2006年12月

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セックスボランティア

セックスボランティアセックスボランティア
河合 香織

新潮社

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この「セックスボランティア」を既に読んだ方はご存知とは思いますが、キャッチの聞いた書名とはうらはら、貴重な情報がまとめられた真面目なルポタージュでした。

自分の周りにも「障害」という枠に属した人がいますが、読んでいていろいろ考えさせられる、身につまされる情報が多かった。

このテーマは福祉の問題とも大きく関わってくると思うが「自分の権利を主張する=自分は損したくない」ような人が多い中、努力しても、今の現状が打開されるには何百年もかかりそうな気がしてきました。

日本では、「頑張ること」が美徳とされている→みんないっぱいいっぱいになりがち→自分のことで精一杯、というような流れで、人間を思考する、社会を思考する、文化を思考する、習慣もなければその価値も低いように、なんてことを考えてしまったり。

とはいえ、いろいろと鼓舞されるところは多かったので、今後自分の生活の中から実践したいものです。

贅沢な恋人たち

贅沢な恋人たち贅沢な恋人たち

村上龍、山田詠美、北方謙三、藤堂志津子、山川健一、森瑤子、村松友視、林真理子:著

幻冬舎 1997-04
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8人の日本の小説家による、「ホテルを舞台にした恋愛小説」という共通テーマをもった短編作品集。

個人的には初見でしたが、藤堂志津子氏の作品が印象的だった。この作品集は好評だった「贅沢な恋愛」の続編のよう。

このように、オムニパスというか複数の作家の作品集になっていると、普段読む作家が自然と制限されてしまう傾向を打破する契機がもてて嬉しく思ってしまう。

この作品集の中には、単行本で既読のものもあったが、文体や語り口、感覚など作家ごとの特徴を容易に感じることができて面白い。

読む機会の少ない短編小説などは、雑誌掲載などにとどまらず、このようなオムニパスでもいいので文庫まで落としてもらえれば、潜在的な読者の裾野は大きく広がるように思う。

持ち運びに便利な文庫や新書は形態として時代に即しているわけだし。本義的には雑誌の方が手に取りやすいはずなので本末転倒な気はしますが、普及版ということで。


溺れる人

溺れる人溺れる人/DROWNING MAN
2000年/日本/82分
製作・監督・脚本・編集:一尾直樹
撮影:山崎のりあき
音楽:南野梓、エモーショナル・アワー
出演:片岡礼子、塚本晋也、火田詮子、上馬場健弘、海上宏美、他
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「ハッシュ!」などの片岡礼子さんと、塚本晋也監督が主演の一尾直樹監督の自主製作映画。題名通り「溺れる人」という後味の残る、ある意味着眼点が素朴かつ普遍的な映画。

好きな映画ですが、もう少し「はっちゃける」というか全体的にパンチがあると印象もより強くなるように思う。以前VHSで観ていたことを途中まで忘れてしまっていた。

こういう低予算映画は親近感をもって観てしまいますが、少なくともDVDでは画が暗すぎであまりよく見えなかった。あと、小規模邦画によくあるように、台詞も聞き取りにくい場面があって、そこは大事なシーンだったりして、観る側としては困ってしまう。

特典のメイキング映像を観ていると、本編よりも広く、明るいいい感じの部屋で撮影していたように思ってしまい、今、撮影するならフィルムライクなハイビジョンか24コマのminiDVで撮影した方が雰囲気ともどもより表現できたのではないかと思ってしまう。

ヨーロッパなどでは特に「film=映画」なようですが、余りにも低予算のフィルム映画ならば、むしろフィルムにこだわらない方が作品の質を保てるような気がしてしまう。フィルムで公開するとなると結局35ミリにプリントする必要はあるけれど、DVDも視野に入れるならばデジタルでやった方が努力が報われる可能性が高いように思う。

とは言いつつ、結局フィルム好きなんだけど、自分の思い描く画を作るには手間とコストがかかりすぎだ。

おいら女蛮

おいら女蛮おいら女蛮
2006年/日本/62分/R-15
監督・脚本:井口昇
原作:永井豪
撮影:長野泰隆
音楽:石井雅子
出演:亜紗美、桃瀬えみる、松中沙織、伊東静香、デモ田中、美羽、村上浩章、ビートありま、三浦敦子、大堀こういち、他
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良い意味で期待を裏切られた1本。

井口昇監督作品は初めて観ましたが、もう少し役者への演出をちゃんとしてくれてもいいような気はしますが、ギャグ、エロ、コメディー、アクション、様々な要素を盛り込んだ力量は圧巻の一言。

特に美術は、もし、この作品がシリアスでサイバーな雰囲気の映像だったら初期の塚本晋也監督を彷彿とさせる、作り込みの確かなもので作り手の情熱を感じないわけにはいかない。

画に映っているのは「おっぱい(乳首)ミサイル」を「いやん、いやん」と言いながら発射する映像とかだったりするので一瞬評価をためらいそうになるが、映画のできは良い。

見る前から想像がついてしまうような予定調和的な、映画版「キューティー・ハニー」と比べても、良い意味で自主映画的で原作者は同じでも作り手によってこんなに作品の質に違いがでることを再認識。

エロコメディー映画というと小沼勝監督、脚本・荒井晴彦氏、原作・笠太郎氏の「Mr.ジレンマン 色情狂い」などを思い出しますが、これなんかと基本的には同じ路線のように思う。

こういう映画を突破口として何か「新しい映画」ができはしないか、とつい期待してしまう。

軽蔑

軽蔑(デジタルニューマスター版)軽蔑(デジタルニューマスター版)
Le Mepris
1963年/フランス・イタリア・アメリカ/102分
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
原作:アルベルト・モラヴィア
撮影:ラウル・クタール
出演:ミシェル・ピッコリ、ブリジット・バルドー、ジャック・パランス、フリッツ・ラング、他
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観たようなつもりになっていて意外にも観ていなかったゴダールの「軽蔑」を初めて鑑賞。

DVDの特典映像を見ると、1962年頃で100万ドルというゴダールの映画では大きな予算を投入して製作された映画のよう。今のレートでは1億円強だと思いますが、当時では多く3憶くらいということか? この金額はそんなに大規模なのだろうか。

この前観た「パッション」と比べるならば、「パッション」では製作費がないから撮影を続行できない、というような状態も語られていましたが、「軽蔑」では「お金を出した製作者が内容に注文をつける」状態が語られている。

製作年をくらべても、「勝手にしやがれ」以降、比較的お金はあつめられてはいたが、製作者との対立はあった、という状況から、非商業映画を経験してお金そのものを集めることが困難になってしまった状況がうかがい知れる。

製作者との対立から、接触すること事態が困難になってしまったようだ。作中でも「軽蔑」ではジャック・パランス演じる製作者が本編に登場しているが、「パッション」では、確か、資金調達を断られた、という電話や伝聞の形で表現されていた。

それはそうと、こういう、ブリジット・バルドーが意味もなく裸で寝ていたり、物語というかプロットはある程度はっきりたもっていて、かつ、ノイジーなやりとりやカットも含まれているような、ある意味いろいろバランスがとれているようなゴダール映画を好む人ももちろんいるとは思うが、個人的にはどこをとっても中途半端、というか歯切れがよくないような印象も持ってしまう。プロット的にもネチネチとした葛藤は好みではない。

ゴダールが体裁を取り繕う姿はあまり似合わない。ゴダールは突っ走っている時の方が、持ち味を発揮できているような気もする。ただそうすると、興行成績に現れるように、それに共感する人はほとんどいないので資金調達など、映画を成立させるための要素が欠けてしまうのはある意味悲劇だ。現実はそういうものなのだろうが。

援助交際撲滅運動 地獄変

援助交際撲滅運動 地獄変援助交際撲滅運動 地獄変
2005年/日本/57分/R-18
監督・撮影:鈴木浩介
原作:山本英夫、こしばてつや
脚本:豊島圭介
音楽:遠藤浩二
出演:蒼井そら、遠藤憲一、緋田康人、諏訪太朗、大西武志、他
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同名マンガが原作の「援助交際撲滅運動」の続編映画。監督の鈴木浩介氏はこの他には、数年前、最近閉館してしまった、テアトル池袋で上映された、仲根かすみ さん主演の「八月の幻」なども監督している。

今回の「援助交際撲滅運動 地獄変」はパッケージ画像などを見ると蒼井そらさんが主演のように見えますが、第一作と同様に遠藤憲一さんの怪演? が光る? 作品。

原作のマンガは読んでいませんが、脈絡なく演劇的に役者のテンションが高いことが印象的な映画だった。

映画「ナナ NANA」などもそうですが、原作のマンガに集客力があれば、映画自体は面白い作りになっていなくても、マンガのコマやキャラクターを実写で再現していれば原作のファンは満足するのだろうか?

小説が原作となっている場合、読みながら各自が画を想像してしまうせいか、不条理にも、原作→映画、の順だと満足感が得られにくい。

漫画が原作のものは、その難関をやすやすと越えているようで、不思議な感じがします。

私の頭の中の消しゴム

私の頭の中の消しゴム私の頭の中の消しゴム
A Moment to Remember
2004年/韓国/117分
監督・脚本:イ・ジェハン
撮影: イ・ジュンギュ
出演:チョン・ウソン、ソン・イェジン、ペク・チョンハク、パク・サンギュ、クォン・ビョンギル、キム・ヒリョン、他
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「オールド・ボーイ」以来、久々に韓国映画に挑戦。

ツタヤのレンタル状況を見ても、興行収入が好調な映画だったようですが、そのような映画によくあるように、僕にとっては敷居が高い映画だった。

「純愛」をテーマにしてアッと驚く映画を作るのは特に難しいとは思いますが、日本の状況でいうなら映画、というよりドラマな感じがした。

ネタ的には過去に同じ物は星の数ほどあるだろうし、見せ方が映画愛を感じる、というよりは、キャッチを狙っている感があった。恋愛映画で人間洞察が甘いと連続ドラマのようになることを再認識。

でも、このような話を好む人は後を絶たないようなので、ディテールを少し変えながら同じような作品が作り続けられるのかもしれない。

リアルを目指した恋愛エンタテイメント映画になっている気がするので、映画にうまく入れればとても楽しめる作りになっているとは思うが、入り込むためにはそれなりに人を選ぶとは思うので、退屈に感じてしまう映画好きも少なくないはず。

レイクサイド マーダーケース

レイクサイド マーダーケースレイクサイド マーダーケース
2004年/日本/118分
監督・脚本:青山真治
原作:東野圭吾
撮影:田村正毅
出演:役所広司、薬師丸ひろ子、柄本明、鶴見辰吾、杉田かおる、眞野裕子、黒田福美、豊川悦司、他
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大概のミステリー・サスペンスものがそうであるように、鑑賞中はところどころ爆笑しつつ、くいいるように観ていたが、観終えた後の満足感は不思議と低い映画だった。

単純にオチに納得がいっていないからのように思いますが、つじつまに関しては映像表現が雑だったからのように思う。東野圭吾氏の原作は読んでいませんが、女性写真家がどこで事件と関わりをもったのか、子供の行動は予測不能、というだけの説明など、半ば「強引」ともとれる説明だけでは、観ている側は納得しにくいので、満足感を得るのは難しい。

役者陣はすこぶる豪華。鶴見辰吾さん、杉田かおるさんの「金八先生コンビ」は夫婦役だし、「Wの悲劇」「セーラー服と機関銃」などの角川映画などを彷彿とさせる、薬師丸ひろ子さん、ほとんど声を発しなかった黒田福美さん、他にも役所広司さんや豊川悦司さん、柄本明さんなども、持ち味を生かした演技で観ている者を安心させる。

鶴見辰吾さんの演技っぷりには随時爆笑。

眞野裕子さんは初見でしたが、端整な顔立ちから想像できないナチュラルかつ大胆な脱ぎっぷりには「こんな綺麗な人がこんなに惜しげもなく」と良い意味で驚いた。眞野裕子さんは青山監督の「ユリイカ」にも出演しているようなので、今度もう一度彼女を探しつつ鑑賞したいものです。彼女は今のクールで放映中の「だめんずウォーカー」にも出演中とのことで、最近売れてきている役者さんなのかもしれません。ヌードやカラミのシーンなどのセクシャルな演技は、役者のその作品に賭ける想いが表現されやすいことを再確認。

過去の青山真治監督作品を思い返すと「EM EMBALMING/エンバーミング」に近いような感じがした。

「レイクサイド…」はサイコものではありませんが、娯楽ものにも関わらず、「作品に華がない感じ」は共通している。「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」は行き過ぎだとするならば、「ユリイカ」「Helpless」くらいの、リアルと非リアル、非娯楽と娯楽のバランスくらいの作品が青山真治監督の真骨頂のような気がする。

2007年4月に完成予定の新作「サッド・ヴァケイション」も浅野忠信さんや石田えりさん、板谷夕夏さん、宮崎あおいさん、オダギリジョーさん、光石研さん、嶋田久作さん、豊原功補さんなど、そうそうたる面々が出演しているようで俄然気になるところ。


I Want You あなたが欲しい

I Want You あなたが欲しいI Want You あなたが欲しい
1998年/イギリス/87分/R-15
監督:マイケル・ウィンターボトム
脚本:エワン・マクナミー
撮影:スワヴォミール・イジャック
出演:アレッサンドロ・ニヴォラ、レイチェル・ワイズ、ルカ・ペトルシック、ラビナ・ミテフスカ、カルメン・イジョゴ、ベン・ダニエルズ、ジェラルディン・オロウ、他
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「I Want You あなたがほしい」といういやらしそうな題名に惹かれ、かつ未見のマイケル・ウィンターボトム監督作品とのことで「9songs」ばりの激しいセックスシーンなどを期待しつつ鑑賞。

思ったよりセックスなどの性愛は描かれてはいなく、ストーリーがハッキリした作品。ウィンターボトム監督はエルビス・コステロの「I WANT YOU」をいたく気に入っていて同名の映画化に踏み出した模様。

いつものウィンターボトム監督作品のように、テーマの内容を掘り下げない、というか、物事を表層的に描写している印象がありましたが、実験色の強い作品というよりは、気に入った音楽をうまくはめるために作った映画のような気がした。本編中の音楽がいたく不自然な程に馴染んでいたのが印象的。

個人的には相手役の青年は、もっとこう、監督本人の身代わり的な存在になるのかと思っていたが、やられた、というか、拍子抜けしてしまう程あっけない役柄となっていた。

女優が出演している作品では、あざとい程に、どの作品も女性に都合のよい脚本になっているように思う。これで「女性に人気の監督」と言われているのは「サービスの恩賞」のような感じがして少し醒める。

うっすらと、移民などのイギリスの地方都市の状況などが感じられた。ウィンターボトム監督作品ならでは。

ヘイズ/HAZE

ヘイズ/HAZE-Original Long Versionヘイズ/HAZE-Original Long Version
2005年/日本/49分
プロデューサー・監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也
音楽:石川忠
出演:塚本晋也、藤井かほり、村瀬貴洋、神高貴宏、辻岡正人、さいとう真央、他
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「鉄男」「東京フィスト」「バレットバレー」「ヴィタール」「玉虫」などの塚本晋也監督の最新作。

塚本監督は、今思えば、昨今の「ジャパニーズ・ホラー」ブームの火付け役の一人だったのか? などと思ったりした。「15年かけて時代が追いついた」ということなのかもしれない。

この「HAZE/ヘイズ」は過去の塚本監督の作品郡からみると初期の作品、テイスト的には「鉄男」に近いように思う。役者陣的には「東京フィスト」以来の藤井かほりさんが出演している。ちなみに今回も監督自ら主演もしている。

この映画はエンドクレジットをみると、撮影カメラには Panasonic AG-DVX100 を使用し、FCPでカンパケにしたDV作品のよう。

光量が充分なシーンではすこぶる綺麗な映像に仕上がっていて、同じカメラで撮影した、瀬々隆久監督の「ユダ」の映像などを思い起こしたりしますが、本編のほとんどを占める、暗めのシーンではあまり見たくない感じのノイズがのっている。

塚本監督は「これでよし」としたのかもしれませんが映像的ながっかり感は否めない。フィルムカメラでは小回りの効いた少人数での撮影や、水中撮影、エフェクトなどがやりにくかったからかな、と想像しますが、見る側は撮影の段取りなんて気にしないので、仕上がりを見るとそんな風に感じてしまう、もったいない感じの画でした。

画的には16ミリ、スパー16ミリなどの質感があれば、作品に品格が生まれたように思う。DVは、フィルムと違って暗めの映像はハマらないことを再認識。

ただ、いつもの塚本節は健在で、塚本監督作品が好きな人にはなかなかたまらない作品であるようにも思う。

クリシーの静かな日々

クリシーの静かな日々〈ヘア無修正版〉クリシーの静かな日々〈ヘア無修正版〉
Quiet Days in Clichy / Giorni felici a Clichy
Les Jours heureux de Clichy
1990年/フランス・イタリア・西ドイツ/104分
監督・脚本:クロード・シャブロル
原作:ヘンリー・ミラー
撮影:ジャン・ラビエ
出演:アンドリュー・マッカーシー、ナイジェル・ヘイヴァース、ステファニー・コッタ、 バルバラ・デ・ロッシ、マリオ・アドルフ、他
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「いとこ同志」などのヌーヴェルヴァーグのクロード・シャブロル監督作品未見の新作! しかも、原作は「北回帰線」「南回帰線」などのヘンリー・ミラー。がっつりと喰いついて観ることに。

「ハリウッドのキャストとフランス人監督の異色の組み合わせ」などと謳われていましたが、どうなんだろう。プロットの組み立てに関しては成功しているとは言いにくいように思う。雑多なカットが多く解かりにくい気がする。

しかし、饗宴が繰り返されるセットはかなり作り込んであって、大写しにならない、エキストラ的な人々もちゃんと全裸になっており、特にロングショットは圧巻の一言。

フラッシュバック的に語り口による時間の操作も行われているが、なんか浮いてしまっている感じもした。

この映画にエロスを期待しすぎてしまった感はあるが、1920年代のパリの「こんな感じであっただろう」様子が動画で観れたのはよかった。

 

夜と霧

夜と霧夜と霧
Nuit et Brouillard
1955年/フランス/32分
監督:アラン・レネ
原作・脚本:ジャン・ケイヨール
撮影:ギスラン・クロケ、サッシャ・ヴィエルニー
音楽:ハンス・アイスラー
助監督:クリス・マイケル、他
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久々に観る凄い映像だった。

フランスでの公開は1955年だったようですが、日本ではたしか15年くらい経ってからだったはず。

マイケル・ウィンターボトム監督の「ウェルカム・トゥ・サラエボ」などもそうですが、こんなに生々しい映像は誰がどうやって集めたのか。その集めた映像をどうやって手に入れたのかが、まず気になる。

それと、ナチのユダヤ人虐殺は有名、というか、日本でも広く知られることだが、日本人の中国人の虐殺はどれくらいの人がその意識、認識をもっているのだろう。日本の国、自体がいつものように国内外に対して責任を取らない態度でいるために、そこに住む日本人も無知なまま、みっともない人生を送っている人も多いはずだ。

大量に虐殺しているはずなので、映像のソースも必ずどこかにあるはずだが、不思議と映画化されていないような気がする。無駄に情報があふれる中、未だに少なくともこの「夜と霧」のように観ようと思って手に取れる状態にはなっていない。

こんなことでは広島と長崎に原爆を投下したことを未だに知らないアメリカ人を馬鹿に出来ないどころか、悪い意味で全く同等だ。

作品的には「去年マリエンバートで」「24時間の情事(ヒロシマ・モナムール)」などで知られるフランスのアラン・レネの監督作品ですが、フィクションとドキュメンタリーというジャンルをまたいだ作品を発表しながら、同じ「記憶」をテーマとした作品に仕上がっている点は特筆に値する。

そもそも製作サイドは集客が見込めるものを作るのだとは思いますが、昨今の日本では、甘ったるいヒューマニズムで観る者の思考を停止させるような右翼映画ばかり公開されて、観る人は不服を感じないのだろうか。


幸福

幸福幸福
Le Bonheur
1964年/フランス/80分/R-18
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
撮影:ジャン・ラビエ、クロード・ボーソレイユ
出演:ジャン=クロード・ドルオ、クレール・ドルオ、マリー=フランス・ボワイエ、他
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アニエス・ヴァルタ監督作品は意外と初見だったのですが、結果的にいろいろと示唆に富んだ映画だった。

まず、シーンとシーンのつなぎのカットでパステル調のカラーが入るのはアニエス・ヴァルタ監督の夫である、ジャック・ドゥミ監督の「シェルブールの雨傘」を思い出させた。夫婦そろってそんなことをするなんて、きっといつかどこかで意気投合したに違いない。

この「幸福」は1965年のベネチア映画祭とルイドゥリックなどで受賞している作品だが、ストーリーは「妻子に恵まれた内装業を営む男が郵便局の受付嬢と浮気をして、その事実を妻に打ち明ける」といった、どうということのない話。

でも、そういえばそうではあるが、日本では案外「ありそうでない」感じの映画なのかもしれない。予算はそれほどかからないとは思うが、とりわけ「映画にしよう」とまでは思わないテーマの作品のような気がする。

でも、退屈だった瞬間はほとんどなく、素人の役者を多く起用し、スタジオ撮りをしない、ヌーヴェルヴァーグ=シネマ・ヴェリテ=ドキュメンタリー的フィクションは意外と自分の肌に合う。

ただ「自殺」についての言及があまりに淡白だったことは気にはなりますが、そこに焦点をあてると別の後味の映画になるので、監督の意向なのでしょう。

また、ほとんど全編をモーツアルトなどのクラシック音楽が流れていてあつかましい気も少しする。でも「幸福」という、ある意味敷居の高い、シンプルな題の映画の割には鑑賞後の満足度の高い作品だった。

アニエス・ヴァルタ監督は元写真家だけあってか、フレーミングや光、特に自然光に対する意識の高さも感じられる作品。

プロフィール

「映画喫茶」は自主映画監督、酒井啓が鑑賞した映画や小説などについて綴った備忘録ブログです。プロフィールなどの詳細は下記公式サイトへどうぞ。
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http://www.sakaiakira.net/
■公式サイト(英語・English)
SAKAI Akira Official Website
http://en.sakaiakira.net/
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