二重被爆

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二重被爆二重被爆
2006年/日本/60分
監督・編集:青木亮
プロデューサー:稲塚秀孝
撮影:三浦貴広
出演:山口彊、佐藤邦義、岩永章、松平和夫、浦頭和子、荒木良子、賀谷美佐子、故 山本芳子、他

大学時代の「腐れ縁の友人が監督をした」との知らせを聞いて、ちゃんと8月6日に浜離宮朝日ホールへ足を運ぶ。

作品は60分程でしたが、「原爆」という扱う題材のスケールが大きいわりに、作品全体を貫くテーマがぶれている、ところと、マイルドといえばそうだがメッセージ性に欠けているところが気になった。

映画のテーマが「二重被爆者」についてなのか「二回投爆」についてなのか「原爆の非人道性」についてなのかハッキリしない。難しいとは思うが、尺が60分ならばなおさら絞ったほうが良いのでは。

作る段階で方向性は決まっているはずだし、「二重被爆」についての映画ならば、後半の原爆でお妹さんと娘さん?を亡くしたことを、その簪でみつけた方のエピソードはこの作品が「原爆」についての話しならば必用だが、「二重被爆」についての作品ならばカットすべきシーンだ。論旨が通っていないと、扇情的に同情を引こうとしているだけの予定調和な作品になってしまう。

個人的には「被害者」=「二重被爆者」を切り口にするよりは、「二回投爆」何故アメリカは広島と長崎それぞれに原爆を投下したのか、を中心に据えた方が靖国参拝問題などを含めた、現在のアクチュアルな戦後問題などについて、建設的な意見の展開が可能となり、この作品を広く伝える必然性も高まるように思う。

「二重被爆者」の人物で押してくと、その事実をもとに原爆を考え直す契機にはなるかもしれないが、それで一見映画として成立していそうな作品にはなるが、フィクション戦争映画ならば「ハンバーガー・ヒル」のように「お国のために戦ってくれてありがとう」的に「2回も被爆にあうなんてかわいそう」「おきのどくに」で終わってしまうように思う。

この映画は、「二重に被爆を受けてもなお生きている人がいる。しかもその人は90歳になってもご存命だ。」というだけの論旨では、今、映画化する意義や、「原爆」というテーマがもつ議論の可能性を考えるともったいない選択だ。チラシの裏に書いてある「アメリカが二回投爆したこと」にたいする作り手の問題提起も、出演者の証言が少しあるだけで、作り手の意図、言わないならば言わない意図、がほとんど感じられない。

取材者に慰安を与えるような作品は過去60数年の間にさんざん作られたいたと思うので、今、このテーマを映画にするのならば、その必然性が感じられる作品にして欲しかった。


また、それとは別に、この作品を観て「映画」と「番組」の違いも考えた。

番組は、例えばNHKにはNHKの都合があるだろうし、それに合わせるのが必然となるが、映画ならば、その制約はないなず。製作者のメッセージ性が高い作品を作りやすい状況になる。

取材先のソースから得た情報のみを提示するのは一見「好印象」なような気がするが、その対象は恣意的なものであるので、それを解かっていてやらないのならば納得できるが、どうも並びがいいように整えてあるだけのような印象をもってしまうところに、この作品の不満点があるように思う。などなど。


と、さんざん文句を挙げてしまったが。幸か不幸かこの作品の尺は60分。

一般の映画にくらべて気軽に見やすい長さであるのと、大学などであれば、ひとコマ90分なので作品を見終えても30分議論の時間がとれてちょうど良いと思う。

それに、この作品は上記の理由で、潜在的に引っ張り出せる議論には事欠かなくあるので、識のある人が、広島と長崎に使われた原爆の種類が違うことから導き出せる、アメリカの人体実験の話、など「補足」を加えていけば「二重被爆」についての見識のない若い人たが、この作品を観る価値は高まるはずだ。

季節映画以上の作品になることを期待する。
監督まだ若いわけだしね。






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