イタリア映画

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去年マリエンバートで

去年マリエンバートで去年マリエンバートで
L'anne'e dernie're a' Marienbad
1960年/フランス・イタリア/94分
監督:アラン・レネ
原作・脚本:アラン・ロブ・グリエ
撮影:サッシャ・ヴィエルニー、音楽:フランシス・セイリグ
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ジョルジュ・アルベルタッツィ、サッシャ・ピトエフ、他
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たしか大学1年の時に観て多大な感銘を受けた映画の1本。 当時、映画はもとより熱心にフランス語に励んでいただけに「・・・jardin du Luxembourg・・・」くらいの言葉でもその言葉の響きにうっとりとしていた記憶がある。小規模映画の臭いがぷんぷん漂うところも好印象である。

しかもうっとりさせるのは言葉だけでななくデルフィーヌ・セイリ(ン)グの造形的な美貌にある。彼女が女優として優れているかはわからないが、ちょうどレオス・カラックス監督の「ボーイミールガール」のミレーユ・ペリエのように彼女の魅力は色あせない。ちょうど2本ともモノクロ作品であることを考えると、実物+ブラック&ホワイト特有の幻想感が混ざり合っているのかもしれない。

それに加え、原作・脚本のアラン・ロブグリエは後に自身で「消しゴム」など様々な作品の監督もつとめているが、ぬるい心理描写などを一切排除したストイックな脚本は完璧な撮影監督によって映画化されている。撮影監督のサッシャ・ヴィエルニーは後に「ZOO」「コックと泥棒、その妻と愛人」「プロスペローの本」などピーター・グリーナウェイ監督作品群の撮影を担当している。

そして監督のアラン・レネ。「ヒロシマ・モナムール」(24時間の情事)「夜と霧」などが有名だが、初期のアラン・レネ作品は野心がありかつ実験色が強い作品を発表し続けておりどの作品も目が離せない。

これら全てが一つの作品に収まっているような映画は他に存在しないし、これからもないだろう・・・。


ちなみにこの映画のDVDは現在廃盤となっており、このサイトでリンクを貼っているアマゾンでは、中古で2万5000円くらいで取引きされているかなりのレアもののようだ。

暗殺者のメロディー

暗殺者のメロディー暗殺者のメロディー
The Assassination of Trotsky
1972年/フランス・イタリア・イギリス/104分
製作・監督:ジョセフ・ロージー
原作・脚本:ニコラス・モスレー
撮影:パスカリーノ・デ・サンティス、ヴィットリオ・ストラーロ
音楽:エジスト・マッキ
出演:アラン・ドロン、リチャード・バートン、ロミー・シュナイダー、ヴァレンティナ・コルテーゼ、ジャン・ドザイー、他
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ジョセフ・ロージー監督を知らず、主演のアラン・ドロンのジャケと「暗殺者のメロディー」という邦題に惹かれて観てみることに。

まずオープニングあたりから、近年めっきり見られなくなった「ズームカット(アウト)」が連発し、70年代的なシーン作りにノスタルジーを感じる。

実際は20年の服役後にスターリンによって勲章を受けたラモン・メルカデル(ジャクソン)役を演じたアラン・ドロンのさえない暗殺者っぷりに多少辟易としたが、リチャード・バートンのスケールの大きい演技っぷりやヴァレンティナ・コルテーゼの美貌にうっとりとしてしまうシーンも多々あり、シリアスな心理サスペンスものを充分堪能する。

72年公開の映画なので、デビュー10数年のアラン・ドロンは「難しい役所に挑戦」といった感が当時はあったことが予想されるが、まわりの上記のような役者とは善くも悪くも違う存在感を放っていたように感じられた。

製作も兼ねた、監督のジョセフ・ロージーの気合いの演出が感じられる印象的な1本。

見つめる女

見つめる女見つめる女
LA SPETTATRICE
THE SPECTATOR
2004年/イタリア/98分
監督・脚本:パオロ・フランキ
脚本:ハイドラン・シュリーフ、ディエゴ・リボン
撮影:ジュゼッペ・ランチ、音楽:カルロ・クリヴェッリ
出演:バルボラ・ボブローヴァ、アンドレア・レンツィ、ブリジット・カティヨン、キアラ・ピッキ、マッテオ・ムッソーニ、ジョルジオ・マルケージ、他
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「イタリア映画」といえば、アントニオーニ、フェリーニ、ロッセリーニ、パゾリーニ、オリヴェイラ、ベルトルッチなどのビックネームをすぐさま思い浮かべますが、逆にいうとそれ以外の作家の名前はなかなか聞く機会がない。最近(2000年以降)のイタリア映画ではアゴタ・クリストフの「昨日」を映画化した、「風の痛み」があるが、いい映画だとは思いますが、作家性を感じる程の作品ではなかったようにも思う。

そんな中で、ちょっとしたいやらしさと作家性を求めつつこの「見つめる女」を鑑賞。

結果的には、まさに「見つめる女」という感じの映画で、善くも悪くもそれ以上でもそれ以下でもないように思う。ラストのあたりで「10cc」の「I'm not in love」が流れた時には正直「どうしよう」とも思ったが、「軸がぶれない」といえばそういう映画。

個人的には、こういう脚本がシンプルなつくりの映画は主演の魅力次第で作品のできが大きく変わる映画のように思う。そういう意味では、モノローグ的な恋愛感で突っ走れる感じが、精神年齢の低さを関させ、かつ、ちょっと鼻が上えを向きつつある感じが「スパイダーマン」のキルスティン・ダンストを彷彿とさせる、バルボラ・ボブローヴァはチャーミングに映っていたようには思う。

仮にこの映画、舞台が日本であっても、大学卒業直後というよりは、大学入学直後くらいの恋愛感だったようにも思うのは私だけだろうか。

ソドムの市

パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版)パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版)
Salo o le 120 Giornate di Sodoma
1975年/イタリア/118分
監督・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
原作:マルキ・ド・サド
脚本:セルジオ・チッティ
撮影:トニーノ・デリ・コリ
出演:パオロ・ボナチェッリ、ジョルジオ・カタルディ、カテリーナ・ボラット、アルド・ヴァレッティ、ウンベルト・P・クィナヴァル、他
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ベルトルッチ監督の生みの親でもあるパゾリーニ監督の遺作となった「ソドムの市」

作品名などでググると詳細な解説ページなどが数多くあるので作品分析などはそちらをご参照に。

パゾリーニ監督作品はまだ「テオレマ」しか観れていないが、この映画も「テオレマ」と同様にメタファーが効いている。

例えばキューブリック監督の「フルメタルジャケット」などの、いわゆる「追い込み系」とは違って、暗喩のようにある事柄が象徴するようなことをほのめかす程度なので、映っていることそのものを表現しているわけではないことはハッキリわかるが、体制についての反発であることはハッキリわかるのですが、個別具体的な「ココのコレに対する」と突き詰めて考えるととたんに解かりにくい。

反ナチ、というよりは資本主義というか制度、社会自体を批判しているように感じるが、実際に映っている映像はスカトロというか糞食だったり、目を刳り貫かれたり、舌を抜かれたりする拷問や、というか、そもそも若い男女が布切れ一枚まとわずに裸で映っているような光景を2時間近く観ていると、それを見る側の感覚も変化してきて面白い。

そもそもヌードといえばポルノグラフィックや医療など、ある特定の状況とあいまって認識されているが、その特定の状況ではないものが表現されたヌードはポルノとは逆にそれだけで刺激的だ。

詩人でもあるパゾリーニ監督のセックスに対する考えがこの「ソドムの市」にあったことは間違いないないはずだ。

ドリーマーズ

ドリーマーズ 特別版 ~R-18ヴァージョン~ドリーマーズ 特別版 ~R-18ヴァージョン~
The Dreamers
2003年/イギリス・フランス・イタリア/113分/R-18
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
原作・脚本:ギルバート・アデア「ドリーマーズ」白水社
撮影:ファビオ・チャンケッティ
出演:マイケル・ピット、エヴァ・グリーン、ルイ・ガレル、ロバン・ルヌーチ、アンナ・チャンセラー、ジャン=ピエール・カルフォン、ジャン=ピエール・レオ、他
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「ラストタンゴ・イン・パリ」「1900年」「ラストエンペラー」「シェルタリング・スカイ」「リトル・ブッタ」「シャンドライの恋」などのベルナルド・ベルトルッチ監督作品。

1968年のパリを描いてはいるが、60年代~80年代にあった映像の格式はなく「世界の巨匠の作品がなんと今ではお求め安くなってお茶の間価格で登場」といいた感じで、それが「成熟した」などと評価する人はいるとは思うが、逆にまた、早くして成功を収めた巨匠が、ハリウッドと同じ土壌で勝負し、作品を作り続けることの難しさを感じさせる。

例えば、ベルトルッチに影響を与えたというゴダールのように、フランス語映画ばかりを撮っていたら潜在的に多くの人に観てもらえる可能性はハリウッド映画と比べたら爪の垢程になってしまうだろうし、だからといって沈黙していても何も生まれない。

周囲の期待と自分の満足の折り合いをつけるのは若くして成功してしまうと特に難しいと思うが、臆することなく作品を発表し続けているのは驚嘆に値する。

Wikipedediaでは「1980年代にはあったカリスマ性は現在では薄れている」と表記されているが、今後はイタリア語でよいので、映画に対するオマージュではなく、新しい種類の映画を作るという気合いを感じさせる作品を観たいものです。

ちなみにこの「ドリーマーズ」「ジョルジュ・バタイユ ママン」と同様に、ルイ・ガレルが手淫して射精するシーンがじっくり描写されており「そんなタチ姿が様になる役者」という難しい、というかある種特権的な役者としての地位を確立した感もあり、今後の彼の動向は興味深い。

永遠の語らい

永遠の語らい永遠の語らい
Um Film Falado
2003年/イタリア・ポルトガル・フランス/95分
監督・脚本:マノエル・デ・オリヴェイラ
撮影:エマニュエル・マシュエル
出演:カトリーヌ・ドヌーブ、ジョン・マルコビッチ、レオノール・シルヴェイラ、フィリッパ・ド・アルメイダ、ステファニア・サンドレッリ、イレーネ・パパス、ルイス・ミゲル・シントラ、他
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とりあえずラストカットにびっくりさせられる映画。それとシンプルなストーリー展開のなかで、というかロードムービーに近い感じもするが、当時たしか95歳のオリヴェイラ監督はさりげなく、かつ大胆なことをやってのける。

観る前は「ギリシャ神話について」など、教養あふれた調和の範囲内の人間ドラマで良い意味で安心して観ていられるような作品を勝手に想像していたけれどそうではなかった。

遅い展開の中で映し出される映像に複線を想像しながら観ていたが、なかなか絡み合わない断片がようやくつながり始めた、と感じるようになってからはあっというまにラストになってしまった。というような感じ。単に引っ張るには1時間は長すぎる。

映画のテイストは地味といえばそうだが、豪華客船の船長であるジョン・マルコビッチを囲んでの食事のシーンなど、今までの映画の中でありえそうでいてなかったような出来事が行われている。

この映画の倫理観を考えると発するメッセージの重大性は測り知れない。

隠された記憶

隠された記憶隠された記憶
Cache / Hidden
2005年/フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア/119分
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
製作総指揮:マルガレート・メネゴス、ミヒャエル・カッツ
出演:ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノシュ、モーリス・ベニシュー、アニー・ジラルド、ベルナール・ル・コク、ワリッド・アフキ、レスター・マクドンスキ、ダニエル・デュヴァル、ナタリー・リシャール、ドゥニ・ポダリデス、他
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「ピアニスト」「ファニーゲーム」などの、人間のなんともいえないところにメスを入れる印象のあるオーストリア生まれのドイツ育ちのミヒャエル・ハネケ監督の最新作。日本の公開はフランス映画祭やユーロスペースなどで行われた模様。

ハネケ監督作品はひょんなことから鑑賞した「ファニーゲーム」が印象的で、人間の生活の中で「よりによってどうしてそこを」というような場所、感情をシンプルかつ冷静に描く魅力がある作品。デビット・リンチ監督の描く決して晴れることのない悪夢などを思い起こさせる。

この「隠された記憶」はそんな期待をして観た割りには珍しくその期待を遥かに凌ぐ出来ですっかり興奮してしまった。「人間ドラマ」というより「サスペンス」というジャンルにおさまってしまうところが若干物足りなさを感じるものの、とりあえず2007年に観た映画ではナンバーワンになる予感が高い。

まず、お金やアクションや台詞、プロットに頼らずにまとまった時間の映像を魅せる技術に感服。

具体的には観ればわかることだが、撮りたい物を撮りたいように撮るというよりも、人が画面を見続けるために不可欠なことを理解した上で映像は積み上げられている。

配給がつくような映画はどんな映画もそこそこ大人が考えて作ってはいるが、演出以前の「見ること」についての考察が抜本的だ。

「ピアニスト」のときはあまり感じなかったが「解かりたいけれど、あと少しで解かりそう」といった感情を120分持続できた映画は自分の経験では0.1%くらい、本数で言うと1000本に1本しか観ることができない傑作。

ミヒャエル・ハネケ「隠された記憶」公式サイト
http://www.kioku-jp.com/

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テオレマ

テオレマテオレマ
Teorema
1968年/イタリア/99分
監督・原作・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
撮影:ジュゼッペ・ルゾリーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ、編集:ニーノ・バラーリ
出演:テレンス・スタンプ、シルヴァーナ・マンガーノ、アンヌ・ヴィアゼムスキー、ラウラ・ベッティ、マッシモ・ジロッティ、他
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テオレマはイタリア語、ラテン語で「定理」の意味のようだが、「定理」を辞書引くと「証明済の命題、それ以降の推論の前提となるもの」となっている。

ただこの映画わかりにくいといえばかなりそうなので、仮に弁証法をしようにもその前提を理解できない、ようなもどかしさに陥る。

それと、この映画は例えば「人と人をその関係性から生まれる感情うつろい」のようなシークエンスで魅せるレオス・カラックス監督作品などとは違い、登場人物の感情の動きだけでは追い切れない飛躍が多く、そう感じると唐突な出来事が羅列されているかのようでもあるが、全編を観ると、だらだらとではあるが、ある寓話性に基づいた倫理観で出来事が語られている。この寓話性=神話性へとつながる。

いずれにせよ、「テオレマ」はただ作品のメッセージを鑑賞するような映画ではなく、違和感とともに差し出された出来事について鑑賞者が自分で感じ考える、具象にもかかわらず抽象性が高い映画なので、ハリウッドのエンタテイメント映画などのアトラクション映画好きための映画ではなく、主体性に対して自覚的な人にのための映画であるように思う。

時間をおいてまた観ると新たな味わいが期待できる数少ない映画。


軽蔑

軽蔑(デジタルニューマスター版)軽蔑(デジタルニューマスター版)
Le Mepris
1963年/フランス・イタリア・アメリカ/102分
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
原作:アルベルト・モラヴィア
撮影:ラウル・クタール
出演:ミシェル・ピッコリ、ブリジット・バルドー、ジャック・パランス、フリッツ・ラング、他
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観たようなつもりになっていて意外にも観ていなかったゴダールの「軽蔑」を初めて鑑賞。

DVDの特典映像を見ると、1962年頃で100万ドルというゴダールの映画では大きな予算を投入して製作された映画のよう。今のレートでは1億円強だと思いますが、当時では多く3憶くらいということか? この金額はそんなに大規模なのだろうか。

この前観た「パッション」と比べるならば、「パッション」では製作費がないから撮影を続行できない、というような状態も語られていましたが、「軽蔑」では「お金を出した製作者が内容に注文をつける」状態が語られている。

製作年をくらべても、「勝手にしやがれ」以降、比較的お金はあつめられてはいたが、製作者との対立はあった、という状況から、非商業映画を経験してお金そのものを集めることが困難になってしまった状況がうかがい知れる。

製作者との対立から、接触すること事態が困難になってしまったようだ。作中でも「軽蔑」ではジャック・パランス演じる製作者が本編に登場しているが、「パッション」では、確か、資金調達を断られた、という電話や伝聞の形で表現されていた。

それはそうと、こういう、ブリジット・バルドーが意味もなく裸で寝ていたり、物語というかプロットはある程度はっきりたもっていて、かつ、ノイジーなやりとりやカットも含まれているような、ある意味いろいろバランスがとれているようなゴダール映画を好む人ももちろんいるとは思うが、個人的にはどこをとっても中途半端、というか歯切れがよくないような印象も持ってしまう。プロット的にもネチネチとした葛藤は好みではない。

ゴダールが体裁を取り繕う姿はあまり似合わない。ゴダールは突っ走っている時の方が、持ち味を発揮できているような気もする。ただそうすると、興行成績に現れるように、それに共感する人はほとんどいないので資金調達など、映画を成立させるための要素が欠けてしまうのはある意味悲劇だ。現実はそういうものなのだろうが。

クリシーの静かな日々

クリシーの静かな日々〈ヘア無修正版〉クリシーの静かな日々〈ヘア無修正版〉
Quiet Days in Clichy / Giorni felici a Clichy
Les Jours heureux de Clichy
1990年/フランス・イタリア・西ドイツ/104分
監督・脚本:クロード・シャブロル
原作:ヘンリー・ミラー
撮影:ジャン・ラビエ
出演:アンドリュー・マッカーシー、ナイジェル・ヘイヴァース、ステファニー・コッタ、 バルバラ・デ・ロッシ、マリオ・アドルフ、他
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「いとこ同志」などのヌーヴェルヴァーグのクロード・シャブロル監督作品未見の新作! しかも、原作は「北回帰線」「南回帰線」などのヘンリー・ミラー。がっつりと喰いついて観ることに。

「ハリウッドのキャストとフランス人監督の異色の組み合わせ」などと謳われていましたが、どうなんだろう。プロットの組み立てに関しては成功しているとは言いにくいように思う。雑多なカットが多く解かりにくい気がする。

しかし、饗宴が繰り返されるセットはかなり作り込んであって、大写しにならない、エキストラ的な人々もちゃんと全裸になっており、特にロングショットは圧巻の一言。

フラッシュバック的に語り口による時間の操作も行われているが、なんか浮いてしまっている感じもした。

この映画にエロスを期待しすぎてしまった感はあるが、1920年代のパリの「こんな感じであっただろう」様子が動画で観れたのはよかった。

 

風の痛み

風の痛み風の痛み
Brucio nel vento
2001年/イタリア・スイス/117分
監督・脚本:シルヴィオ・ソルディーニ
原作:アゴタ・クリストフ
音楽:ジョヴァンニ・ヴェノスタ
出演:イヴァン・フラネク、バルバラ・ルクソヴァ、カロリーヌ・バエル、シトラド・ゲーツ、他
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少し前に原作となったアゴタ・クリストフの小説「昨日」を読み、「映画化されている」という情報を得ていたが、地元のツタヤなどでは扱っておらず、新宿ツタヤでようやくDVDをゲットする。

チェコ人はフランス語で書いた原作のはずだが、イタリアとスイスが製作なせいか、終盤、決定的に違う部分もあった。でも、基本的に原作の小説を忠実に再現していたように思う。

個人的にはチェコ人? が集まるフランスのBarは壁などうらびれた雰囲気の店を想像していたが、壁が明るいクリーム色で少しびっくりしたのと、時代設定が思ったより現代になっていたのが新鮮だった。

あと、リーヌ役の女優さんがもう少し造形的に美しい方だったら、プロットに説得力がましたようにも思う。

映画としては、鑑賞に備え、無理にテンションを上げなくてもゆっくり鑑賞できるしっとりとした作品。

「イタリア映画祭傑作選」の2作目の作品のようですが、フェリーニ、ビスコンティ、アントニオーニの作品郡などと比較してしまうと、あまり「傑作」ではないような気もします。

ただ、最近のイタリア映画、日本にはあまり入ってきていないように思うので貴重な作品ではあるはず。

「風の痛み」公式サイト
http://home.m02.itscom.net/rakusha/kaz/

やさしくキスをして

やさしくキスをしてやさしくキスをして
Ae Fond Kiss
2004年/イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
撮影:バリー・アクロイド
出演:アッタ・ヤクブ、エヴァ・バーシッスル、アーマッド・リアス、シャムシャド・アクタール、シャバナ・バクーシ
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意外にも名前だけしか知らなかったケン・ローチ。それこそ「テス」と「ケス」の区別がつかず、ラッセル? 観たような観てないような、ポランスキー監督じゃなかったっけ? といった感じだった。

「やさしくキスをして」は、「ケン・ローチ初の恋愛映画」のようなふれ込みだったようですが、例えば、フランスのジャン=ジャック・ベネックス監督やレオス・カラックス監督などの恋愛映画と比べると、「恋愛映画」というよりは、「人種をまたがった恋愛の難しさを描いた社会派映画」だったように思う。恋愛映画にしては恋愛を感情にうったえかけようという作り手の意図が薄かったように思う。

そこで、よくよくフィルモグラフィーを見てみると、ケン・ローチ監督はすこぶる「社会派」な監督さんなようで、この「やさしくキスをして」は、氏の作品群のなかではセックスシーンが多い恋愛映画、ということになるのかもしれない。

性描写については、フェラチオを描くことなくクンニリングスをしっかり描いていると、それはそれで意味、意図があるんだろうと思ってしまう。

つい、多民族国家、というと安直に「アメリカ!」と思ってしまうのですが、イギリスもいろいろ問題が絶えないだろうな、とつくづく思う。

トーンというかテンション? はアメリカ映画よりもイギリス映画の方が、素の日本人のリズムに合っているような気もする。

太陽

太陽太陽
The Sun
2005年/ロシア・フランス・イタリア・スイス/115分
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
脚本:ユーリー・アラボフ
音楽:アンドレイ・シグレ
出演:イッセー尾形、ロバート・ドーソン、佐野史郎、桃井かおり、つじしんめい、他<
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映画『太陽』オフィシャルブック映画『太陽』オフィシャルブック
アレクサンドル ソクーロフ Aleksander Sokurov

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単館系では興行収入が好調らしい、アレクサンドル・ソクーロフ監督の最新映画「太陽」をポスターのデザインやイッセー尾形がきになり銀座シネパトスで鑑賞。日曜の最終回で観たのですが、お客の入りは1/3程度。日曜の20時~の回としては混んでいる方だと思う。

結果的には「ソクーロフには裏切られたがイッセー尾形は裏切らなかった」といった感じ。

「二重被爆」もそうだったが、天皇=被害者のような図式で天皇に同情的に描かれていて、戦後責任の問題など、新たな議論が生まれない、お涙ちょうだい、な映画だった。被害者=主人公に同情しても、僕らの未来は明るくはなりえない。作り手はお客が気持ちよくなるようにだけ映画を作るのではなく、新たな議論、未来につながる作品作りを目指していただきたい。自分自身もそうですが。

とはいえ、これまで、姿をもって語ること、自体がタブーとされてきた現人神、ヒロヒトばかりが画面に映っていて、所謂「人間宣言」がどのように昭和天皇の口から語られたのか、など、ソクーロフ監督の演出はあるにせよ、確かな役者の演技で具体的に観れたことは貴重だ。

イッセー尾形氏は市川準監督の「トニー滝谷」でも難しい役どころに挑戦し、成功していましたが、今回は果敢にも「昭和天皇」に挑戦し、見事にやり遂げている。彼以外、ヒロヒトを演じきれる役者はいない。彼の演技力でこの映画は成り立っている感もある。その演技を観るだけでも劇場まで脚を運ぶ価値はある。

この作品、サンクトペテルブルグ映画祭では受賞できたようですが、ベルリン映画祭は逃していました。日本での配給先がなかなか決まらなかったようですが、幸か不幸か、911以降、現在のようにナチュラルに右翼化した日本国内ではこの映画は温かく向い入れられるはずだ。


映画「太陽」公式サイト
http://taiyo-movie.com/


それはそうと、このロシア映画「太陽」の興行収益は好調ですが、「ロシア語専門書店、破産」と聞くと、胸が痛みます。
■8月22日「Yahoo! ニュース」
ナウカ書店 老舗のロシア語専門書店が破産 神田神保町

火事だよ! カワイ子ちゃん

火事だよ!カワイコちゃん火事だよ!カワイコちゃん
Hori, Ma Panenko/The Fireman's Ball
1967年/チェコスロバキア・イタリア/71分
監督・原案・脚本:ミロス・フォアマン
原案・脚本・助監督:イヴァン・パセル、原案・脚本:ヤロスラフ・パポウシェク、撮影:ミロスラフ・オンジーチェク
出演:ヤン・ヴォストゥルチル、ヨゼフ・シェバーネク、ヨゼフ・コルプ、フランチシェク・スビェト、ヨゼフ・ヴァルノハ、他
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「勝手にミロス・フォアマン映画祭 第3弾」としてフォアマンのチェコスロバキア時代の「火事だよ! カワイ子ちゃん」を鑑賞。

フォアマンは当時フランスのヌーヴェルヴァーグの影響を受けた「チェコ、ヌーヴェルヴァーグ」の若手筆頭だったようです。日本ではちょうど「松竹、ヌーヴェルヴァーグ」として増村保造監督や中平康監督や大島渚監督などが活躍していた時代と重なるはず。

パペットなどのアニメではない実写のチェコ映画はお初だったのですが、結論から言うと色々不思議な映画だった。

まず、主要な登場人物の年齢が60歳以上で、しかもその数はたくさんだったこと。

プロットの展開からオチにかけてが均一に描かれていたこと。

低予算だとは思うが、画面の中には人があふれていたこと。

そして、転機となる火事のシーンがどうみてもCGでは無いのに一般人的な出演者が火の中からでてきたり、必要以上に体アタリだったこと。

良くも悪くも、僕の想像力を超えた映画だった。暗黙で「ここは流す感じだろう」というようなシーンでも力が入っていたし、観客の設定など、当時のチェコの文脈がわかればついていけたのかもしれませんが、とにかく不思議な映画でした。

チェコ映画、あなどれない。

愛の神、エロス

愛の神、エロス愛の神、エロス
eros
2004年/109分
フランス・アメリカ・イタリア・中国
監督:ウォン・カーウァイ、スティーヴン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニ
出演:コン・リー、チャン・チェン、アラン・アーキン、ロバート・ダウニー・Jr、他
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カンヌを沸かせた3人の監督たちが「エロス」をテーマにした約30分の作品を集めたオムニパス映画。

ソダーバーグ監督のフィルムノワール調の作品やアントニオーニ監督の感覚的な作品も好きですが、何んと言っても1本目のウォン・カーワァイ監督の作品の出来が素晴らしかった。

30分程の「ショートフィルム=短編」だとプロットを説明するための段取的な映像に追われてしまい、長編作品と比べると、心のやわらかいところに届くようなところまでいかない、印象があったのですが、このウォン・カーワァイ監督の作品は見事に僕の予想を裏切った。

テーマは「接触」でしたが、娼婦に恋をした仕立て屋の切実な想いが現れ出ていて思わず熱くなってしまった。
単にこういう話が好きというわけではないとは思うのですが…。

この作品の撮影は、当時脅威をふるっていた感染症「SARS」で緊張状態にあった中国で撮影されたとのこと。

そういう状況で「接触」をテーマにしたこの作品は役者スタッフともども「マスク・ゴム手袋」などしながらの撮影だったようです。映像の中にある緊迫感はそういう現場の緊張感のような気がします。

ショートものでもやればすばらしいものができることを気づかせてくれた作品。
今年の短編部門でのNo.1です。


■公式サイト
http://www.ainokami-eros.com/

オルランド

オルランド 特別版オルランド 特別版
Orlando
1992年/イギリス・ロシア・イタリア・フランス・オランダ/94分
監督・脚本・音楽:サリー・ポッター
原作:ヴァージニア・ウルフ
撮影:アレクセイ・ロジオーノフ
出演:ティルダ・スウィントン、ビリー・ゼイン、シャルロット・ヴァランドレイ、他
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個人的には馴染みのないヴァージニア・ウルフ原作のイギリス映画。この原作が書かれたのは1920年代ということなので、ちょうどそのころフランスではシュールレアリズムが盛り上がっていた時だろうか。そう考えるとちょっと不思議な感じがします。

監督のサリー・ポッターは脚本・音楽もこなした女流監督ですが、ジョニー・デップ、クリスティーナ・リッチの『耳に残るのは君の歌声』などを思い出すと「ゴージャス」な画が好きなのかなと思います。

今回も特に序盤のコスチュームなどは「大作」っぽい雰囲気を醸し出していました。

特に笑いがとまらない、とか、押し迫る緊張感がある、といった映画ではありませんが、最後まで飽きずに観てしまいました。

2人のダイアローグをカットを切り替えず、パンしているシーンが2つあったのですが、そのテイクはエリック・ロメールの「緑の光線」でのデルフィーヌを交えた庭での団欒のシーンを彷彿とさせ、とても自分好みでした。

あと、ラストシーン。嫌な人は嫌かもしれませんが、僕的にはとても「映画的」な手法で撮影されていて、作品の味わいを深めているように感じられ印象的でした。

愛の嵐

愛の嵐-無修正ノーカット完全版-愛の嵐-無修正ノーカット完全版-
Il Portiere di notte
1973年/イタリア・アメリカ/117分
監督・脚本:リリアーナ・カバーニ
撮影:アルフィオ・コンティーニ
出演:ダーク・ボガート、シャーロット・ランプリング、フィリップ・ルロワ、イザ・ミランダ、他
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大学時代に新宿のゴールデン街のある店にこの映画のポスターが貼ってあるのを見て以来、12年越しにようやく鑑賞できた。最近はこういうセレクトが多い。。

「ベニスに死す」のダーク・ボガード、最近では「スイミングプール」「まぼろし」のシャーロット・ランプリング、主演。ちなみに彼女は大島渚の「マックス・モナムール」にも主演したはず。

「愛の嵐」はランプリングの「体当たりの演技に脱帽」といったところか。

作中でも数年の経過が感じられ、撮ることを考えると、撮影は数年間に及んだ、というか、途中で頓挫しそうになったはず、で結果的に完成した作品は役者の年輪を感じさせる程のスケールの大きい作品になっていると思う。

ポスターやチラシになっているカットも実際の本編に使用されているものだが、見終えた後の印象は、そいういキャッチーなものというより、地味、デカダン、な印象が強いように思う。

ある女の存在証明

ある女の存在証明〈無修正版〉ある女の存在証明〈無修正版〉
Identificazione di una donna
1982年/イタリア・フランス/130分
監督・脚本:ミケランジェロ・アントニオーニ
撮影:カルロ・ディ・パルマ
出演:トーマス・ミリアン、ダニエル・シルヴェリオ、他
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10年程前に、大学の近くの「名画座」という名のレンタルビデオ店で見つけ鑑賞。

今回観たのはそれ以来。アントニオーニは好きな監督の1人で「ブロウ・アップ」「砂丘」など、というかこの2本有名だけど彼のフィルモグラフィーの中では異色を放っているかもしれない、もその予定調和を超えた「破天荒さ」、観ていて驚きがあるところなどが特に好きな作品なのですが、この作品、改めて観ると「新しさ」はない。

ても冒頭から流れる「ゆったり」とした時間の中でやりとりされる台詞まわしなど、その時代のものなのかは定かではないが、自分的には平常心のまま鑑賞できる数少ない作品の一つ。

「映画監督」ってこんなに「もてない」とも思うのは、私だけ?

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