2007年03月

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やわらかい生活

やわらかい生活 スペシャル・エディションやわらかい生活 スペシャル・エディション
2006年/日本/126分
監督:廣木隆一
プロデューサー:森重晃
原作:絲山秋子「イッツ・オンリー・トーク」(文藝春秋)
脚本:荒井晴彦
撮影:鈴木一博
音楽:nido
出演:寺島しのぶ、豊川悦司、松岡俊介、田口トモロヲ、妻夫木聡、大森南朋、柄本明、他
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この「やわらかい生活」は「800 TWO LAP RUNNERS」「L'amant ラマン」「不貞の季節」「東京ゴミ女」「ヴァイブレータ」「female フィーメイル」(太陽のみえる場所まで)など、クールな作風が印象的な巨匠、廣木隆一監督作品。

脚本は「ヴァイブレータ」と同様に荒井晴彦氏が担当。主演も「ヴァイブレータ」に引き続き寺島しのぶさんが務め、脇を豊川悦司さん、松岡俊介さん、田口トモロヲさん、妻夫木聡さん、大森南朋さん、柄本明さんなど確かな演技の男優達がしめる、逆ハーレム的な意味で寺島しのぶさんにとって贅沢なキャスティング。

廣木隆一監督作品というと、「撮るテーマに対して距離をとる」印象があり、そこがクールさにつながっているような作品が多いが、今回はらしからぬ感じが出ていて、逆に好印象。名実ともに演出プランは「ヴァイブレータ」の延長線上にあることが感じられる。

絲山秋子氏の原作は読んでいないが、寺島しのぶさん演じる役柄のような30代女性は自分の周りに多いような気がした。役中の設定も早稲田卒だったが、「気づかないうちに生きていくのが苦しくなってしまった30代女性」などには癒しの1本となる映画のような気がする。

相手役の豊川悦司さんもそういう意味ではハマリ役なような気がする。一方で、松岡俊介さんと妻夫木聡さんは役柄が逆な方が自然だった感がある。このキャストは冒険といえばそうだが、冒険する必然を観ていて感じなかったのは少し残念な点。

個人的には撮るテーマを真摯に追い求めるような映画が好きな私にとっては、この「やわらかい生活」は廣木隆一監督作品の中でナンバーワンだ。

「やわらかい生活」公式サイト
http://www.yawarakai-seikatsu.com/

松ヶ根乱射事件

松ヶ根乱射事件 松ヶ根乱射事件
2006年/日本/112分/PG-12
監督・脚本:山下敦弘
脚本:向井康介、佐藤久美子
撮影:蔦井孝洋
音楽:パスカルズ
エンディング曲:BOREDOMS「モレシコ」
出演:新井浩文、山中崇、川越美和、木村祐一、三浦友和、キムラ緑子、烏丸せつこ、安藤玉恵、西尾まり、康すおん、光石研、でんでん、榎木兵衛、中村義洋、鈴木智香子、宇田鉄平、桜井小桃、他

「この男狂棒に突き」「リンダ・リンダ・リンダ」「不詳の人」「リアリズムの宿」などの山下敦弘監督作品。

先日「何か新しいものが観れるハズ」と期待しテアトル新宿に脚を運ぶも、その期待の高さからかガッカリして映画館から出る。

まず、ビジュアル的に立つ女優を使っていないことやユーモアを交え、最後まで観続けさせる力量は凄いといえばそうだが、製作段階からのこの映画での「作為」と山下監督の持ち味が生かされていない作品に感じてしまった。この作品に三浦友和氏や新井浩文氏などが出演していなかったことを考えると、単なる安い自主映画になってしまっただろうことは否めなく、期待される若手監督の作品のハズが、観ていて哀しくなる。

難しいテーマを考えや確信なしに、ユーモアは混ぜて個人的な思い提示したような映画という印象。
取り入れようと思えば、時代的に松本サリン事件や阪神大震災など、いろんな普遍性のあるテーマはあったはず。

山下監督には独特のユーモアが持ち味のように感じていたが、たいした考えなしにシリアスものを撮っても、そういう路線が得意な人たちの作品などと比較すると見劣りしてしまう。

他人の土俵で相撲をとっても見劣りしてしまえばその価値はない、というか、製作に協力してくれた長野県の人たちなどがこの映画を観てどう思うのか。あるいは、映画好きがこの映画を観てどう思うのか。映画好きでなくてもたまたまこの映画を観た人がどう思うのか。どこにいってもいいことがないような作品のような気がして貴重なお金や人材のことを考えるとため息がとまらなくなってしまう。劇場では台詞聞き取りにくいし。というかあまり聞こえないし。

「ひょっとしてこの『松ヶ根乱射事件』は『春子』に乱射という意味?」と思わせるところは面白いといえばそうだ。ラストもタイトに締めておりその点は好感が持てる。

山下監督期待していたんだけどなぁ・・・。
でも、この作品の後も何やらたくさん撮っているようなのでそっちに期待。

「松ヶ根乱射事件」公式サイト
http://www.matsugane.jp/

不詳の人

不詳の人不詳の人
2004年/日本/64分
監督:山下敦弘
脚本:向井康介
撮影:近藤龍人
編集:山本浩司
出演:海老原薫、土屋壮、大澤聖子、高橋美保、津川美幸、土橋直美、永井陽子、東亜希子、山本剛史、他
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最近いろんなツタヤを見回して、自主映画あがりの監督で、その自主映画時代の作品のDVDが一番数多くレンタルされている山下敦弘監督作品。

この「不詳の人」「道」「その男狂棒に突き」と同様なドキュメンタリーを装ったフィクション映画。

ふと、この映画の面白さって「近しい人の他人事」なのかなと思う。ネットでどこかの記事にも書いてあったが、確かに登場人物に感情移入して観るような映画ではない。「明日はわが身」というよりは、「気持ちはわからんでもないが、所詮他人事」といった事柄をその「他人」に近い目線で作られているところに笑いというか面白さがあるように感じる

「ハイこれがおもしろいとされているものです」というような提示はハードルが高いが、必死に苦しんでいる「他人」の、その人自身の目線で語られていれば、映っている当人や事柄自体は緊迫しているので、それを観る側のハードルも低く設定されやすい。

個人的には「美男、美女」ばかりが登場する「その男狂棒に突き」を観てみたいが、そんなものは存在不可能だろうか。

ソドムの市

パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版)パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版)
Salo o le 120 Giornate di Sodoma
1975年/イタリア/118分
監督・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
原作:マルキ・ド・サド
脚本:セルジオ・チッティ
撮影:トニーノ・デリ・コリ
出演:パオロ・ボナチェッリ、ジョルジオ・カタルディ、カテリーナ・ボラット、アルド・ヴァレッティ、ウンベルト・P・クィナヴァル、他
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ベルトルッチ監督の生みの親でもあるパゾリーニ監督の遺作となった「ソドムの市」

作品名などでググると詳細な解説ページなどが数多くあるので作品分析などはそちらをご参照に。

パゾリーニ監督作品はまだ「テオレマ」しか観れていないが、この映画も「テオレマ」と同様にメタファーが効いている。

例えばキューブリック監督の「フルメタルジャケット」などの、いわゆる「追い込み系」とは違って、暗喩のようにある事柄が象徴するようなことをほのめかす程度なので、映っていることそのものを表現しているわけではないことはハッキリわかるが、体制についての反発であることはハッキリわかるのですが、個別具体的な「ココのコレに対する」と突き詰めて考えるととたんに解かりにくい。

反ナチ、というよりは資本主義というか制度、社会自体を批判しているように感じるが、実際に映っている映像はスカトロというか糞食だったり、目を刳り貫かれたり、舌を抜かれたりする拷問や、というか、そもそも若い男女が布切れ一枚まとわずに裸で映っているような光景を2時間近く観ていると、それを見る側の感覚も変化してきて面白い。

そもそもヌードといえばポルノグラフィックや医療など、ある特定の状況とあいまって認識されているが、その特定の状況ではないものが表現されたヌードはポルノとは逆にそれだけで刺激的だ。

詩人でもあるパゾリーニ監督のセックスに対する考えがこの「ソドムの市」にあったことは間違いないないはずだ。

YUMENO ユメノ

YUMENOYUMENO
2004年/日本/93分
監督・脚本:鎌田義孝
プロデューサー:浅野博貴、朝倉大介、岩田治樹
脚本:井土紀州
撮影:鍋島淳裕
音楽:山田勲生
出演:菜葉菜、小林且弥、金井史更、夏生ゆうな、内田春菊、小木茂光、長井秀和、渡辺真起子、柳ユーレイ、寺島進、他
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伊藤秀裕監督の「男たちのかいた絵」、青山真治監督の「Wild Life」、小田切正明監督の「ありがとう」「TOKYO BEAST」、望月六郎監督の「恋 極道」、中田昌宏監督、花村萬月原作の「紅色の夢」など1990年代の邦画立て続けに出演していた夏生ゆうなさんが出演している映画を久々に見つけ即座に鑑賞。

彼女の出演時間自体は短かかったが、いい女になっていた。年齢も重ねているはずだが、そうも見えなかったのがまた魅力的。

それに加え、長井秀和さん、諏訪敦彦監督の「M/OTHER」や「TAMPEN 短篇」に出演していた渡辺真起子さん、や柳ユーレイさん、今や名俳優の風格漂う寺島進さんなどの押さえた演技を魅せることができるたしかな役者さんたちが出演していたのが印象的。

この「YUMENO ユメノ」はなんというか、私が唯一鑑賞中に途中で映画館から出てしまった、塩田明彦監督の「害虫」を思い出させる。単純に「少女が主演」だからとも思うが嫌いではないがどうも水が合わない。自主映画的なテイストは好きだが、どうも「子供を出すのは卑怯だ」なんて考えてしまう。

たしか主演の菜葉菜さんは最近活躍の場を広げている園子温監督の「夢の中へ」にも出演していたはず。ある意味夢つながり???

■アルゴピクチャーズ「YUMENO」
http://www.argopictures.jp/lineup/yumeno

ゆれる

ゆれるゆれる
2006年/日本/119分
監督・原案・脚本:西川美和
企画:是枝裕和、安田匡裕
撮影:高瀬比呂志
音楽:カリフラワーズ
出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、木村祐一、ピエール瀧、田山涼成、河原さぶ、キタキマユ、田口トモロヲ、蟹江敬三、他
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この「ゆれる」「のんきな姉さん」の助監督、「female」の「女神のかかと」、「野いちご」などの西川美和監督の最新作。

始めはオダギリジョーさんの主演作だと思って観ていたが、兄弟の話ではあるけれど、観終える頃には次第に香川照之さんが主演でオダギリさんは助演、という感じ。

台本段階ではどちらもが主演でいたはずだが、オダギリさんもいい芝居をしたと思うが、香川照之さんの観るものの意識を惹く演技には正直びっくり。

「ゆれる」はチャラチャラしたものを真剣に撮る、というよりは、骨太な純映画を真剣に撮っているのが観る者に伝わる作品に仕上がっている。冒頭の音楽にはその気合いすら感じる。

主演の2人の脇を固める伊武雅刀さん、新井浩文さん、田口トモロヲさん、蟹江敬三さんなどは確かな演技でこの映画のフレームの格式を与えている、と同時に、木村祐一さんやピエール瀧さんもその特長を活かしアクセントを与えている。これくらいの役者陣が出演すれば、予算的にギリギリの映画であっても、脚本次第ではそれを感じさせない作品となる好例だ。

ちょっと前の東京新聞でも「今注目の女性」という感じで紹介されていたが、個人的にも今後の動向が気になる数少ない監督のひとり。

ドリーマーズ

ドリーマーズ 特別版 ~R-18ヴァージョン~ドリーマーズ 特別版 ~R-18ヴァージョン~
The Dreamers
2003年/イギリス・フランス・イタリア/113分/R-18
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
原作・脚本:ギルバート・アデア「ドリーマーズ」白水社
撮影:ファビオ・チャンケッティ
出演:マイケル・ピット、エヴァ・グリーン、ルイ・ガレル、ロバン・ルヌーチ、アンナ・チャンセラー、ジャン=ピエール・カルフォン、ジャン=ピエール・レオ、他
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「ラストタンゴ・イン・パリ」「1900年」「ラストエンペラー」「シェルタリング・スカイ」「リトル・ブッタ」「シャンドライの恋」などのベルナルド・ベルトルッチ監督作品。

1968年のパリを描いてはいるが、60年代~80年代にあった映像の格式はなく「世界の巨匠の作品がなんと今ではお求め安くなってお茶の間価格で登場」といいた感じで、それが「成熟した」などと評価する人はいるとは思うが、逆にまた、早くして成功を収めた巨匠が、ハリウッドと同じ土壌で勝負し、作品を作り続けることの難しさを感じさせる。

例えば、ベルトルッチに影響を与えたというゴダールのように、フランス語映画ばかりを撮っていたら潜在的に多くの人に観てもらえる可能性はハリウッド映画と比べたら爪の垢程になってしまうだろうし、だからといって沈黙していても何も生まれない。

周囲の期待と自分の満足の折り合いをつけるのは若くして成功してしまうと特に難しいと思うが、臆することなく作品を発表し続けているのは驚嘆に値する。

Wikipedediaでは「1980年代にはあったカリスマ性は現在では薄れている」と表記されているが、今後はイタリア語でよいので、映画に対するオマージュではなく、新しい種類の映画を作るという気合いを感じさせる作品を観たいものです。

ちなみにこの「ドリーマーズ」「ジョルジュ・バタイユ ママン」と同様に、ルイ・ガレルが手淫して射精するシーンがじっくり描写されており「そんなタチ姿が様になる役者」という難しい、というかある種特権的な役者としての地位を確立した感もあり、今後の彼の動向は興味深い。

勝手に逃げろ/人生

勝手に逃げろ/人生勝手に逃げろ/人生 Souve Qui Peut (La Vie)
1979年/フランス・スイス/98分
監督・製作・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
脚本:アン=マリー・メルヴィル、ジャン=クロード・カリエール
撮影:ウィリアム・ルブチャンスキー、レナート・ベルタ
出演:ジャック・デュトロン 、ナタリー・バイ 、イザベル・ユペール 、ローランド・アムスタッツ 、セシル・タナー、アンナ・バルダッチニ、他
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たしか渡仏していた1996年の秋、11月にパリのリパブリックにあるシネマテークでこの「勝手に逃げろ/人生」を初めて観た記憶がある。帰国してから気づいたが、同じ頃、同じパリで哲学者のジル・ドゥルーズが「飛び降り」とも思える謎の死を遂げた時だ。

この名画座のようなシネマテークでは「ヌーベルヴァーグ特集」のようなものを上映しており、そこでの鑑賞だったが、周りの客層が若い有色人種が多かったことが印象的。

おそらく今思えば、低い階層に属する移民たちのはずだが、フランス本国では「プロレタリアのための映画」を声高に表明していたゴダールの意思が思った以上に受け入れられてたのか、それとも、日本に状況と同じように、単にゴダール映画のデザイン性などに惹かれた若者たちだったのかは今でも定かではない。

今回日本語字幕で初めての鑑賞だったが、やはり、フランス語でわからないところは日本語でもついていけなかった。

これだけの「労働」「性」「経済」についてのエピソードをノイジーに羅列しつつも、やんわりとひとつのプロットがたっている具合は、観ていて創作意欲がかきたてられるばかりだ。

日本版のDVDのジャケットは、たしか、この作品がR指定になっていないことを考えるとかなり挑戦的。ヨーロッパではたしかR-15などになっていたはず。というか、この「勝手に逃げろ/人生」は1979年の製作だが、日本で配給がついたのは90年代になってからだったらしい。10年も経てば倫理感も変わるのでそこらへんが理由だっただけかもしれないが。

「バルスーズ」「パッション」で初々しい存在感を放っていたイザベル・ユペールが大切な役所で出演していて興味深い。彼女が登場したあたりからこの映画のテンポも上がり、作品にリズムを与えている。

製作は50数作品を製作し、「マルホランド・ドライブ」ではプロデューサーを務めたアラン・サルド。

ゴダール作品は年代毎に様々あるが、この「勝手に逃げろ/人生」は個人的に一番好きな作品。

カイロの紫のバラ

カイロの紫のバラカイロの紫のバラ
The Purple Rose of Cairo
1985年/アメリカ/82分
監督・脚本:ウディ・アレン
撮影:ゴードン・ウィリス
出演:ミア・ファロー、ジェフ・ダニエルズ、ダニー・アイエロ、エド・ハーマン、ダイアン・ウィースト、ヴァン・ジョンソン、ゾー・コールドウェル、ミロ・オーシャ、ジョン・ウッド、グレン・ヘドリー、マイケル・タッカー、他
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ミア・ファローの魅力全開の映画。

ウディ・アレン監督作品はまだまだ初心者だが、ウディ・アレンの映画に対する愛着や思いを感ぜずにはいられない映画。

おそらく様々な方法で「観ること」「視線」などについての映画を作ることは考えられるが、プロットと登場人物のキャラクターを生かしたまま、それを表現するのはウディ・アレンならではかと。乙女心を大切にする全ての女性に捧げる映画。

ただこの映画「人間ドラマ=主人公の成長が描かれるドラマ」を期待するならばガックリときてしまうるようにも思うが「開き直りの完全自己肯定」的に観ればかなり愉快に鑑賞できる。

ふと思うにこの映画は初期ティム・バートン監督の作風に通ずるように感じるのは私だけだろうか。

カンヌ SHORT5

カンヌ SHORT5カンヌ SHORT5 Cannes Short5
FAST FILM 2003年/オーストリア・ルクセンブルグ/14分 
監督:ヴァージル・ウィドリッチ
Do you hava the shine? 2002年/スウェーデン・フランス/6分 
監督:ヨハン・ターフィル
field 2001年/イギリス/10分 監督:デュアン・ホプキンス
Play with me 2002年/オランダ/13分 監督:エッサー:ロッツ
Janne da Arc on the Night bus 2003年/ハンガリー/25分 
監督:コーネル・ムンドルッツォ
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カンヌ映画祭の短編部門で好評だった作品5本を集めたオムニパス映画。

作っていないのかもしれないが、日本にはオーストリアやルクセンブルグ、オランダ、ハンガリーなどからの映画はなかなか入ってこないので貴重な映像体験だった。特にハンガリー映画は何年か前にハンガリー映画祭で観た、タル・ベーラ監督の「ヴェルクマイスター・ハーモニー」や「サタン・タンゴ」以来になる。

地球広しといえど案外同じような国の人が同じような人のために作った映画しか観ていないのかもしれない、という無自覚な価値観の狭さを考えさせられる。こういうことは外国に行ったときに思うことなのかもしれないが、この短編集はそんな気持ちを想いおこさせる。

より多くの人が映画館に脚をはこんび、かつ、満足感を持って帰れるような作品を作ろうとすると、結果どの映画も似てくる。そんな当たり前のことを気づかせてくれる。

5作品とも尺、テーマともにバラエティーに富んでいるので比較はできないが、カンヌなので総じてエンタテイメントというよりブラックであったりユニークであることに主眼がおかれているように思う。

5本目のハンガリーの「Janne da Arc on the Night bus 」には特にやられてしまった。


「カンヌ SHORT5」公式サイト
http://www.uplink.co.jp/cannes_short5/

ナイト・オン・ザ・プラネット

ナイト・オン・ザ・プラネットナイト・オン・ザ・プラネット
Night on Earth
1991年/アメリカ/119分
監督・製作・脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:フレデリック・エルムス、音楽:トム・ウェイツ
出演:ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ジャンカルロ・エスポジト、アーミン・ミューラー・スタール、ロージー・ペレズ、イザアック・ド・バンコレ、ベアトリス・ダル、ロベルト・ベニーニ、パオロ・ボナチェリ、マッティ・ペロンパー、他
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最近では「コーヒー&シガレッツ」などが話題になったジム・ジャームッシュ監督作品。

この「ナイト・オン・ザ・プラネット」などはちょうど僕が大学時代に公開されていたような気がする。流行りものというよりは映画史に残るような作家として注目を浴びており、「パーマネント・バケーション」「ダウン・バイ・ロー」「ミステリー・トレイン」など低予算ながら独自のテイストの作品を量産していた記憶がある。

たぶん15年ぶりくらいに観た今回の「ナイト・オン・ザ・プラネット」はプロットなどほとんど見事に忘れていた。「観た瞬間に思い出す」という調子のいい言い訳を思いついたり。

ただ、今回気になったのは何故「ニューヨーク編」と「ロサンジェルス編」のアメリカが2編あるのか。また、それとは別に、改めて観ると最初のウィノナ・ライダー VS ジーナ・ローランズのニューヨーク編が全体を通じて観ると浮いていたように感じる点。

あとヘルシンキは他の都市と比べるとメトロポリタン的な要素に欠けていてこれもどうなんだろう、などと思ったり。ただこの映画は論文などではないので整然とする必要は全くないのではあるのですが。

個人的には「パリ編」のベアトリス・ダルがいいもち味を出していたように感じ印象深い。それとウィノナ・ライダーの「メカぁニック」、ローマ編の「アーソー」の発音が耳に残る。

ジャームッシュ監督はある意味素朴な演出ながら、鑑賞後に温かい気持ちになれ、安心して観続けられる数少ない監督のひとり。

壊音 KAI-ON

壊音 KAI-ON壊音 KAI-ON
2002年/日本/84分
監督・撮影・編集・音楽:奥秀太郎
原作:篠原一「壊音」文春文庫
音楽:大友良英
出演:小林愛、宮道佐和子、岡光美和子、片山圭、中坪由起子、他
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この「壊音 KAI-ON」「赤線」「日雇い刑事」などの奥秀太郎監督作品。

たしか自分の映画の上映会のビラを新宿のツタヤに撒きに行ったときに、この「壊音」のビラが置いてあっり、そのビラのシンプルなデザインに「なんかかっこいい」と思った記憶がある。

もう5年も前のことになるのかと思うと自分の非進化っぷりを考えるとがっくりきそうになる。

それはさておき、この映画はDVD+ヘッドホンで鑑賞したが、そんなスタイルでの鑑賞があう作品のように思う。

小規模の劇場だとスピーカーなどの音響の問題が大きいのでヘッドホンだと手軽に、周りに迷惑をかけることなく、まあまあの音でノイジーな音楽を楽しむことができる。

この映画はその題名通り「壊音」という感じの映画だが、原作はどうなっているのかわからないけれど、個人的にはせっかく実写で撮るのなら、形式だけでいいのでプロット的なものを入れたほうが見やすいようには思う。

役者立たせて教室を借りたり破壊したりするわけだから、なんか「人力がもったいない」と感じたのが正直なところ。

ただ、観ていていい音楽でサイケデリックな気持ちでになれる瞬間はあるので、部分的にカタルシスを感じれて気持ちがいい。夢に出そう、というか、音楽と映像の断片が記憶に残る映画。

L.S.D. LOVE,SEX&DRUG

L.S.D. LOVE,SEX&DRUGL.S.D. LOVE,SEX&DRUG
1996年/フランス・ポルトガル・オランダ/90分
監督・脚本:ヨランド・ゾーベルマン
撮影: ドニ・ルノワール
出演:エロディ・ブシェーズ、ベアトリス・ダル、ロシュディ・ゼム、ジュリー・バタイユ、リシャール・クルセ、リュック・ラヴァンディエ、エマニュエル・サリンジャー、他
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ジャン=ジャック・ベネックス監督の「ベティブルー」の演技があまりにも印象的なベアトリス・ダル出演作ということで鑑賞。

数年前に諏訪敦彦監督の「H Story」に出演していた彼女は当たり前ですが、いつのまにか立派な熟女になっていてすこぶる驚いたが、ちょうど初主演の「ベティブルー」と比較的最近の「H Story」の間の時期に製作された作品ということでも興味を惹いた。

この「L.S.D. LOVE,SEX&DRUG」というタイトルからはLSD食べてぶっ飛びながらSEXしていそうな映画を想像するが、実際そういうシーンもないわけではないが、以外にもなんというか「人生のやるせなさ」のようなものを描いた真面目な作品。

そういった当時のフランスのストリートのクラブシーンが生々しく臨場感をもって描かれており、ケミカル・ブラザーズのイントロでアツくなっているハコの様子などは観ているこっちまでも、90年代初頭の日本でのクラブシーンを思い出しアツくなってしまった。

関係はないが、90年代に流行したクラブカルチャーは、今となっては、ちょうどサッカーのUEFAチャンピオンシップなどと同じように、バドワイザーやハイネケンなどの洋酒メーカーと商業的に結びつき興行性に埋没してしまったようだ。最近は、ある種「公共性」をもった音楽・空間としてレイヴに、消費されるだけでない新しいモノが生まれる場として熱い注目があつまっているのもある意味必然なのかもしれない。

また、主演のエロディ・ブシェーズは「最後のロリータアイドル?」として注目されている女優さんのよう。もともと黒目がちな彼女だが、映画前半のクラブに行くシーンでLSDか何かを食べたあとという設定の「ガッチリ開ききった瞳孔」が印象的。。

濡れた赫い糸

濡れた赫い糸濡れた赫い糸
2005年/日本/103分/R-15
監督:望月六郎
原作:山之内幸夫「実録・女師 遊廓 信太山エレジー」双葉社
脚本:石川均
撮影:田中一成
音楽:サウンドキッズ
出演:北村一輝、高岡早紀、吉井怜、奥田瑛二、佐倉萌、他
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以外に最近観ていなかった望月六郎監督作品。個人的にはとりわけ「スキンレスナイト」「皆月」などが印象深いが、数多くの作品を精力的に発表し続けている。

いわゆる極道モノが多い望月監督作品だが、この「濡れた赫い糸」は極道の哀しみ、というよりは、人間の哀しみ、やさしさ、などが表現されているように思う。ただ、スタッフも役者も極道的な作品に出演している方が多いので画づら的には一般映画に臭いがあまりしないものとなっている。

あと、フィルム製作のせいだけではないとは思うが、画が古い、感じがした。1990年代中ごろくらいの製作かと思いきや2005年ではありませんか。それは最近のハイビジョン映画に慣れてしまっているのかもしれないが、ピンク映画を観ている時の感じに近い感じがする。フィルムや照明などの状況が似ているからだけなのかもしれないが。

この「濡れた赫い糸」は映画として完成度は高いとは思うし、現場には優秀なスタッフがたくさんいることも想像できまるが、商品として観客が想定しにくい映画であるようにも思う。銀座シネパトスでレイトロードショーといっても映画館でも興行収入はあまり見込めないだろうし、たとえば「カンヌ」を狙う、といった感じも少ない。

たしか「皆月」は賞を受賞していたが、この映画はエンタテイメントとしては真面目だし、なら芸術性が高いのかといえばそうでもない。かといって、押しが弱い、といのではなくある種臨界点での表現となっているように思う。そう考えるとこういう映画こそが形式を逸脱した真の映画なのかもしれない。

キングス&クイーン

キングス&クイーンキングス&クイーン
Rois et reine
2004年/フランス/150分
監督・脚本:アルノー・デプレシャン
脚本:ロジェ・ボーボ、音楽:グレゴワール・エッツェル
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、マチュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーヴ、モーリス・ガレル、ナタリー・ブトゥフー、ジャン=ポール・ルシヨン、カトリーヌ・ルヴェル、マガリ・ヴォック、他
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「二十歳の死」「魂を救え!」「そして僕は恋をする」「エスター・カーン」などのアルノー・デプレシャン監督の最新作。

この「キングス&クイーン」の前の作品「エスター・カーン」は単なる大規模映画となっており、アルノー・デプレシャン監督の持ち味が発揮されていなくてとってもがっかりしましたが、今回はそうでないことを祈りつつ期待して鑑賞。

で、こんかいは前作以前の作風に戻り一安心。デプレシャン作品の常連のエマニュエル・ドゥヴォスが主演。フィリップ・ガレルの父親・モーリス・ガレルも出演している。

役者陣だけでも、フランスの小規模映画=自主映画的な臭いのプンプンする映画だが、長めの尺のなかで、込み入ったストーリーを登場人物の心理描写を細かくえがきながら表現する、というデプレシャン監督の持ち味が生かされていて見ごたえがある。

それと、題名でもわかる通り「二十歳の死」で主人公だった若者も今では35歳くらいの設定となっており、デプレシャン映画が好きな人にはそういった変化も好印象となるはず。


「キングス&クイーン」公式サイト
http://www.kingsqueen.com/

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「映画喫茶」は自主映画監督、酒井啓が鑑賞した映画や小説などについて綴った備忘録ブログです。プロフィールなどの詳細は下記公式サイトへどうぞ。
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