2007年04月

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父と暮せば

父と暮せば 通常版父と暮せば 通常版
2004年/日本/99分
監督・脚本:黒木和雄
原作:井上ひさし
撮影:内田絢子
美術:木村威夫
音楽:松村禎三
出演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信、他
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当時務めていた会社が岩波ホールのすぐ近くにあったにも関わらず、この「父と暮らせば」に興味を持っていたにも関わらず、結局劇場に足を運ぶことはできずに3年越しでようやく鑑賞。

黒木和雄監督作品は初めてですが、観ていて複雑な気持ちになる映画だった。

まず気になったのはこの映画は戦争を扱ったフィクション映画だが、その戦争に対する視線が「被害者一色」であったこと。「お涙頂戴」であったこと。

これは原作の井上ひさし氏によるところが大きいとは思うが、この映画自体の進展性に歯止めをかけていることは否めない。興行的でない日本の戦争映画を観るといつも感じることだが「戦争体験を語り継ぐため」にわざわざ映画を作るのはコスト的にもバカバカしく感じる。やはり忘れてならないのは「戦争の記憶」ではなく「2度と戦争を起こさないこと」「何故戦争になってしまったのか」ということで、これはいろいろな国の事情が絡み合っているので色々な側面からのクレームなど一筋縄にはいかないだろうが、これを描かなければ「語り継ぐ」意味はほとんどない。

簡単なヒューマニズムで涙を誘っても満足させれるのは、戦争の記憶を持ち続けている60代くらいの例えば岩波ホールに足を運ぶ人々や、あるいは、戦争に対して具体的に何も行動しない人たちだけで、そういう意味では結果的に「反戦」がテーマなはずの戦争映画なのにその効力がほとんどなくなってしまっている。この映画は感傷的になることを強要し、戦争を起こさないよう考えることを禁じている変な映画だ。

ただ、上記の制限は脚本の制限であったようにも思う。

台本段階でできることとできないことがハッキリとするとは思うが、撮影段階では可能なできることは丁寧にすべてやってある印象も同時に持った。小規模な予算を想像すると、驚くほどこの映画のクオリティーは高い。

プロット的には90年代のハリウッドの恋愛映画「ゴースト ニューヨークの幻」を彷彿とさせるような見せ方を戦争ものに取り入れた井上ひさし氏の功績も大きいように思う。

それとこの「父と暮らせば」はファーストカットから「演劇的な演出のスタジオ撮り」だったが、街に出て撮影できれれば、パッケージとしての完成度は落ちるものの、違った作風の映画らしい映画になったかもしれないなどと考えてみたり。。

スカイ・キャプテン

スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー プレミアム・エディションスカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー プレミアム・エディション
Sky Captain & The World of Tomorrow
2004年/アメリカ・イギリス/107分
監督・脚本:ケリー・コンラン
撮影:エリック・アドキンス
VFX;スコット・E・アンダーソン
出演:ジュード・ロウ、グウィネス・パルトロー、アンジェリーナ・ジョリー、ジョヴァンニ・リビシ、マイケル・ガンボン
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ジュード・ロウが出演しているとのことで数年前に劇場で予告編を見てきになっていた「スカイ・キャプテン」を鑑賞。

実写ベースのフィルムノワール的なアクションアニメ映画、だと思っていたが、予想以上に「映画」だった。

ただ「リアルか?」と問われればそうではないので、ネパールの密教など突っ込みどころはたくさんあるはずですが、軽く受け流しながら鑑賞できればかなり楽しめる作品。グイネス・パルトロウもいい味をだしている。

ハリウッドもの、と考えると登場人物が少ないような気はするが、この映画は6分の自主制作アニメが基盤となっているようで、同じ監督がここまでおおきなバジェットの映画にしたことを考えると、ハリウッドものというより、がんばった自主映画ということになろう。

http://blog.sakaiakira.net/cat12/alfie/アルフィー」の記事にも書いたけれど、高校まではイギリスにいたというジュード・ロウですが、彼はハリウッド色に染まりきっていないアメリカ映画にのみ出演している印象がある。

イギリス人といえばマイケル・ウィンターボトム監督やケン・ローチ監督などを思い出すが、そういったイギリス代表的な作品というより、アメリカ映画ではあるがハリウッド映画というわけでもない比較的大規模な多国的映画を好んで出演している印象がある。

狙い所が地味といえばそうだが、確実に必要とされている種類の映画ではあるので、変に大量生産的な映画よりも製作者の愛情や思い入れなどを感じる世界マーケットとしては比較的小規模な作品に好んで出演するのはある意味正しい選択なのかもしれない、などと思ってみたり。

「スカイ・キャプテン」公式サイト(English)
http://www.skycaptain.com/

アルフィー

アルフィー スペシャル・コレクターズ・エディションアルフィー スペシャル・コレクターズ・エディション
Alfie
2004年/アメリカ/105分
製作・監督・脚本:チャールズ・シャイア
原作:ビル・ノートン
撮影:アシュレイ・ロウ
出演:ジュード・ロウ、マリサ・トメイ、オマー・エップス、ニア・ロング、ジェーン・クラコウスキー
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ジュード・ロウ映画祭第一弾として「アルフィー」を鑑賞。

1966年にイギリスを舞台にした映画のリメイク版。このジュード・ロウの「アルフィー」は60年代のニューヨークを舞台にしている。

'66年版もそのようだが、映画の手法としてはウディ・アレンの「アニー・ホール」などでもあったように、役中の登場人物の心理描写を役者がカメラ目線で語りかける手法がとられていることでメタ映画的な演出が施されていたことが印象的。

それとこのリメイク版の「アルフィー」はアメリカ資本の映画なようだが、映画のテイストはすこぶるイギリス的なような感じがした。なんというか、まぁ「紳士的」ということなんだけれど、シリアスな事柄に関してサラリと描写するところなどはそんな印象が強い。

仮に、下ネタ的な話があっても女性が引くことがないというか。個人的にはそんな描写は「綺麗事」に映ったりはするけれど、生々しいものを見たくない時なんかは案外こういう映画が安心して見れるものなのかもしれない。

こんな映画には主演のジュード・ロウがハマる。彼の作品はまだあまり見れていないが「ガタカ」などでもいわゆるハリウッド映画とは一線を隔すような、ちょうどインディペンデントとハリウッドの中間に位置するような作品を好んで出演しているような印象がある。

それは高校を中退してイギリスからアメリカに拠点を移した彼の生い立ちとも重なる部分があるように感じ、ひたすらハリウッド大作を目指したトム・クルーズやインディペンデント的な映画で自分のキャリアを磨いたジョニー・デップとは違った道もあるということを発見し、狙いとしては案外「悪くない選択肢」だ。なんてことを思ったり。

ゴールデン・ボールズ

ゴールデン・ボールズ〈無修正版〉ゴールデン・ボールズ〈無修正版〉
Huevos de Oro
1993年/スペイン/92分
監督・脚本:ビガス・ルナ
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ
音楽:ニコラ・ピオヴァーニ
出演:ハビエル・バルデム、エリザ・トゥアティ、マリア・デ・メディロス、マリベル・ヴェルドゥ、ラクエル・ビアンカ、ベニチオ・デル・トロ、他
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テリー・ギリアム監督の「ラズベガスをやっつけろ」、「ユージャル・サスペクト」などの、若き日のベニチオ・デル・トロが出演しているとのことでこの「ゴールデン・ボールズ」を鑑賞。ポルノでもないのに「金玉」という題名の映画を製作するなんてスペイン人の感覚はうらやましいかぎり。

とかなんとか思いつつ鑑賞するも、この映画思ったより面白い。ひとまず女好きなジェラール・ドパルデューのような主人公を許せるか否かの問題はありますが、登場する全ての女性陣がそれぞれ魅力的なことと、ツタヤなどでは「エロティック」コーナーにある割にはヌードも自然で悪い意味でのイヤらしさを感じさせない。これも主人公の「愛すべき男(悪気はない)」ところに寄るところが大きいが作ろうとしてもなかなか作れない映画であることは間違いない。

それと冒頭のモロッコでの土方からスペインに向かうところなどの映像の躍動感は90年代の映画だとは思えない。ロックなどもそうだが、概ね最近は「時代を代表する」ような映画はどこか病んでいたりするような気がするが、これほどスッキリと観れる映画も珍しい。

お目当てのベニチオ・デル・トロもちょっとクセのある役所で出演していて印象深い。でも、映っている彼の恰幅の良さが気になったのは私だけだろうか。

2001年宇宙の旅

2001年宇宙の旅2001年宇宙の旅
2001: A Space Odyssey
1968年/アメリカ・イギリス/139分
監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック
原作・脚本:アーサー・C・クラーク
撮影:ジェフリー・アンスワース、ジョン・オルコット
出演:ケア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド、ウィリアム・シルヴェスター、ダニエル・リクター、レナード・ロシター、他
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昔、というか10年程前に観た「2001年宇宙の旅」を観よう観ようと何年も思いつつようやく再度鑑賞。

作品の概要・解釈などについては『ウィキペディア(Wikipedia)』の「2001年宇宙の旅」を参照。

作品は他の「フルメタルジャケット」や「博士の異常な愛情」などのキューブリック作品のように「追いつめられる緊張感」が高い作品。

宙に舞ったゴリラ?の骨と宇宙船のジャンプカットや、ラストのあたりの「自分が知覚したもの、そのものになってしまう」ところなどは単にその映像の見せ方のアイデアに脱帽。

「リアルな映像体験」とか書いてある文章なども見かけるが、あれだけゆっくり動くものをワンカットて見せたらリアル以外になることはないと思ってしまうのは自分だけだろうか。

キューブリック監督は美術にもかなり凝っているのでそれだけワンカットにたいする絵画的な価値が高いとは思うのだが、そうなるとなおさらリアルになるのは当たり前にような。

個人的には人類の始まり〜スターチャイルドの誕生までのプロットの展開にもう少しひっかかりがあってシーンを有機的に結合できる契機を見つけられれば、そこから派生させていろいろ考えたりできそうだとは思うが、自分の頭ではなかなか難しいところです。不可解感は好きだが、もう少し分からないとあれこれと考えられない、というか。

日蔭のふたり

日蔭のふたり日蔭のふたり Jude
1996年/イギリス/123分
監督:マイケル・ウィンターボトム
原作:トーマス・ハーディ
脚本:ホセイン・アミニ
撮影:エドゥアルド・セラ
出演:クリストファー・エクルストン、ケイト・ウィンスレット、リーアム・カニンガム、レイチェル・グリフィス、ジューン・ウィットフィールド、ロス・コーヴィン・ターンブル、ジェームズ・デイレイ、ジェームズ・ネスビット、ポール・コプリー、ケン・ジョーンズ、他
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イギリスの作家・詩人、トーマス・ハーディの「日蔭者ジュード」を原作とした、「9songs」「24アワー・パーティ・ピープル」「ウェルカム・トゥ・サラエボ」「I Want You あなたが欲しい」「CODE46」など、毎回異なったジャンルの作品を発表し続けるマイケル・ウィンターボトム監督作品。この作品の後、助演?のケイト・ウィンスレットはジェームス・キャメロン監督の「タイタニック」で大注目されることとなる。

そのケイト・ウィンスレットはこの「日蔭のふたり」では心理学でいうボーダーライン・パーソナリティー・ディスオーダーのような役柄を熱演しているが、少し意地悪く観ると「単に自分で蒔いた種」による悲劇に僕なんかは感じてしまい、扇情的な感情をこれ見よがしに助長するような撮り方、表層的で安っぽい感じがしましたが、これくらい分かりやすいほうが観る人に間違いなくその悲劇性が伝わるんだろうということも再確認。

マイケル・ウィンターボトム監督作品は監督が何をしたいのかが分かりやすい上に、テンポのよいプロットの展開のなかで、生々しく表層的にリアルな映像を入れ込みながら魅せる手法が評価されているように感じた。

個人的に感情移入してしまったところは「ジュード」が大学制度に頼ることなく、苦学しながら在野の精神で身につけた学問、教養には悲劇以上に本来あるべき「学ぶ姿」が感じられ、自分の身の上なども勝手に投影しながら熱くなるシーンもあった。


マルコヴィッチの穴

マルコヴィッチの穴 DTSコレクターズエディションマルコヴィッチの穴 DTSコレクターズエディション
Being John Malkovich
1999年/アメリカ/112分
製作・監督:スパイク・ジョーンズ
製作総指揮・脚本:チャーリー・カウフマン
撮影:ランス・アコード
出演:ジョン・キューザック、キャメロン・ディアス、キャサリン・キーナー、オーソン・ビーン、メアリー・ケイ・プレイス、W・アール・ブラウン、チャーリー・シーン、ジョン・マルコヴィッチ、他
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監督はビョーク、ケミカル・ブラザーズなどのPVを手がけたスパイク・ジョーンズ。

PV出身の監督はCM出身の映画監督と同様に、人間を映画のなかで魅せる、というよりは映像美にはしってしまうことで、たとえユーモアなどを取り入れていても、人の描き方が表層的になりがちだが、この「マルコヴィッチの穴」はそんな不満を感じさせない作品で思った以上に鑑賞後の満足度が高い作品だった。

それは脚本の出来と、ジョン・キューザックがいい味を出していたことや、ジョン・マルコヴィッチの怪演によるところが大きいように思う。

こんなエロなら女性でも十分楽しめてしまうような作品を作ってしまうところに、PV界出身の大胆さが現れているようにも感じる。

あと気になったのはキャメロン・ディアスの顔。見始めてしばらくは「キャメロン・ディアスに似た女優」だと思っていたが、本人と分かるまでかなりの時間を要したのは、彼女の顔の造形がだいぶ変化している証拠だ。

個人的には「アメリカン・ビュティー」以来、久々に楽しめたコメディー作品だった。この作品は思った以上にファンタジーでティム・バートン監督作品にも通じるよいうな世界観には良い意味で裏切られることになった。

久々に、早く観なかったことが悔やまれる一本。まだ未見の「ヒューマン・ネイチャー」も俄然気になる存在となることに。

カフカの「城」

カフカの「城」 カフカの「城」
DAS SCHLOB
THE CASTLE
1997年/オーストリア・ドイツ/125分
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
原作:フランツ・カフカ「城」
撮影:イジー・スチブル
出演:ウルリッヒ・ミューエ、スザンヌ・ロタール、フランク・ギーリング、フェリックス・アイトナー、ニコラウス・パリラ、他
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意外にも日本未公開だったミヒャエル・ハネケ監督のドイツ語映画『カフカの「城」』「隠された記憶」のように「また、何かしてくれる」と期待して鑑賞。

結果的には思ったより地味な仕上がりだった感はあるが、たしか大学1年くらいの時に途中までは読んだはずの原作の持つ「見えない権力」のようなものの表現の仕方が絶妙で、斬新さというよりはカフカの小説を限られたコストで映画化する見本、のような印象が強い。

ちなみにハネケ監督の今のところの最新作「隠された記憶」はハリウッド資本でハネケ監督が続投して撮影が決まっている模様。

この『カフカの「城」』は勇気ある配給会社が日本にはないためにロードショーされることはなかったが、もし今後ハリウッドで注目されたりするやいなや日本の配給会社は飛びつくんだろうな、などと想像すると、配給会社が買ってくれるような映画を撮らなければ映画監督業で生きていけない現実なんかも思い出したりして軽くブルーになってしまいそうに・・・なんてことを考えさせられる映画。

ともあれ、ハネケ監督作品の特長は、ある意味デビット・リンチ監督などと同様に「人間の持つ闇」を映像化する天才であることは間違いないことを再確認。

メゾン・ド・ヒミコ

メゾン・ド・ヒミコ 特別版 (初回限定生産)メゾン・ド・ヒミコ 特別版 (初回限定生産)
2005年/日本/131分
監督:犬童一心
脚本:渡辺あや
撮影:葛井孝洋
音楽:細野晴臣
出演:オダギリジョー、柴咲コウ、田中泯、西島秀俊、歌澤寅右衛門、他
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「ジョゼと虎と魚たち」の犬童一心監督と脚本家の渡辺あやさんのコンビで送る第2弾。渡辺あやさんは大谷健太郎監督の「約三十の嘘」でも脚本を担当しているが、この作品はオリジナル脚本で5年間温めた作品のよう。

個人的には細野晴臣氏が音楽を担当していたのと、西島秀俊さんが出演している映画ということで鑑賞することに。

映画としては犬童監督の「金髪の草原」もそうだったが、くっきりハッキリとした画が積み上げられており、特に映像の完成度の高さが印象的。

「トニー滝谷」などの市川準監督もそうだが、CM出身の監督のワンカットに対する意識の高さをうかがい知れる。

と同時に、そのワンカットの中の間というか隙間の作りに映画的な中身を感じないというかある意味贅沢ではあるとは思うのだが、その間の取り方に消費経済的なムダを感じる気もする。

形式的にはワンカットがしっかりとした映画ではあるのだが、それに至る必然が観ていて感じられないところによるところが大きいように感じる。

カットとしてはオダギリジョーさんと西島秀俊さんの2人が1画面の中でやり取りをするカットが印象的。というか何よりも細野晴臣氏の音楽がこの「メゾン・ド・ヒミコ」という映画全体の質をひとつ上げている印象が強い。


「メゾン・ド・ヒミコ」公式サイト
http://himiko-movie.com/

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