2007年01月

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コーヒー&シガレッツ

コーヒー&シガレッツコーヒー&シガレッツ
Coffee and Cigarettes
2003年/アメリカ/97分
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:ロベルト・ベニーニ、ジョイ・リー、イギー・ポップ、トム・ウェイツ、ジョー・リガーノ、ルネ・フレンチ、E.J.ロドリゲス、ケイト・ブランシェット、メグ・ホワイト、ビル・マーレー、スティーヴ・ブシェミ、スティーヴ・クーガン、他
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独特の「ぬるさ」が特徴の最近のジム・ジャームッシュ監督作品。

この映画を観ると「映画とは何ぞや!!」といった鯱ばった考えが哀れに思えてくるくらい「さらり」と、なぜか観て不満を感じさせない映画となっている。

この映画「コーヒー&シガレッツ」は1986年から11本の短編を「コーヒー(紅茶)とタバコ」というテーマで、かつ、ほぼ同一のカット割りで魅せる連作集。

観ていて面白かったのはマイケル・ウインターボトム監督の「24アワー・パーティー・ピープル」でトニー役を演じたスティーヴ・クーガンが出ている「Cousins? いとこ同士?」。

クーガン氏の胡散臭さが絶妙にその小話に収斂されており、会話のやり取り、というか、その駆け引きがユーモラスで印象深い。

欲をいえば11編の連作のなかで「コーヒーとタバコ」以外の人間の根源的かつ抽象的な、「人生とは何か」というようなヒューマニズム的なものにおさまらないような、一貫したテーマがあって、このようなユーモラスな後味を残せたならば映画史に残る作品になるとは思うけれど、この映画の持ち味と両立しえないかな。

あとこの映画は本国では2003年の製作だが日本公開は05年。仮にこの映画に配給がなかなかつかなかったのかと考えると心苦しくなる。

このモノクロ映画は「単館系」とはいえ「ジャームッシュ監督作品」という名前はあるものの美術館で上映するような芸術ではなく、かといって大ヒットも見込るようなエンタテイメント映画でもない、純=映画が、他の安い志のドラマと比べて「商品」として成立しずらいことは、そんな映画ばかりが好きな私には小さな希望がより小さくなってしまうような気持ちにさせる、なんてことを考えてしまったり。

なお、公式サイトでは9種類の壁紙のダウンロードなどができる。

「コーヒー&シガレッツ」公式サイト
http://coffee-c.com/

ヒロシマモナムール/二十四時間の情事

ヒロシマモナムール/二十四時間の情事ヒロシマモナムール/二十四時間の情事
Hiroshima mon Amour
1959年/フランス・日本/91分
監督:アラン・レネ
原作・脚本:マルグリット・デュラス
撮影:サッシャ・ヴィエルニー、高橋通夫
出演:エマニュエル・リヴァ、岡田英次、ベルナール・フレッソン、アナトール・ドーマン、他
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「夜と霧」「去年マリエンバートで」の間に作られたセーヌ左岸派と呼ばれるアラン・レネ監督作品。

初見は10年程前でしたが、今回見返してみると改めてアラン・レネ監督の野心を感じないわけにはいかない。同じフランスの監督ならば「死刑台のエレベーター」「鬼火」などのルイ・マル監督も「ブラック・ムーン」という寓話的な実験映画を撮っているが、レネ監督は「時間と記憶」というある種哲学的なテーマで3本の映画を監督しておりその執着心というか切り口は、寓話=ファンタジーものと比べるとパンチが効いていてかつ斬新。

脚本は「ラマン」などのマルグリット・デュラス氏だが、DVDのプロダクションノートによると、レネ監督が当時新進気鋭の小説家に脚本の執筆を依頼した模様。その後、この作品をきっかけにデュラス氏は映画の世界に足を踏み入れた。

ヒロシマという場所から戦争の記憶、そして異人との情事へと連鎖していく様はシンプルな映像で簡潔に語られており、文字情報だけでは伝わりにくい部分を継続した時間を伴なってこそ現れる効果が独特で興味深い、ある意味とても映画的な映画=純映画。

台本を読んで画が浮かび、実際の人間が演じることによるリアリティーを魅せようとする映像の退屈さを思い出すと、この「ヒロシマモナムール/二十四時間の情事」の完成度の高さは驚愕に値する。純粋な意味での映画の価値は予算ではないこと痛感させられる小さな大作。

卍まんじ

卍まんじ卍まんじ
2006年/日本/80分/R-15
監督・脚本:井口昇
原作:谷崎潤一郎
撮影: 武山智則
音楽:清水真理
出演:秋桜子、不二子、荒川良々、野村宏伸、吉村実子、他
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「クルシメさん」「恋する幼虫」や「おいら女蛮」などの井口昇監督作品。

鑑賞後の印象としては、確かに谷崎潤一郎氏原作の卍の映画化とはなっているが、「おいら女蛮」などのはじけ具合をこの卍にも投入できればもっと面白い作品に仕上がったように思ってしまう。

脚色はあったとは思うのですが、若尾文子さんと先日お亡くなりになった岸田今日子さん主演の増村保造監督バージョンを超えるためには独自解釈があったほうが井口監督は自分の土俵でこの映画を撮ることができたのではないかと個人的には思う。

チラシのデザインは他の作品と比べて群を抜いているように見えるだけに落胆が大きかったのかもしれない。

「肌の隙間」などの不二子さんや秋桜子さん、野村宏伸さん、荒川良々さんなどが好演をしていたのが印象的。

永井豪原作ものでは「おいら女蛮」は庵野秀明監督の「キューティーハニー」を凌いでいると思いますが、勝手にそれ以上のものを期待していただけに少し残念。

「卍まんじ」公式サイト
http://www.artport.co.jp/movie/manji/

未来惑星ザルドス

未来惑星ザルドス未来惑星ザルドス
Zardoz
1974年/イギリス/106分
製作・監督・脚本:ジョン・ブアマン
撮影:ジェフリー・アンスワース
音楽:デヴィッド・マンロー
出演:ショーン・コネリー、シャーロット・ランプリング、サラ・ケステルマン、サリー・アン・ニュートン、ジョン・アルダートン、他
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「エクソシスト2」などのジョン・ブアマン監督作品。撮影監督はキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」などのジェフリー・アンスワース氏が担当。

神保町にあるCDレンタルショップ「JANIS」にて「スピルバーグが影響を受けた映画!」というPOPを見て即座に観ることにする。

僕が生まれた年、1974年に製作された映画なので、今から30年以上前のものとなるが、「永遠の命」などある意味、普遍性のあるテーマを扱っているだけに、というか、現在でも解決されていない問題を扱っているため、過ぎさった過去の映画という気持ちを抱くこともなく鑑賞。

ショーン・コネリーとシャーロット・ランプリングがウブな感じがする程若々しかったのが印象的。

恋物語的な要素もあるが「子孫繁栄」程度にしか描かれていないので「ソラリス」「ガタカ」「CODE46」のような恋愛SFではなく、劇中の倫理観に注目したいような哲学的SF作品。

この映画のデザインは時代に回収されてしまいがちなように思うが、「人間とは何ぞや」というような問いや、その着目点は時代を超えて取り組まれるものなので、好き嫌いはさておき、ある意味金字塔を打ち立てた作品といえる。

イギリス映画、侮るなかれ。

月の瞳

月の瞳月の瞳
When Night Is Falling
1995年/カナダ/95分
監督・脚本:パトリシア・ロゼマ
音楽:レスリー・バーバー
出演:パスカル・ビュシエール、ヘンリー・ツェーニー、レイチェル・クロフォード、ドン・マッケラー、トレイシー・ライト、他
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あまり日本に入ってこないカナダ映画ということで鑑賞。

観はじめると、一般映画ではありそうで実はあまりない、女流監督によるレズビアン恋愛映画だったことに少し驚く。

恋愛映画の作りとしては特に新しさや野心は感じない、普通というか展開、オチともに想像の範囲内というか、レズビアン映画としてちゃんとした映画ですが、そもそもこのジャンルの映画が他にないため、普通の作りでもやる価値はあるのかなとは思う。

マイノリティーものをメジャー感のある手法で表現しているが、この場合の潜在的な観客はメジャーな人となるため、商業的は大丈夫だったんだろうか、とつい心配してしまう。

カナダ映画とのことで出演者もカナダ系の役者さんがほとんどのようですが、アメリカ映画やハリウッド映画で観た顔は出演しておらず、新鮮なフラットな気持ちで鑑賞できた。

1995年製作のようなので、今から10年程前の映画ですが、音楽でいう80年代のニューロマンティック音楽のように、何故か「ひと昔前の映画」という感じがした。画作りがそう感じさせるのか、演出がそう感じさせるのかは定かではありません。

CODE46

CODE46 スペシャル・エディションCODE46 スペシャル・エディション
2003年/イギリス/93分
監督:マイケル・ウィンターボトム
脚本:フランク・コットレル・ボイス
撮影:アルウィン・カックラー、マルセル・ザイスキンド
出演:サマンサ・モートン、ティム・ロビンス、ジャンヌ・バリバール、オム・プリ、エシー・デイヴィス、他
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ちょうど本日から「グアンタナモ、僕達が見た真実」が封切りのマイケル・ウィンターボトム監督のSF恋愛作品。

う~ん、この映画のちまたの評価ってそこそこ高いように思うのだが、個人的には食べ物で例えると、ファミレスのパフェのようだった。それなりに豪勢な感じで彩りよくいろいろな具材は入っているものの、オリジナリティーに欠ける感じというか。

「CODE46」規制とか「共鳴ウイルス」とか、思わせぶりでいいネタやいい映像はあるにはあるのですが、本来あるべき重厚さがなくぺらぺらしていて考えるネタとしては物足りない。かといって脱構築しているわけでもないし、何だかなー、という印象は拭えない。

ただこの映画の映像や音楽にはジャンキーなアミノ酸的な嗜好性は存分にあるので、なんとなく鑑賞するにはもってこいのような気はする。綺麗な映像で積み上げられた恋愛SF映画はあまりないのでカップルが雰囲気を出したりするにはいいものかと。

同様の恋愛SFのジャンルの映画には「ガタカ」タルコフスキー版「惑星ソラリス」ソダーバーグ版「ソラリス」などがあるが、真面目に近未来についてひたすら考えるならば「惑星ソラリス」、それに加えムードも欲しければ「ガタカ」、ムードに加え深読みもしたければ「ソラリス」、ひたすらムードに浸りたければ「CODE46」をオススメする。

テオレマ

テオレマテオレマ
Teorema
1968年/イタリア/99分
監督・原作・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
撮影:ジュゼッペ・ルゾリーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ、編集:ニーノ・バラーリ
出演:テレンス・スタンプ、シルヴァーナ・マンガーノ、アンヌ・ヴィアゼムスキー、ラウラ・ベッティ、マッシモ・ジロッティ、他
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テオレマはイタリア語、ラテン語で「定理」の意味のようだが、「定理」を辞書引くと「証明済の命題、それ以降の推論の前提となるもの」となっている。

ただこの映画わかりにくいといえばかなりそうなので、仮に弁証法をしようにもその前提を理解できない、ようなもどかしさに陥る。

それと、この映画は例えば「人と人をその関係性から生まれる感情うつろい」のようなシークエンスで魅せるレオス・カラックス監督作品などとは違い、登場人物の感情の動きだけでは追い切れない飛躍が多く、そう感じると唐突な出来事が羅列されているかのようでもあるが、全編を観ると、だらだらとではあるが、ある寓話性に基づいた倫理観で出来事が語られている。この寓話性=神話性へとつながる。

いずれにせよ、「テオレマ」はただ作品のメッセージを鑑賞するような映画ではなく、違和感とともに差し出された出来事について鑑賞者が自分で感じ考える、具象にもかかわらず抽象性が高い映画なので、ハリウッドのエンタテイメント映画などのアトラクション映画好きための映画ではなく、主体性に対して自覚的な人にのための映画であるように思う。

時間をおいてまた観ると新たな味わいが期待できる数少ない映画。


セックス調査団

セックス調査団セックス調査団
Investigating Sex
2001年/ドイツ・アメリカ/105分
監督・脚本:アラン・ルドルフ
原作:アンドレ・ブルトン
脚本:マイケル・ヘンリー・ウィルソン
撮影:フロリアン・バルハウス、音楽:ウルフ・スコスベルグ
出演:ダーモット・マローニー、ネーヴ・キャンベル、ニック・ノルティ、ジュリー・デルピー、ジェレミー・デイビス、他
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この映画「セックス調査団」はその題名の為か、ビデオショップでは「エロティックコーナー」に置いておりますが、映像的にはあまり直接的に卑猥な表現のカットはない。

原作は「ナジャ」「シュールレアリズム宣言」などのアンドレ・ブルトンの「性に関する探究」ですが、映画自体がシュールレアリズムな感じなのではなく、近代的な手法でシュルレアリストのディスカッションを映像化した映画。

とはいえ「セックスの探求」について1920~30年代の設定で白熱した議論がされる為、映像的というよりは言葉的には卑猥な表現が多いかもしれない。

ただ、設定が当時のインテリたちの議論、となっている為、セックスも性交(セクシャルインターコース)というような表現になっている。要は「お上品な猥談」になっており、そういう素朴さ、というかひたむきさがお好きな人にとっては他にかえられない作品。第一次大戦直後のフランスの性の倫理観もうかがい知れて面白い。

さらに目を惹いたのは登場している役者陣。

主人公は初見でしたが、ソダーバーグ版の「ソラリス」でいい味を出していたジェレミー・デイビスや、レオス・カラックス監督の「汚れた血」、クシシュトフ・キェシロフスキ監督のトリコロール「白の愛」、ミカ・カウリスマキ監督の「GO!GO! LA」など、僕の好きな小規模映画に数多く出演しているジュリー・デルピーなどが出演していたのには驚いた。

単にピンク的な映画を作る目的でキャスティングされているわけではなく、文芸作品?としての志を感じてしまう。

ただこの映画は2001年の製作のようだが、1930年代くらいの舞台設定とのことで、多少アナクロ的に作ってはいるものの、観ているとどうも1970年代に製作された映画を観ているよう。

監督のアラン・ルドルフは80年代にはジョン・ローン主演の鬼作「モダーンズ」も監督している。

ちなみにこの映画はドイツとアメリカが製作のようですが、劇中の使用言語は英語。個人的にはアンドレ・ブルトン原作ものならば、コテコテのフランス語のものも観たいものです。


「セックス調査団」公式サイト
http://www.albatros-film.com/movie/sex/

死ぬまでにしたい10のこと

死ぬまでにしたい10のこと死ぬまでにしたい10のこと
My Life Without Me
2003年/カナダ・スペイン/106分
監督・脚本:イザベル・コヘット
製作総指揮:ペドロ・アルモドバル
撮影:ジャン=クロード・ラリュー
出演:サラ・ポーリー、スコット・スピードマン、デボラ・ハリー、マーク・ラファロ、レオノール・ワトリング、他
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スペインの巨匠、ペドロ・アルモドバル監督が製作総指揮の感動作。

原題は「My Life Without Me」だが、「死ぬまでにしたい10のこと」という邦題の方が映画の内容にも合致し、かつ、キャッチが効いていて素晴らしい。

映画の内容についてもあからさまな不満はないが、ペドロ・アルモドバル監督が総指揮だから仕方がないことだと思うが「ハイここが泣きどこです」といった露骨な演出に違和感を感じないわけにはいかない。

それだけ監督の意図がハッキリと映像化されている、とも言えるとは思うが、個人的には、ちょっと目を惹く美術や風変わりなキャスティングなど、息抜きというか「笑い」はいらないとは思うが、それ以外の魅せ場が欲しかった。そうすると「これ見よがしさ」がより気にならなくなるように思う。

でも、これくらいストレートな方が世界で感動作として理解されやすいし、日本でも受けるには受けるとは思うのですが。

みなさんは「あざとい」というか「わかりやすい」のがお好きなのかな。


L'amant ラマン

ラマンラマン
2004年/日本/92分/R-15
監督:廣木隆一
原作:やまだないと
脚本:七里圭
撮影:鈴木一博
出演:安藤希、田口トモロヲ、村上淳、大杉漣、前田綾花、他
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やまだないと氏+廣木隆一監督でこんな映画になるとは、ナチュラルなことのようにも思いますが、意外とハマルんだというところに少し感動。

「800 TWO LAP RUNNERS」での生々しくないクールなスポーツ性春ゲイものなど、一貫してクールではあるが、地味にどこか変わったところに目をつけた作品が多い廣木監督ですが、この「ラマン」も主演の女子高生にのみ魅せ場を作るのではなく、共演の大杉漣さんや田口トモロヲさん、村上淳さんの男3人組のそこはかとない魅力を引き出しており、そこが原作ともマッチして地味ではあるが見るとこ満点の作品に仕上がっている。

脚本は「のんきな姉さん」などの七里圭監督が担当している。

「熱っぽさ」を期待すると物足りなさを感じるかもしれない廣木監督ですが「少し遠くから観たいような事」に関してはは絶妙のタッチで映像化する稀な映画監督です。

「2番目の彼女」の前田綾花さんも独特の存在感を発揮している。

個人的な勝手な希望では、廣木監督には政治的なメッセージ性の強い作品を恋愛だけに焦点をあてるのではないような作品を撮ってもらいたいものです。

ふたりの5つの分かれ路

ふたりの5つの分かれ路ふたりの5つの分かれ路
5X2 cinq fois deux
2004年/フランス/90分
監督・脚本:フランソワ・オゾン
撮影:ヨリック・ルソー
出演:ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ、ステファン・フレイス、ジェラルディン・ペラス、フランソワーズ・ファビアン、アントワーヌ・シャピー、他
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「8人の女たち」で瞬く間に世界で注目を浴びることとなったフランソワ・オゾン監督の新作。

以前は「クリミナルラヴァーズ」や「焼け石に水」やその他の短編などでブラックな切れ味を披露していたオゾン監督ですが、最近は巨匠を目指して映画作りに励んでいるのだろうか。

「8人の女たち」も監督というよりは役者が凄い、という印象だし、「まぼろし」もシャーロット・ランプリングがいい味を出しているだけの気がしますが、オゾン監督の作品はちょうど先のリヴェット監督の「Mの物語」とは逆に、題名の段階から「やるぞ、やるぞ」という気負いが聴こえてきそうな作風。

構造的にはガス・ヴァン・サント監督の「エレファント」と同じ。ただその場合、みどころなる過去と未来の時間軸がねじれるようなオチとなる瞬間もなく、自分にとっては、シンプルだけど大胆な演出、というのではなく単に不満感が残る演出だった。

こういうオチだったら最悪だなぁ、と思いながら観ていたら、珍しく悪い予感が当たってしまった映画。

Mの物語

Mの物語Mの物語
L`Histoire de Marie et Julien
2003年/フランス/150分/R-15
監督・脚本:ジャック・リヴェット
撮影:ウィリアム・ルブチャンスキー
出演:エマニュエル・ベアール、イエジー・ラジヴィオヴィッチ、アンヌ・ブロシェ、オリヴィエ・クリュヴェイエ、ニコール・ガルシア、他
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ゴダールとともにフランスのヌーヴェルヴァーグを代表するジャック・リヴェット監督作品。

この映画もツタヤの「エロティックコーナー」に置いてあったが、ポルノグラフィックが売りのそれではなく「映画とは何か?」というプリミティブな部分の表現に野心を感じる、稀な映画だった。

以前劇場で観た「修道女」もそうだったが、この映画の後半の、それこそ、目に見えないスピード感には驚いてしまった。

中原俊監督の田口ランディ氏が原作の「コンセント」も同様の感想を持ったが、リヴェットの映画はゴダールなどとは違い「そんな大胆なコトはしませんよ」的な雰囲気を映像から醸し出しながら、後半にいきなりガラリと転換する。そんな印象を持ってしまう魅力的な映画。

ネタバレになりますが、ネタ的にはソラリスのそれと似ているしハリウッドものでは「シックスセンス」と似ている気がしますが、「ただのエロものか?」とゆるゆるの緊張感で観た私にはよけいにカウンターで入ってしまった、という感じだろうか。

もう80歳になるリヴェット監督ですが決して侮れません。「サラバンド」のベルイマン監督とは別の意味で。

幸せになるためのイタリア語講座

幸せになるためのイタリア語講座幸せになるためのイタリア語講座
Italiensk for begyndere
2000年/デンマーク/112分
監督・脚本:ロネ・シェルフィグ
撮影:ヨルゲン・ヨハンソン
出演:アンダース・W・ベアテルセン、ピーター・ガンツェラー、ラース・コールンド、アン・エレオノーラ・ヨーゲンセン、アネッテ・ストゥーヴェルベック、サラ・インドリオ・イェンセン、他
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良い意味で期待を裏切られた映画。

デンマークの映画はたぶん初めて観ましたが、飾らない、素朴なキャラクターがイキイキとしていて、それを狙ったハリウッドものなどよりも、素直に伝わりやすい映画だった。

ただ映画とは別に気になったことは、登場するデンマーク市民の貧しいこと。

おそらく階級が上の人々は豪勢な暮らしをしていらっしゃるのはどこの国も同じだとは思うが、どうも社会に対する上昇志向のようなものが一切感じられなかった。

この映画は本国デンマークで大ヒットし、後に世界各国に配給がついた作品ですが、日本でもそれなりに好評だったよう。

作中の人物は一見地味な「ビバリーヒルズ青春白書」並の青春群像劇のようですが、仮にこの作品を日本で映画化するとすると、ため息が出る程がっかりしたものになるようにも感じた。

まず、金銭的に貧しい。この状況を打破するような意気込みや希望がなく、そのことに甘んじていることに引け目を感じていない。

言い方を変えれば、肩肘はって頑張っている姿が皆無ということなのですが、どちらも褒めれたものではありませんが、恋愛以外に希望が持てないことに不満を感じない人生ってどうなんだろうとも思う。

さらに、そこそこ平和だと思っている人が多いこの日本でも上記のような映画が受け入れられていることには驚いた。

「自分だけは負け組みになりたくない」と思うような人でも安易に負けを受容してしまう、その無自覚な発想の転換・切り替えに驚きおののくばかりです。

意外なところで考えさせられた1本。

ザ・プラネット

ザ・プラネットザ・プラネット
The Planet
2001年/アルゼンチン/55分
音楽:フェルナンド・カブサッキ
監修:パブロ・ロドリゲス・ハウレギ
クリエイター:シルヴィア・アンブレ・ツガッツィ、フローレンシア・バレストラ、ホセ・マリア・ベッカリア、ジュリエッタ・ポッカード、マックス・カチンバ、ルイス・ブラー
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アルゼンチンのアニメーション、と聞いてがっつりと喰いついて鑑賞。

漠然と長編を期待していたが、パブロ・ロドリゲス・ハウレギ氏の監修による、複数のアニメーション作家の短編オムニパスもの。

線や色の使い方が独特といえばそうだが、紙素材のアニメーションが多かったせいか、日本の作家によるものとさほど変わりはないようにも感じる。

美術的な作り込みが必要なパペットものの方が作家性を出しやすいのかもしれない。

日本からみて地球の裏側の情報はあまり入ってこないが、自分らと同じような感性でアニメーションを製作していることを認識できた作品。

映画もそうだが、短編でオリジナリティー、というか作家性を出すのは難しいことを再確認。

実写ばかり観ているとつい、1コマの瞬間性に鈍感になってしまいがちだが、1秒たりとも無駄にできないというか、提示する時間・瞬間の重要性を思い出させられる。

のんきな姉さん

のんきな姉さんのんきな姉さん
2002年/日本/82分
監督・脚本:七里圭
原作:森鴎外、唐十郎 、 山本直樹
撮影:たむらまさき
音楽:侘美秀俊
助監督:西川美和
出演:梶原阿貴、塩田貞治、大森南朋、梓、細田玲菜、三浦友和、他
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珍しく早くもセカンドカットあたりで「これはイケる!」と感じさせた僕好み映画。

山本直樹氏原作の同名マンガの映画化、という頭で見始めたのでイヤラシイ、ポルノグラフィックな雰囲気のある映画を想像していたが、そういう映画ではなかった。

その上、十数年前に観た、諏訪敦彦監督の「Mother」を彷彿とさせる役者や画面の印象、おそらく撮影監督のたむらまさき氏やその他のスタッフなどが共通しているような印象を受けた。

カメラやフィルムの種類、現像方法などのハード的なものだけかもしれないが、演出家をたてない渡辺真紀子さん主演の短編映画集「TAMPEN/短編」にも通ずる部分があった。

脚本は原作・原案が森鴎外氏・唐十郎氏・山本直樹氏とのことだが、山本直樹氏の原作漫画しか読んでいないが、独自の詩的な解釈が施されているようでユニークな作風に仕上がっている。

三浦友和さんの芝居は現場ではどう受け止められていたかが興味深いが、作品中ではしまりのある演技でよい意味の安心感がある。

ちなみに監督は廣木隆一の「ラマン」で脚本を務めた七里圭監督。

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