2007年02月

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リアリズムの宿

リアリズムの宿リアリズムの宿
2003年/日本/83分
監督・脚本:山下敦弘
原作:つげ義春
脚本:向井康介
音楽:くるり
出演:長塚圭史、山本浩司、尾野真千子、多賀勝一、サニー・フランシス、他
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「松ヶ根乱射事件」「リンダ リンダ リンダ」「この男狂暴に突き」などの山下敦弘監督作品。

主演の1人の長塚圭史氏は大学時代、私は哲学科でしたが、英文科なども履修できる授業で姿を何度か見かけた記憶がある。「ヤツがここにいるのか」と思うと複雑な気持ちでもある。たしか彼は阿佐ヶ谷スパイダーズという劇団を主宰していたはず。この「リアリズムの宿」では山下敦弘率いる「山下組」に単独で乗り込んだというところだろうか。

映画はDVDの特典映像で長塚氏が言っているように「これといった事件はないが、少し前に進んだように感じれる」映画。

というか主演の2人は「自主映画監督」という他にない、まさしく僕などのための映画? のような気もすする。鳥取の山陰特有というか、閉鎖的で寒い感じが原作とマッチしていてよかった。

とりとめのないやりとりがじんわりと笑いを誘う。鑑賞後「一歩前に進んだ感じ」になれるのは、当たり前といえばそうだが、主人公の2人が、映画の中でつくられていく人と人としての関係性によるものだ。

閉じこもろうとは思っていなくても、新しい関係性を築くのは案外難しいことで、思ったより多くの人はそれを望んでいるということを再確認。

地味ながら何度も観かえせる映画。

「リアリズムの宿」公式サイト
http://www.bitters.co.jp/yado/

秘密のかけら

秘密のかけら秘密のかけら
Where the Truth Lies
2005年/カナダ・イギリス・アメリカ/108分/R-18
監督・製作・脚本:アトム・エゴヤン
原作:ルパート・ホームズ
音楽:マイケル・ダナ
出演:ケヴィン・ベーコン、コリン・ファース、アリソン・ローマン、ソニヤ・ベネット、レイチェル・ブランチャード、他
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本当に久々に観たハリウッド的なエロティックサスペンス映画。監督はエジプト出身のアトム・エゴヤン。

この「秘密のかけら」映画の製作はカナダ、イギリス、アメリカの合作で、純粋なハリウッド映画ではないようで、そのディープである意味挑発的な暴力や性描写などを観ると、そのエンタテイメント的な映画ながら非ハリウッド的なテイストに「ザ・セル」などを思い出す。作為的ではないにせよ、全編にうっすらといわゆるハリウッド映画ではない雰囲気が漂う少し変わった映画。

あの「フットルース」などのケヴィン・ベーコンがイキイキと演技をしていたのが印象的。25年くらいは経っているように思うが、その間に人間のダークな部分を表現できる独特の低い声の発声法をマスターしたのかと思うと感慨深い。

全体的にサスペンス、エロティック、人間ドラマ、といった要素がミックスされ散りばめられているだけに「盛りだくさん」な印象はあるものの「ココ」といった見所が逆に分かり難い感がある。

ユダヤ人問題のネタも表象的に語られるのみで、事柄としてアピールするというよりはプロットの説明の一つとして置いてあるだけのように見える。

キャッチでは「大胆なエロティックな描写」などとなってしまって、結局そこがウリなのかと思うと少し物足りない感もある。

「秘密のかけら」公式サイト
http://www.himitsu-kakera.jp/

棒 Bastoni

棒 Bastoni
Bast Oni
2001年/日本/103分
監督・脚本:中村和彦
プロデューサー・脚本:望月六郎
撮影:石井浩一
出演:松岡俊介、田口トモロヲ、中里栄臣、小島由佳、金谷亜未子、北村一輝、日比野克彦、奥田瑛二、他
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監督は多くの望月六郎監督作品でチーフ助監督としてその作品作りを支えてきた中村和彦氏の初監督作品。

望月監督作品と同様にディープな語り口が印象的。DVDの特典映像では監督の中村和彦氏に加え、プロデューサー兼脚本の望月六郎監督、主演の松岡俊介さんの3人のインタビューが収録されており、製作の経緯や撮影秘話などをざっくばらんに語っている。

それとこの映画「棒 Bastoni」で印象的なのが豪華な役者陣。主演の松岡俊介さんをはじめ奥田瑛二さん、田口トモロヲさん、北村一輝さん、そして日比野克彦さんまでも友情出演的に出演している。

役柄というか設定もショービジネスというより自主映画的で観ていて温かい気持ちになれるというか、映画の高感度が高まった。

中村和彦監督も仰っていましたが「倒れそうで倒れない男」の話。なんというか決定的にタイミングをハズしてしまう主人公をユーモラスに描いた監督に、監督本人の人柄が反映されている。次回作も是非期待したい。

何故かAVとサッカーが好きな方は必見の一本!

ぼくを葬る

ぼくを葬るぼくを葬る
Le Temps Qui Reste Time to Leave
2005年/フランス/81分/R-15
監督・脚本:フランソワ・オゾン、撮影:ジャンヌ・ラポワリー
出演:メルヴィル・プポー、ジャンヌ・モロー、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ダニエル・デュヴァル、マリー・リヴィエール、クリスチャン・センゲワルト、ルイーズ=アン・ヒッポー、アンリ・ドゥ・ロルム、ウォルター・パガノ、他
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この「ぼくを葬る」は「クリミナル・ラバーズ」「まぼろし」「8人の女達」などのフランソワ・オゾン監督の「ふたりの5つの分かれ路」に続く最新作。

個人的には「ふたりの5つの分かれ路」でたっぷり嫌気がさしていたが、この感情にも嫌気がさしむきになって鑑賞。

映画のテーマとしては「不治の病」「同性愛」「代理父」などのディープなネタが絡み合う。

個人的には母親役?のマリー・リヴィエールをエリック・ロメールの「緑の光線」のデルフィーヌ以来初めて見かけて驚いた。もちろん彼女も歳は重ねてはいたが、20年経っても変わらない人柄のようなものを再確認できたのは映画好きとして嬉しいかぎり。

ジャンヌ・モローの見事なおばあちゃんっぷりにも驚いたが、フランソワ・トリュフォー監督の「ジュリーとジム」の頃の彼女が懐かしくもあり、複雑な気持ち。

映画事態は予算なども含めシンプルな作りで、日本の映画でも製作可能な本のようにも感じる。


「ぼくを葬る」公式サイト
http://www.bokuoku.jp/
「フランソワ・オゾン」公式サイト
http://www.francois-ozon.com/

好きだ、

好きだ、好きだ、
2005年/日本/104分
監督・製作・脚本・撮影・編集:石川寛
撮影: 尾道幸治
音楽: 菅野よう子
美術: 富田麻友美
出演:宮崎あおい、西島秀俊、永作博美、瑛太、小山田サユリ、野波麻帆、加瀬亮、大森南朋、他
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たまたま去年別々に出会った2人の女の子からこの「好きだ、」という映画がよかった、という話を聞いてどんな映画なのか期待して鑑賞。

石川寛監督は女性の瑞々しさを描いた「TOKYO.SORA」の監督でもありましたが、今回もフォトジニックな映像で魅せていた。

この「好きだ、」を観ていると人間語るべきことだけを語ればよいわけで、多くを語る必要はない、というように思え、個人的にはその価値観に安心できる映画。

もちろん、映画にかかわらず、文体というか呼吸が合わない人には合わない映画だとは思うが、若い人向けの映画ということで、自主製作でなくてもスポンサーはついてもいいような気がする。映画自体の中にも救いはあるし、気持ちよく鑑賞できる映画ではあるので。

なんというか身体に染み入ってくるような映画。


「好きだ、」公式サイト
http://www.su-ki-da.jp/

マイ・レフトフット

マイ・レフトフットマイ・レフトフット
My Left Foot
1989年/アイルランド/98分
監督・脚本:ジム・シェリダン
原作:クリスティ・ブラウン
撮影:ジャック・コンロィ
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ブレンダ・フリッカー、フィオナ・ショウ、レイ・マカナリー、ヒュー・オコナー、シリル・キューザック、他
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あまり聞かないアイルランドのヒューマンドラマということで鑑賞。

主演はミラン・クンデラ原作の「存在の耐えられない軽さ」、ジェームス・アイボリー監督の「眺めのいい部屋」などのダニエル・デイ=ルイス。

17歳くらいの設定の役中では「歳の割りに髭が濃すぎ」とシリアスなヒューマンドラマだけに、若干滑稽さも感じますが、よだれを垂らしながらの熱演には役者魂を感じないわけにはいかない。

ヒューマンドラマなのでよくもわるくも所謂ヒューマニズムの枠内に収まる作品ですが、キャラクターの設定、というか、登場人物の性格の設定が面白い。

主演とその父親に共通していた性格、「喧嘩っぱやく(酒グセが悪い)てしつこい」ところは、たんにサッカーアイルランド代表の試合運びを見ていても感じるように、「終わってしまうまで、決して諦めない」とことなどはアイルランドの国民性のようなものが現れている部分なのかもしれない。

あと、この映画は最初の45分くらいで「痛々しい感動」のクライマックスを設け、その後は主演の「生き様」にフォーカスされているため、「お涙ちょうだい」だけの映画ではない人間成長を描いた作品となっており、映画の完成度に厚みをだしている。

「奇抜な演出で度肝を抜かれる」ような映画ではないが、意外と小さくまとまったなぁ、という感は若干あるものの、観終えた後の満足感は高い。

でらしね

でらしねでらしね
deracine
2002年/日本/94分
監督:中原俊
脚本:小林政広
撮影:石井浩一
音楽:大友良英
出演:奥田瑛二、黒沢あすか、益岡徹、三谷昇、田鍋謙一郎、他
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「桜の園」「コンセント」などの中原俊監督最新作。一見、原作ものの映画化のように見えるが、小林政広氏によるオリジナル脚本。

小林政広氏は「バッシング」「女子社員淫乱依存症」「海賊版=BOOTLEG FILM」の監督をしているが、あのフランソワ・トリュフォーの現場に入った経験や、フォークシンガーとしてレコードも出している変わった経歴の持ち主。氏はブログ「小林政広のブログ」も公開している。「バッシング」は劇場公開を見逃してしまったのでDVDに大期待。

でこの「でらしね」は、奥田瑛二+中原俊+小林政広の3人の有志による自主映画的な雰囲気を感じる映画だ。

なんというか、長時間酒を呑んでいて、ふとあらぬ方向にいってしまった話の時のような、根源的な現実味をともなうファンタジーのような映画だった。「でらしね=deracine=根無し草」という感じ。上の3人の名前を見ると、大胆なセックスシーンなんかを期待したりもするが、そんなシーンはなかった。

DVDの特典インタビューでは、中原俊監督、奥田瑛二さん、黒沢あすかさんが登場していたが、3人のトークを聞いていると、現場の光景や映画「でらしね」を動かした人々の人柄などが浮かび上がる。

劇場公開まで2年かかったとのことだが、必ずしも「映画は生ものだからすぐに公開すべし」ではないことも考えるようになる。…といいてもすぐに配給が見つかるに越したことはないとは思うのだが。

永遠の語らい

永遠の語らい永遠の語らい
Um Film Falado
2003年/イタリア・ポルトガル・フランス/95分
監督・脚本:マノエル・デ・オリヴェイラ
撮影:エマニュエル・マシュエル
出演:カトリーヌ・ドヌーブ、ジョン・マルコビッチ、レオノール・シルヴェイラ、フィリッパ・ド・アルメイダ、ステファニア・サンドレッリ、イレーネ・パパス、ルイス・ミゲル・シントラ、他
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とりあえずラストカットにびっくりさせられる映画。それとシンプルなストーリー展開のなかで、というかロードムービーに近い感じもするが、当時たしか95歳のオリヴェイラ監督はさりげなく、かつ大胆なことをやってのける。

観る前は「ギリシャ神話について」など、教養あふれた調和の範囲内の人間ドラマで良い意味で安心して観ていられるような作品を勝手に想像していたけれどそうではなかった。

遅い展開の中で映し出される映像に複線を想像しながら観ていたが、なかなか絡み合わない断片がようやくつながり始めた、と感じるようになってからはあっというまにラストになってしまった。というような感じ。単に引っ張るには1時間は長すぎる。

映画のテイストは地味といえばそうだが、豪華客船の船長であるジョン・マルコビッチを囲んでの食事のシーンなど、今までの映画の中でありえそうでいてなかったような出来事が行われている。

この映画の倫理観を考えると発するメッセージの重大性は測り知れない。

東京ゴミ女

東京ゴミ女東京ゴミ女
2000年/日本/88分
監督:廣木隆一
脚本:及川章太郎
撮影:鈴木一博
音楽:岡村みどり
出演:中村麻美、鈴木一真、柴咲コウ、小山田サユリ、戸田昌弘、田口トモロヲ、他
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この「東京ゴミ女」は2000年の製作なので、現在「どろろ」などで活躍中の柴咲コウさんがいまのようにブレイクする前の作品。

7年前の作品ですが、10年近く前の作品には見えない。ここ2、3年の作品に思えるのは廣木隆一監督の抑えた演出のなせる業か。

中村麻美さんと柴咲コウさんがウエイトレスで田口トモロヲさんがマスターの喫茶店なんて、通ってしまう戸田昌弘さんの気持ちも少しわかる気もします。

映画としては「リアル」を求めるとつまらない作品に映るかもしれないが、なんというか「ダラっ」とした感じで観ると心地よい時間を味わえるのは、廣木監督作品の特徴なのかもしれない。

フィルム作品かと思いきやDV作品だったので4:3の縦横比にまず驚いたけれど、廣木作品でレールをひかずにカメラを担いで被写体を追うようなカメラワークは初めて観た。予算、あるいは、DVの機動性を活かしてのことなのかとは思うがどうなんだろう。

あと、主演の中村麻美さんはたぶん初見でしたが、隣人のゴミをキャミソール+パンツ姿で漁るカットがあるわりには、ベッドシーンでは胸も背中も見せないなんて逆に不自然な気がして「やる気あんのかなぁ」と思う部分もあった。

ただ廣木監督作品は「ラマン」もそうでしたが、台詞も映像も生々しいところは映さないので、監督の意向だったのかもしれません。

観た印象「さらり」としていて危うく見逃してしまいそうになるが、「救い」はほとんど見つからないダークな映画。

エゴン・シーレ~愛欲と陶酔の日々~

エゴン・シーレ~愛欲と陶酔の日々~エゴン・シーレ~愛欲と陶酔の日々~
Egon Schiele
1980年/オーストリア・西ドイツ・フランス/94分
監督・脚本:ヘルベルト・フェーゼリー 
撮影:ルドルフ・ブラハセク、音楽:ブライアン・イーノ
出演:マチュー・カリエール、ジェーン・バーキン、クリスティーネ・カウフマン、他
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ドイツ語を話すジェーン・バーキンで出演していることと、音楽をあのブライアン・イーノが担当しているとのことで鑑賞。

エゴン・シーレはクリムトの弟子だったことすら知らないほど、美術史はおさえていなかったがそういう意味では1910年代のオーストリアの状況なども含めて、ひとまず勉強になった1本。

のっけから少女のヌードのカットがあるものの、作品のプロット内に回収されているため「エゴン・シーレ~愛欲と陶酔の日々~」という日本語のキャッチが与えるような淫靡な印象はない。画家である人間エゴン・シーレの生活を忠実に再現しようとしているように感じられた。

監督のヘルベルト・フェーゼリーは過去には前衛的な映画を作っていたようだ。エゴン・シーレ自身は前衛的な芸術家だったと思うが、この「エゴン・シーレ」の映画の作りはすこぶる近代的で少々面食らってしまった。なんでもないような事柄を観ていて解かる部分を伴なったような前衛的な作品はカッコイイと思うのだが。

またこの映画の出演者にはジェーン・バーキンをはじめピンポイントで興味を惹かれる人々が出演している。

観ようにもなかなかDVDを見つけられないない「マリーナ」に主演のナイーブさがプロテニスプレーヤーのティム・ヘンマンを思い出されるマチュー・カリエール。「バグダッド・カフェ」にも出演しているというクリスティーネ・カウフマン。「バグダッド・カフェ」はホリー・コールの音楽と太っちょおばさんの切なさの記憶しか残っていないのでもう一度観返さねば。

TAKESHIS'

TAKESHIS'TAKESHIS'
2005年/日本/107分
監督・脚本・編集:北野武
撮影:柳島克己
音楽:NAGI
衣装:山本耀司
出演:ビートたけし、京野ことみ、岸本加世子、大杉漣、寺島進、他
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こういうスキゾ的に時間軸で遊んでいる映画は大好きだ。

脈絡があまりなくても観進めることができるし、次の瞬間どのカットにいくのかわからない、という緊張感は観ていてかなりエキサイティング。こんなに退屈できない映画は久しぶりです。山野一氏の漫画「パンゲア」や園子温監督の「夢の中へ」を思い起こさせる。

前作の「座頭市」はエンタテイメント作品と聞いて、今でも観るには気がすすまないが、この「TAKESHIS'」は劇場で観なかったことを大後悔。

「難解、感想が言いづらい」などのコメントやレビューを耳にしていたのですが、良い意味で、このような映画の製作費を集められる北野武監督の才能にうっとりとしてしまう。

観ていて気になったのは映画の中の倫理観。ソナチネのときもそうだったが、死ななくてもよい人間が死んでいること。せめて、殺されるべき人間と、生きるべき人間、どちらでも良い人間、の3パターンぐらいには分けて欲しかった。

ほとんど皆殺しで、かつ、自殺。となると付ける薬はありません。

それと、仕方がないのかもしれないが、ドールズなどで見られた「文楽」や「風車」などの、なんというか露骨に海外のためにジャポニズムを差し出すようなシーンがなかったのはホッとしました。「ソナチネ」の「紙相撲・相撲」は動きなどが面白かったので良かったので撮る価値があると思うが、単にイメージカットのように差し込まれてもどっと引いてしまう。

勝手な希望としては、オチがなんとなく見えてしまうところと、それと同様に、海辺の銃撃戦のカット割りが「ハイここまで」といったように仰々しく感じられてしまったところがなんとかならぬのかともどかしく思ったり。

「TAKESHIS'」公式サイト
http://www.office-kitano.co.jp/takeshis/


アニー・ホール

アニー・ホールアニー・ホール
Annie Hall
1977年/アメリカ/97分
監督・脚本:ウディ・アレン
撮影: ゴードン・ウィリス
衣装デザイン: ラルフ・ローレン
出演:ウディ・アレン、ダイアン・キートン、トニー・ロバーツ、ポール・サイモン、キャロル・ケイン、シェリー・デュヴァル、クリストファー・ウォーケン、シガーニー・ウィーヴァー、他
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意外にも食わず嫌いだったウディ・アレン監督作品。このブログにリンクを掲載している「Happy pork-chop Strut Revival」さんもお気に入りの一本のようですが、存在を知ってからいざ観るまでに15年くらいかかってしまった。

思ったより「インテリな大人のための恋愛映画」の印象が残る。

出会いのシーンなどの台詞とは別に字幕になっている心理描写のところは、文字を読むのに忙しいが面白い。

意外と印象的だったのは、壁に貼られていたダイアン・キートンが撮ったロブスターとの格闘の写真。この写真は実によく撮れていた。大写しにしないところが玄人心をくすぐるところでもある。

全体的に屁理屈というか情報量の多い作品だが、一度に全てを追うのは難しいからといいって漠然と美術などの画面を見ていると展開が全くわからなくなってしまいそこらへんのさじ加減が私的には難しい映画。

また、全てをキャッチできない程の情報量のでいえばゴダールなどによくみられる「断片的な引用」を思い出すが、ある意味「ウディ・アレン映画の台詞」もそれに近いような気がする。より多くを理解するには観る回数がより必要になる。

あと、この「アニーホール」は恋愛映画のような組み立てにはなっているが、変な違和感は感じてしまう。

恋愛ってある意味心の変化だと思うが、ウディ・アレンの役柄にはそれを感じなかった。ダイアン・キートンの役柄は心の変化を感じれたのでこの映画の主人公は題名が示すように彼女であるような印象も受けるが、どこか腑に落ちない。自分の変化を前提としたような対話が感じられないので、恋愛というよりも、「ウディ・アレンの愉快な生活」というような印象が残る。

ユダヤ人問題に多くふれているからという要素もそう感じさせる要因なのかもしれない。そう、この映画はユダヤ人問題などのたくさんの種類の問題提起というかネタが押し込まれているからひとつのジャンルに収めにくいのかもしれない。だいたいあんまり詰め込もうとするとどのネタもパンチが弱くなるものだが、そこのところは「人間ウディ・アレン」のパワーで押し切ってしまったというところか。

個人的には画作りにはもう少し審美眼を持っていただきたかったが、ウィットに富んだ手法で映画の表現の可能性に挑戦した映画であることは間違いない。

なお、劇中ではマーシャル・マクルーハン役で本人が出演している。また、トルーマン・カポーティは自身のそっくりさん役で出演している。

隠された記憶

隠された記憶隠された記憶
Cache / Hidden
2005年/フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア/119分
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
製作総指揮:マルガレート・メネゴス、ミヒャエル・カッツ
出演:ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノシュ、モーリス・ベニシュー、アニー・ジラルド、ベルナール・ル・コク、ワリッド・アフキ、レスター・マクドンスキ、ダニエル・デュヴァル、ナタリー・リシャール、ドゥニ・ポダリデス、他
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「ピアニスト」「ファニーゲーム」などの、人間のなんともいえないところにメスを入れる印象のあるオーストリア生まれのドイツ育ちのミヒャエル・ハネケ監督の最新作。日本の公開はフランス映画祭やユーロスペースなどで行われた模様。

ハネケ監督作品はひょんなことから鑑賞した「ファニーゲーム」が印象的で、人間の生活の中で「よりによってどうしてそこを」というような場所、感情をシンプルかつ冷静に描く魅力がある作品。デビット・リンチ監督の描く決して晴れることのない悪夢などを思い起こさせる。

この「隠された記憶」はそんな期待をして観た割りには珍しくその期待を遥かに凌ぐ出来ですっかり興奮してしまった。「人間ドラマ」というより「サスペンス」というジャンルにおさまってしまうところが若干物足りなさを感じるものの、とりあえず2007年に観た映画ではナンバーワンになる予感が高い。

まず、お金やアクションや台詞、プロットに頼らずにまとまった時間の映像を魅せる技術に感服。

具体的には観ればわかることだが、撮りたい物を撮りたいように撮るというよりも、人が画面を見続けるために不可欠なことを理解した上で映像は積み上げられている。

配給がつくような映画はどんな映画もそこそこ大人が考えて作ってはいるが、演出以前の「見ること」についての考察が抜本的だ。

「ピアニスト」のときはあまり感じなかったが「解かりたいけれど、あと少しで解かりそう」といった感情を120分持続できた映画は自分の経験では0.1%くらい、本数で言うと1000本に1本しか観ることができない傑作。

ミヒャエル・ハネケ「隠された記憶」公式サイト
http://www.kioku-jp.com/

奇妙なサーカス

奇妙なサーカス Strange Circus奇妙なサーカス Strange Circus
Strange Circus
2005年/日本/108分/R-18
監督・脚本・音楽:園子温
撮影:大塚雄一郎
出演:宮崎ますみ、いしだ壱成、桑名里瑛、高橋真唯、不二子、他
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園子温監督の新作、かつ、少し前に昨年末に亡くなった実相寺昭雄監督の「屋根裏の散歩者」で独特の存在感を放っていた宮崎ますみさんが主演のR-18ものということでがっつり喰いついて鑑賞。

園監督作品なので「夢の中へ」のようにある種の「ミニマリズム+エロ」を期待していたが、方向的には予想通りでしたが、その内容の密度は良い意味で裏切られる作品だった。

まず、ネタの豊富さ。障害者差別・ピアスなどの身体改造・近親相姦・教育問題、といったネタというかテーマがひとつの物語の中に押し込まれており、見ごたえ十分。

それに加え、宮崎ますみさんの気合の入った濡れ場のシーンも数多く、いしだ壱成さんの独特の演技とがあいまってマイナーなテーマをメジャー感のある耽美な役者が、園監督作品というある意味コアな舞台で融合し、単にクオリティーの高さ以上のものが表現されていた。

2005年製作の割りにはレトロな雰囲気が漂うが、このレトロで扇情的な雰囲気は寺山修司監督に通ずるものがある。

作品全体がコアな仕上がりとなっているので、胡坐をかいて予定調和な作品を観たい人にはオススメできないが、人間あるいは社会のある一部分の根源性のようなものに触れたいような人には強く勧める1本。

最近私が観る日本映画・邦画によく出演している「肌の隙間」「卍」などの不二子さんもわずかの出演ながら存在感を発揮している。

昔劇場で観た16mm作品「部屋/The Room」の頃の園監督が懐かしいような気持ちにもなり感慨深い。

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「映画喫茶」は自主映画監督、酒井啓が鑑賞した映画や小説などについて綴った備忘録ブログです。プロフィールなどの詳細は下記公式サイトへどうぞ。
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