨晩お会いしましょう」は短編集ですが、「読ませる展開力」に期待して購入。

読み終えると短編小説というよりはエッセイに近いような後味な気がする。ハッキリいうとどこかもの足りない感じなのですが、ページを繰る重さはなくすぐに終わってしまう感じ。

凄いのか単に中身がないだけなのか判断がつかないので、ランディ氏の他の作品も読んでみようかな。


「田口ランディ」公式サイト
http://www.randy.jp/


それいぬ
正しい乙女になるために

それいぬ―正しい乙女になるためにそれいぬ
正しい乙女になるために

嶽本野ばら

文藝春秋
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当初、国書刊行会より出版された、嶽本野ばら氏の初期、フリーペーパー時代? に掲載されたエッセイをまとめた、氏の原点というべきエッセイ=エッセンス? 集。

「エミリー」「ミシン」「世界の終わりという名の雑貨店」「鱗姫」「カフェ小品集」など、今、野ばら作品を数冊読んだ後にこの「それいぬ」を読むと、著者本人も認めているように、後に小説となるネタが満載です。

どこかのレビューで読みましたが、最近の洗練された嶽本野ばら作品に物足りなさをを感じる人は必読です。ちょっとリキミのある感じがまた好印象です。

サラリと読むこともできますが、じっくりと何度読んでも読む度に新しい発見がありそうな、強度のある作品です。

ツインズ
続・世界の終わりという名の雑貨店

ツインズ―続・世界の終わりという名の雑貨店ツインズ
続・世界の終わりという名の雑貨店

嶽本野ばら

小学館
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Amazonのレビューなどでとっても評判の悪い嶽本野ばら氏の「ツインズ―続・世界の終わりという名の雑貨店」を鑑賞。

読んでみると何故評判が悪いのかが理解できるような気がする。

主人公が白目をむいて口から泡をふくような生々しいものはいわゆる嶽本野ばらの読者は好まないような気がする。

同じ描写でも心構えのような準備があれば違う結果になるとは思うのですが。

でも、この主人公の女の子、僕が「こんな娘が近くにいたら嫌だな」と思うようなそのもののような気がして、違う意味目が離せなかった。

心地よいカタルシスは得られなかったけれど、ページをめくる指の重さは軽く、文句を思いながらも中断することなく読みきってしまった。


鱗姫

鱗姫鱗姫
嶽本野ばら

小学館
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2001年単行本化された作品の文庫版。

帯は「ホラー小説」のようなキャッチでしたが、そもそも「ホラー小説」を読まないのでどんなものか解からないまま鑑賞。

経験的には「楳図かずお」漫画の画が浮かんでくるような作品。

楽んで一気読みでしたが、「ミシン」や「世界の終わりという名の雑貨店」のような、なんというか人間の内面描写が薄く感じてしまう。「下妻物語」と同じくらいの程度だろうか。

ジャンル的に仕方のないことなのかもしれませんが。

例によって「尻切れ」な感もあるので、続編の可能性もあるかもしれない。

読む者にページを繰らせる力はさすが。

ミシン

ミシンミシン
嶽本野ばら

小学館
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「ミシン」という作品一編が収録かとおもいきや「世界の終わりという名の雑貨店」という聞き覚えにある作品がメインで「ミシン」も収録、といった感じになっていたことには驚いた。

「世界の終わりという名の雑貨店」は何年も前にビデオで鑑賞した記憶があって「役者はいいけどとても低予算な日本映画」だと思った記憶がある。誰のために撮られた作品なのかよく解からなかったのですが、今思えば「嶽本野バラ」作品の映画化だったということか。

縁あって原作を読むことができたので、今度また映画版を観てみようと思う。

まったくもって忘れてしまっているのですが、映画版「世界の終わりという名の雑貨店」は観ているはずなのに、原作を読んでいて、ところどころ、西島英俊さんや高橋カオリさんのまなざしなど、映画版の画は思い出すのですが、先の展開がまったく読めななかった。「こんな話だったんだ」という感じでしたが、それは僕がいつもプロットを軽視してしてしまっ全くて記憶に残っていないからだろうか。

「ミシン」はどうも「ナナ」を読んでいる感じと似ている、というか、「下妻物語」もそうでしたが「女の子同士の友情」を描こうとする、と自ずとキャラクターの設定などが似てくる、ということなのかもしれない。

カフェー小品集

カフェー小品集カフェー小品集
嶽本野ばら

小学館
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「エミリー」に引き続き鑑賞。

他のレビューなどを読むと嶽本野ばら氏の文章は「くせがある」というようなことが書いてあったりしますが、すこぶるナチュラルに鑑賞。

最近はあまり開拓できていが「そういえば自分は喫茶店(カフェー?)好き」であったことを思い出す。

「カフェー小品集」とのことですが、それぞれの喫茶店での恋愛エピソードなどがエッセイのように連ねてある。普段、活字は字幕か小説ばかり読んでいるせいか意外に新鮮に思えた。

登場する喫茶店のなかの3件ほどは個人的に利用したことがあるだけに、その場の情景が思い浮かぶのと同時に、著者の嶽本野ばらさんもその場所にいた、という事実が作品に親近感を湧かせる。

ちなみに、先日、何年も前に入り口までま行ったけれど入ったことがなかった喫茶店にはいることが出来た。

思ったより素敵な雰囲気で雪のカマクラの中にいるような感じで間接照明に包まれている感じが心地よし。

エミリー

エミリーエミリー

嶽本野ばら

集英社
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嶽本野ばらさんは、映画「下妻物語」の原作者としてその存在を知ったのですが、この作品は久々にみつけたヒット。

「読もうかな」と思う小説が新潮社文庫、講談社文庫などの大手出版社のものに制限されていたことを痛感。それは結果的に「芥川賞」や「直木賞」「江戸川乱歩賞」などの大きな賞の受賞作家しか読もうとしていなかったのだと反省。

映画ならば、有能なプロデューサーがついて作品を制作できれば、少なくとも映画館での上映は過去の偉大な作品群と同じように可能だ。

受賞云々はコンペティションや興行収入などによって決まるが賞を受賞できなくてもとりあえずロードショーは可能だ。「・・・映画際正式出品作品」という肩書きでも上映はできる。

小説は文学賞と大手出版社が権力をもっていいるので、彼らがよいと認めなければ世に出回る可能性は低い。

そんな次元にかまけていた自分が恥ずかしくなってしまうくらいタカモトノバラ氏の「エミリー」は久々にプロットも自分好みな作家で、めずらしくドキドキしながら読んでしまった。読者としてだけでも出会えて良かった。

小説やエッセイも小学館や集英社から文庫におちていました。ふだんあまりチェックしていない棚だったのですっかり盲点を突かれた感じ。

蛇にピアス

蛇にピアス蛇にピアス
金原ひとみ


集英社
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金原ひとみさんの小説は「アッシュベイビー」がお初でしたが、個人的にはこの「蛇にピアス」の方が好みでした。

いままでは多和田葉子さんの「犬婿入り」など、賞を受賞した作品は他の受賞していない著作と比べて全く面白くないことが多かったので驚きでした。自ずとハードルを下げていただけかもしれませんが。

読んだ後、作品の毒っ気がじんわりと沁み込む、気持ちいい作品。

快楽であたしたちはできている

快楽であたしたちはできている―おんなの子のエロとラブ快楽であたしたちはできている
―おんなの子のエロとラブ


安彦麻理絵・著

光文社
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最近になって、映画「亀虫」でその姿を初めてみることとなった、女流漫画家・安彦麻理絵さんのエッセイ集。

内容はマンガのそれと同様ですが、読んでいると「一緒にお酒を飲んでいる」ような気がしてきます。「エッセイ」って縁がなかったのですが、ジャンル的にそういうものなのかもしれませんが、安彦さんの「ぶっちゃけ具合」がそう感じさせる気がします。

文庫版になる前の単行本が書かれたのはたぶん90年代で、今読むとネタの固有名詞が少し古い感がありますが、安彦漫画が好きな人は楽しめる一冊。

学生時代や「メイド・イン・山形」「メロドラマチック」「臍下の快楽」など比較的初期の作品の頃の安彦さんの生活っぷりなどもうかがい知れて面白い。

自分の感性や考えを、既成の枠組みにとらわれず表現しようとする姿勢に共感を覚えてしまいます。そして哀しい。

語っていることは表層的というか笑える感じですが、どこかストイック感が漂っていて魅力的な作家です。

昨日

昨日昨日
Hier
アゴタ・クリストフ
Agota Kristof
堀茂樹・訳

早川書房
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「昨日」は「悪童日記」「ふたりの証拠」「第3の嘘」と続いた3部作とは独立した作品。フィクションですが、移民の登場人物が多いことや工場労働での描写などで、作者本人の自伝的要素もあるとされる作品。

2001年にはイタリア・スイスの製作でシルヴィオ・ソルディーニ監督により「風の痛み」という題で映画化されている。小説よりもラブストーリー的な要素に焦点があたっていそう。

この映画、パッとしない邦題ですが、映画版原題の直訳。身の回りのツタヤには置いていないので買うしかないのかな。

小説は、以前の3部作と比べると、ストーリー展開は明確で、かつ、文体等の体裁も所謂小説になっていて読みやすい。普通に考えて、映画化には一番向いているように思う。

親しい人に対しても「言わない」と決めたことは口にしない、という美徳を思い出させてくれた作品です。近々DVDをゲットしたいものです。


■「風の痛み」公式サイト
http://home.m02.itscom.net/rakusha/kaz/

第三の嘘

第三の嘘 第三の嘘
Le Troisieme Mensonge
アゴタ・クリストフ
Agota Kristof
堀茂樹・訳

早川書房
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「第三の嘘」はとにかく刺激的な一冊でした。

「悪童日記」「ふたりの証拠」で現れた謎・伏線がこの「第三の嘘」でどう解かれるのか? などと期待しても報われることはないので、不快を感じる人も多いかと思いますが、「悪童日記」から一貫した客観的な描写と、特に「第三の嘘」の第二部での語り手の描写には、頭がくらっとくるぐらい驚きがありました。小説を読んでいて初めてかもしれません。

ただ、内容的にはこれも一貫して暗く、ブラックな雰囲気がにじみ出ているので、好みは分かれるのかもしれません。

個人的には著者のアゴタ・クリストフが世界をどのように認識し、作品に反映させているのかが気になって仕方がありません。彼女はいったいどういうつもりで作品を書いているのでしょう?

ふたりの証拠

ふたりの証拠ふたりの証拠
La Preuve
アゴタ・クリストフ
Agota Kristof
堀 茂樹・訳

早川書房
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「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」と続くアゴタ・クリストフ三部作の第二作。

「悪童日記」と比べると形式的に一般の小説に近いが、淡々とした客観的な文体はそのまま。

個人的には「悪童日記」の方が好みですが、「読み物」としてはこちらの作品の方が所謂、小説的な体裁をとっているので好みはあるのかもしれない。

さまざまな登場人物とのエピソードが語られているが、訳者の堀氏は解説で「より重層的になった」と書いているが、「重層的」というよりは「尻切れ」になってしまっている感があるように思う。

期待は第三作に持ち越しです。

嫌われ松子の一生

嫌われ松子の一生 (上)嫌われ松子の一生 (上)
山田宗樹

幻冬舎 2004
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嫌われ松子の一生 (下)嫌われ松子の一生 (下)
山田宗樹

幻冬舎 2004
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本編を観る前に、その原作を読んでも、大概、自分で作ったイメージと実際の映画の差異にげんなりしてしまうことが多いのですが、それを承知で「鑑賞者」ではなく「作り手」の気持ちで、製作前の脚本を読む感じで原作に挑戦しました。

経験的には9割くらいは原作を先に読んでしまうと映画は楽しめないのですが…。そもそも小説自体を楽しめることも少ないといえば少ないのですが…。

文庫版の「嫌われ松子の一生」は上下巻本なのですが、上巻の120ページくらいまでは「何がどのように語られるのか」がわからずとても辛い時間を過ごした。真面目なのにうまく生きれない女性をイタイ感じで描く、というプロットは思い出したくもない嫌なこととをつい思い出してしまうので、とても嫌いなのですが、他の登場人物も「思慮」に欠ける人物が多く、出てくる人がほとんど嫌いな感じの人で、自分が嫌われ…になってしまいそうで、勝手に身に積まされてしまいました。嫌な思いまでして小説を読み進める必要はあるのか? と問わずにはいられませんでした。

途中から「楳図かずお」だ。と思うようになってからめくるめくエピソードが待ち遠しくなり、後半までのスピーディな展開に魅了されてしまいました。

構成は「映画的」というか、時間や話法が凝っていて面白かったのですが、結果的に同じエピソードの説明の重複がだるい部分もありました。

読み始めたときは「何がこんなに嫌なのか」がわからなったのですが、面白くなるうちにしだいに自覚的になり、その感じは、変な気もしますが、自分にはカタルシスでした。

映画化は自体はある程度のお金があれば難しくはない、というか、面白くなる要素は多いと思いますが、中島哲也監督がこの小説をどう映画化しているのかが俄然気になります。

原作のエピソードをただ2時間に凝縮してもそれが映画的に面白いとは限らないし、こういう作品は、画作りに凝ってもあまり報われないだろうし、登場人物が多いのでうまく魅せれば、NHKドラマ「おしん」のような「お涙ちょうだい」的な「国民的映画」になってもおかしくないとは思うのですが、綺麗だけど、どうも存在感の薄い中谷美紀さんの主演では難しいかな…と辛口なことを思ってみたり。

悪童日記

悪童日記悪童日記
Le Grand Cahier / Agota Kristof
1986年(フランス)、1991年(日本)
アゴタ・クリストフ/堀茂樹 訳

早川書房
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最後に読んだのはいつだったか思い出せないほど久しぶりの翻訳小説。

翻訳ものって映画も少しそうだけれど、読んでいて勢いにのりにくい。ダイレクトに身体に入ってくる感じがあまりしないので、なかなか読む機会が少なくなってしまいました。映画だったら「画」がありますが、とかく「文字」だけだと……。

とても珍しいことなのですが、読みやすいにもかかわらず、読んでいて驚きの多い作品でした。翻訳ものだからかもしれませんが、演劇的なセリフ回しは多少気になりましたが、展開・落としどころに関しては舌を巻いてしまいます。

あと「辛辣なこと」「セクシャルなこと」「グロテスクなこと」の描写に結果的にエレジーが感じられ、感覚的にはワンクッションなして鑑賞できる。

堀氏の訳語では題名は「悪童日記」だが、内容を考えるとあっているようには思いますが、これだとジャン・ジュネの「泥棒日記」の二番煎じ、みたいになっってしまいかねないので、「ル・グラン・カイエ」でいいんではないかと思うのは私だけでしょうか。

2days 4girls

2days 4girls2days 4girls
村上 龍

集英社

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最近、集英社から文庫になった、村上龍氏の2000年~02年に「小説すばる」に発表された小説。

この小説、構成は面白いと思うのですが、どうなんでしょう。文学的な評価は村上龍氏の近年の作品群のなかでは高い、という位置づけになるのだろうか。

個人的には「矢崎」などが登場する一連の作品が好みだったのでそういう内容を期待していたのですが、内容的には遠くないのですが、一見説明的でナチュラルだけど結構強引な「展開」で読ませる、よりは「形式的」になっているように感じました。この内容ならば1/3の文字数でコンパクトにまとめることも可能だったのでは、とも思います。

映画もそうですが、小説も「展開」を魅せるだけのものではありませんが、近年の村上龍氏の作品にはおのずと求めてしまいます。

なかば強引ではありますが、それとちょっと言葉にしにくいような事柄を普遍化するところも読んでいてつい「そうかもね」などと思ったりして楽しんでしまいます。

この作品を機に「新たな局面に」なんてことがあれば新しい期待を持てるのですが……。


■「Japan Mail Media」
村上龍氏が編集長を務めるメールマガジン
http://ryumurakami.jmm.co.jp/

ねじまき鳥クロニクル

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編ねじまき鳥クロニクル
〈第1部〉泥棒かささぎ編

村上 春樹

新潮社
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ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編ねじまき鳥クロニクル
〈第2部〉予言する鳥編

村上 春樹

新潮社
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ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編ねじまき鳥クロニクル
〈第3部〉鳥刺し男編

村上 春樹

新潮社
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5年程前にハードカバー版を1冊だけ読んで挫折してしまった。村上春樹の小説としては初めての体験でしたが、気を取り直して再チャレンジ。

去年「海辺のカフカ」が文庫になりそのときは久々の村上春樹の文章でしたが、今回はどちらかというと「羊をめぐる冒険」や「ダンス・ダンス・ダンス」などが頭にちらついて、つい比較しながら読んでしまいました。どちらも高校生の時とかだったので「当時の印象」というようなものしか覚えてはいなかったのですが。

結果的には「読んでいる最中は面白かったが、読み終えたときの満足感はそれほど高いものではなかった」という感じです。映画でいうならば3時間オーバーの長尺モノですが、たくさん登場人物が出てきたわりには、そのつながりは薄かったのでは、という感じがしてしまいます。

ただ、「戦争」「中絶」などの扱いにくいテーマをうまく村上ワールドの中に組み込んでいる感じはとてもしました。「風の…」「…ピンボール」「羊を…」などと比べても単純に主人公の年齢が高くなったからかもしれませんが、物語の中の社会性や、人物像の描写がちゃんとしてきているように思いました。

上中下巻もので一息に読めてしまう作品なんて少ないので貴重な作家の1人です。

アッシュベイビー

アッシュベイビーアッシュベイビー
金原 ひとみ

集英社

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思わぬタイミングで読むことになりました。自分で選ぶとつい読んだことのある作家のものがおおくなってしまうので新鮮でした。

読み終えて気づいたのですが、金原ひとみさんって、あの数年前の綿谷りささんと同時に、村上龍氏が選考委員だった時の芥川受賞者だったのですね。

綿谷さんの方は、「インストール」が映画化されたり、「なんとなく大学の後輩」的な感じで「今年卒業するらしい」など情報は入ってくるのですが、(ということは学校には行っていたということか)、なぜか金原さんはすっかりノーマークでした。

率直にこういう作品は「好きです」。「殺してください」などと口走ってしまいそうですが、次は彼女の400ページ以上の長編を読んでみたい気持ちになりました。

こういう作品は小説の特長を映像で表現するには向かないかもしれません。情景を忠実に再現してもきっと面白くないので主演次第だとは思いますが、独自の脚色が不可欠かもしれません。

表紙のハンス・ベルメールの写真がなつかしくもありました。

惜春

惜春惜春
花村 萬月

講談社

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ふと、お茶の水の丸善をふらふらしていたら、新しい花村作品の文庫を発見。即購入。

読み終えて、まず、素直に「雄琴」とググってみると出るわ出るわソープ情報。

吉原がそういうところだということは知っていたのですが、雄琴は知りませんでした。巣鴨生まれの私は、巣鴨が「ピンサロの発祥の地」であることはどこからか聞いていたのですが、滋賀県にそんなところがあったとは…全く知らなかった自分にびっくり。

さて、内容です。いつもの花村作品のように、じんわりと切なくなる感じ、はありましたが、この作品は対個人のそれ、というよりむしろ、主人公の佐山豊の取り巻く人々のそれ、の感が強いと思う。

主人公の設定が「苦悩する童貞青年」なのでそうなったのかもしれませんが、人と人の、男と女の、関わり、交わり、という点では、良くも悪くもさらりとしているように思う。

この作品はいやらしくて、えげつないけれど、若気かもしれないけれど、救いがないわけでもないけれど、読んでいると、長く生きること=醜いこと、のような単純な図式が頭をよぎる。美しいのは必死で何かに向かっている時だけなのかなと思う。というか、その最中には美にも醜にも気づいていないだけなのかもしれませんが。

欲望

欲望欲望
小池 真理子

新潮社

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「欲望」というとつい、イタリアのミケランジジェロ・アントニオーニ監督の「Blow Up(欲望)」を思い出したりしますが、こちらは和モノ。

去年、篠原哲夫監督によって映画化された原作の小説。作者は「恋」で直木賞を受賞した小池真理子氏。

映画の予告編などで、「avec mon mari」での演技が初々しかった」板谷由夏さんや高岡早紀 さん、村上淳さんなどが出演することを知り。がぜん興味を惹かれていたが映画館へ行きそびれてしまった。

逆はいいけれど、原作ものの映画はたいがい、先に原作を読んでしまうと映画を楽しめなくなってしまうものですが、篠原監督を信じて先に本を読んでしまいました。DVDになってしまいますが、観るのが楽しみです。

小池氏の小説は初めてでしたが、軽く、リズムのある文体でとても読み進めやすいものでした。

「読み物」としては言葉で表すのが困難な「人間のやわらかい部分」を感じさせることができている小説で、それが読みやすさと両立しているのは、さすが、の一言です。評判はいまいちなようですが、直木賞受賞作の「恋」も読んでみようと思う。

作り手としては「受賞」することは生きていくうえでとても助かることだと思いますが、受けてとしては、つまらないものばかりが目立つのは、ひとえに審査員だけの問題なんだろうか。

♂♀(オスメス)

♂♀(オスメス)♂♀(オスメス)
花村 萬月

新潮社

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中年小説家と風俗嬢2人の3Pを主に描いたいやらしい単語満載の情動小説。花村萬月を思わせる「小説家」が夜な夜な女の家を渡り歩き情事を繰り返す。

文庫化されている花村作品はだいたい読んでいるはずなのですが、この「♂♀」は以前途中まで読んで放置してあったにもかかわらずまた同じものを買ってしまいました。

書いたとおりどのページにもふんだんに卑猥な単語がちりばめられており電車の中で読むのは少しためらわれる本ですが、人物描写のなかの「切なさ」のようなものについ心打たれてしまいます。

単に、花村萬月作品に登場する女性達に憧れを抱いているだけかもしれませんが…。

愛しのチロ

愛しのチロ愛しのチロ
荒木 経惟

平凡社

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アラーキーこと荒木経惟氏の写真集。かなり前になりますが、新宿東口にあるBAR「DUG」でブルーの水玉のシャツを着て元気に飲んでいるのをお見かけしたことを思い出します。

その店にはよく来ているようでとてもくつろいでいらっしゃったのが印象的です。

さてこの本の主役の「チロ」ですが、よくあることではあるかと思いますが、ウチの飼い猫に結構似ていて、人の猫を観ている気がしませんでした。

ページを捲っていると「ウチの猫がアラーキーのお腹の上で寝ている!」と思ってしまうような調子でついニヤニヤしながら観てしまいます。

幸荘物語

幸荘物語幸荘物語
花村 萬月

角川書店

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単行本「吉祥寺幸荘物語」の改題文庫版。

「小説家志望」の男の子が主人公の青春物語。どの作品だったか忘れてしまいましたが、主人公がパン工場で働いている作品を思い出したが、それと比べると、読んだ印象は、たしか長編処女作「ゴッドプレイス物語」に近く、青春のさわやかさ、光と影、が現れていた。

ただ、読んでいる時はあまり気づかなかったけれど、この作品も桐野夏生さんの「冒険の国」の時と同様に、伏線となっているエピソードがなんとなく先の予定調和を予感させてしまうような気もしましたが、読んでいる最中はそういうことも含めて楽しんでいたのかもしれない。そういう意味でも安心して読める物語だった。

花村作品に頻繁に見られる「自尊心」は彼が構築しようとする倫理観の中で不可欠な要素だと思いますが、とてもわかったような気になりつつも、はっきりとはわからない、なかなかやっかいな問題です。

冒険の国

冒険の国冒険の国
桐野 夏生

新潮社

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久々の桐野夏生さんの作品でした。「天使に見捨てられた夜」「ファイヤーボール・ブルース」「柔らかな頬」などしばらく前に乱読していたのですが、しばらくぶりになります。「OUT」は映画化もされ話題になりました。

この「冒険の国」はかなり初期の長編作品(長編処女作?)ですが、文学賞の受賞は逃したものの、一連の桐野作品にみられる「シニカルさ」がすでに存分に現れていました。この文庫版は当時の発表原稿に手を入れて「文庫オリジナル版」となっています。

約160ページで「長編」というより「中篇」という感じですが、著者の他の長編と比べると、「ネタ」と「ネタ」のあいだにアソビがない、というか、全体の構成上必要な要素があからさまにそこにある、感じが少しします。

「中篇」の難しいところでしょうか。著者はずいぶん前に書いたもので、その未熟さに読み返すのが恥ずかしかったようですが。

もののたはむれ

もののたはむれもののたはむれ
松浦 寿輝

文藝春秋

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大学時代に、この本の著者、松浦寿輝氏の『平面論』を読んではいたのですが、小説も発表していた、というか芥川賞作家であることもつゆ知らず、会社の昼休みに神保町の三省堂書店で文庫版を購入。

内容は自分好みの「幻想的」な艶めかしさいっぱいの短編集、というか連作集。

文庫版の解説を書いている三浦雅士氏によると「小説によって小説の不可能性を書いている」よう。

現実世界の近くにある「夢現の世界」に興味のある方は楽しめる作品だと思います。泉鏡花や谷崎潤一郎や川端康成や澁澤龍彦らのように全集が古本屋に並ぶような「古典」にはなっていませんが、クオリティーは高いと思います。

彼のように日本語が扱えたら、映画を撮ろう、となんて考える必要もないだうなぁ。などと思ってしまいます。

悪魔のパス 天使のゴール

悪魔のパス 天使のゴール悪魔のパス 天使のゴール
村上 龍

幻冬舎
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最近ようやくイタリア、セリエA、フィオレンティーナからイングランド、プレミア、ボルトンへ正式に移籍が決まった中田英寿選手ですが、この小説は後書きで中田選手本人が書いているように彼のWebサイトに連載されたものを小説(紙媒体)にまとめたもの。

現実の村上龍氏と中田英寿選手の間柄を想像しながら読んでも楽しい本ですが、彼のサッカーの描写は、「エクスタシー」や「ピアッシング」に通ずるものがあったようにも思う。彼独特の「切迫感」のようなものの描写が「サッカー」にもハマッたということか。

小説中の舞台はおそらく中田選手のペルージャ時代のエピソードなどがメインになっていて、今の彼の存在感と比べると「初々しさ」があるように思う。懐かしかった。


ヴァージン・ビューティ

ヴァージン・ビューティヴァージン・ビューティ
斎藤 綾子

新潮社
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新潮文庫の「Yonda?ストラップ」欲しさになるべく「いやらしさ」を求めて購入。

女性の視線で書かれた「いやらしい」短編を7編収録。

文庫版の表紙は漫画家の安野モヨコ氏が担当しているだけあって行為自体はそうではないですが、あっさりとした読み心地でからりとしている。変に濃ゆくないのでテレビの深夜ドラマなどでいけそうな感じがする。

あと、「いやらし」くて「グロテスク」な割にさらりと読めてしまうのは、文庫版のあとがきにも書いてあるように、文章のリズムがとてもよいからなんだろう。

出口のないくどいところで留まらずそれはそれとしてリズムよく描いていることによると思う。大人版「ハッピーマニア」?

ニッポニア・ニッポン

ニッポニアニッポンニッポニアニッポン
阿部 和重

新潮社
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たしかようやく最近「芥川賞」を受賞した阿部和重氏の著作。

読み終えると、漠然と期待していた「インディビジュアル・プロジェクション」や「アメリカの夜」や「ABC戦争」のような「臨界感?」は感じなかった。

あってないような作者の作為をうっすらと感じながら読み進める感じが新鮮に感じた。現代文学っぽいということか。

この作品を映画化するならば、主人公の心理描写はモノローグで、役者は設定と年齢はずれるが西島秀俊さんあたりでいけるように思う。インディーズ映画向けの原作ということか。

ただ根本的な大問題は、今は別に「トキ」の言葉にアクチュアリティがあるわけではないことと、その実写を撮ることは不可能のように思うので、そこらへんがうまくできそうにないからという理由から「パロディー」「コメディ」に予定調和的になってしまいそうなので、そこらへんをどうクリアすべきか。ところのような気がする。

ブエナ・ビスタ 王国記2

ブエナ・ビスタ―王国記〈2〉ブエナ・ビスタ―王国記〈2〉
花村 萬月

文藝春秋
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花村萬月氏の芥川賞受賞作となった「ゲルマニウムの夜」の続編小説。だいぶ前に買ってはいたんだけどしばらく放置してようやく読めました。

萬月=長編、の頭があったため「勝手に長編だ」と思いこんでいて、正直、半分で1編が終わってしまった時にはかなり拍子抜けした。萬月作品の中では、登場人物が庶民的でない、というか、わかりやすく落伍者ではないためか「真面目」な作風だった印象。

今のままの萬月も好きだけれど、もう少し全般的にストイックになったらどうなるのだろう、などと考えてみた。

硬い文体で。柔らかい文体が読みやすいのが特徴の作家のようにも思うのですが、澁澤龍彦の小説ばりの硬~い文体で書かれた花村萬月作品も読んでみたいものです。

空港にて

空港にて空港にて
村上 龍

文藝春秋
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久々の村上龍作品でしたが、言われてみると読んだのはどれも長編ばかりで、今回のような短編集は初めてのような気がする。

どの作品も「映像」が頭に思い描きやすい表現になっており、これは後書きを読むと龍氏の近代日本文学に対する彼の考え方が現れているように思う。

基本的に映画もそうだけど「心にのこる短編」というのはほとんどないんだけど、この本の最後に収録されている、表題にもなっている「空港にて」はなかなかよかったです。

あまり関係ないのですが、龍氏の作品に限ったことではないのですが、文学の善悪って何なんだろう、ということをたまに考える。

映画などもそうだた思うのですが、最終的にはその作品に触れた末端の読者や観客にとって「善い」作品ならばその数に応じて善い、ということになるとは思うのだけど、そこのスタートラインを左右しかねない批評家や学者、出版社などがある程度の価値付け、を新人賞や他の文学賞などで決めるけれども、なんだか「馬鹿みたい」というかシラケた気分になってしまうことがある。

売れた方がその作品に関わる人々の生活を含めて「幸せ」になる確率は高いと思うのですが、そういうわかりやすい作品はとても「媚び」が現れているように思い、あざとさを感じてしまうことが大半だ。

かといって、ナルシスティックに「我が道」を行かれてしまっても「そんなことは一人で個人的にやってくれ」と思うことも往々にしてある。

権力のある者が「善い」といってもその感性に迎合するのが手間に感じてしまう時などはなおさらそんなことを思ってしまう。

スタイル?スタンス?なかなか難しいね。

鬱
花村 萬月

双葉社

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花村萬月の著作。

ある小説家志望の男の子の青春もの? 600頁弱だったと思うけど長さは気にならない。先に先に「読ませる」文章力は健在。本人は「ガス抜き」的にこの小説を書いた部分もあるよう。

他の花村作品に見られるように「ニーチェ」や「キリスト教」についての言及が節々に見られ、娯楽(性楽?)作品にそれ以上の世界観を与えている。

そのニーチェなどの言説が小説のコンテクストの中で語られる手法だけれど、苦にならない、というよりすんなりと入ってきて気持がよいのです。

海辺のカフカ

海辺のカフカ (上)海辺のカフカ (上)
村上 春樹

新潮社

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海辺のカフカ (下)海辺のカフカ (下)
村上 春樹

新潮社

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村上春樹を読むのは3部作など、高校時代にハマッたけど、「ねじまき鳥クロニクル」を挫折して以来になる。

読み終えて以外と残っているのが「性描写」。意外と彼の作品からそれを取ってしまうとかなりのリアリティー、というか魅力が失われてしまうのでは…。

夢中になって読み進め、読み終えたものの、物語の中で解決されていない事柄がけっこうあったと思う。

そういうものも含めて「余韻に浸れる」感はあるが、続編はないかもしれないけれど、短編などでまた姿を現すことになる気もします。

タナトス

タナトスタナトス
村上 龍

集英社

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村上龍氏の著作。「エクスタシー」「メランコリア」と続く「エロス3部作」の最終章。 「限りなく透明に近いブルー」「コインロッカーベイビーズ」「海の向こうで戦争が始まる」「愛と幻想のファシズム」などの初期以降の作品では「エクスタシー」「ピアッシング」が特に好きだったのでそういうものを期待して鑑賞。結果満足。

3部作が完結したとすると今後はどんな作品が発表されるのかが期待される。「エロス」をテーマとした作品が終わってしまったことは少し残念。

村上龍氏の映画「東京デカダンス」(原題『トパーズ』)も予想以上に良かったことを思い出しました。

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