2006年06月

トップページ > 2006年06月

第三の嘘

第三の嘘 第三の嘘
Le Troisieme Mensonge
アゴタ・クリストフ
Agota Kristof
堀茂樹・訳

早川書房
Amazonで詳しく見る

「第三の嘘」はとにかく刺激的な一冊でした。

「悪童日記」「ふたりの証拠」で現れた謎・伏線がこの「第三の嘘」でどう解かれるのか? などと期待しても報われることはないので、不快を感じる人も多いかと思いますが、「悪童日記」から一貫した客観的な描写と、特に「第三の嘘」の第二部での語り手の描写には、頭がくらっとくるぐらい驚きがありました。小説を読んでいて初めてかもしれません。

ただ、内容的にはこれも一貫して暗く、ブラックな雰囲気がにじみ出ているので、好みは分かれるのかもしれません。

個人的には著者のアゴタ・クリストフが世界をどのように認識し、作品に反映させているのかが気になって仕方がありません。彼女はいったいどういうつもりで作品を書いているのでしょう?

ふたりの証拠

ふたりの証拠ふたりの証拠
La Preuve
アゴタ・クリストフ
Agota Kristof
堀 茂樹・訳

早川書房
Amazonで詳しく見る

「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」と続くアゴタ・クリストフ三部作の第二作。

「悪童日記」と比べると形式的に一般の小説に近いが、淡々とした客観的な文体はそのまま。

個人的には「悪童日記」の方が好みですが、「読み物」としてはこちらの作品の方が所謂、小説的な体裁をとっているので好みはあるのかもしれない。

さまざまな登場人物とのエピソードが語られているが、訳者の堀氏は解説で「より重層的になった」と書いているが、「重層的」というよりは「尻切れ」になってしまっている感があるように思う。

期待は第三作に持ち越しです。

ジョゼと虎と魚たち

ジョゼと虎と魚たちジョゼと虎と魚たち
2003年/日本/116分/PG-12
監督:犬童一心
原作:田辺聖子
脚本:渡辺あや
撮影:蔦井孝洋
音楽:くるり
出演:妻夫木聡、池脇千鶴、新井浩文、上野樹里、江口徳子、他
Amazonで詳しく見る

長い間気にはなっていたのですが、数年越しでようやく鑑賞。

犬童一心監督作品は何年も前の東京国際映画際で「金髪の草原」を観て以来となります。犬童監督は「トニー滝谷」などの市川準監督作品の助監督などをしていたことは知っていたのですが、自主映画出身の監督さんだとは知りませんでした。

この「ジョゼと虎と魚たち」は田辺聖子氏の原作ものですが、登場人物、特に妻夫木さんの演じる役柄のキャラクターの設定に違和感があった。

ので、結果的に、このプロットならばわざわざ映画でなくても、テレビの特番などでやればいいような気はしてしまった。女性身体障害者の報われない恋愛、というストーリー全体がしっくり来ない感があった。

とはいえ、画作りはCMというよりは、必要以上に奇麗な画を目指していない感じがして、良い意味で自主映画的、というか高感度があった。

あと、池脇千鶴さんや妻夫木さんの弟の奥さん役のヌードなど「脱ぐ必然」はあまり感じないヌードがあり、原作に忠実だっただけかもしれませんが、この映画のリアリティーを深めることにつながっていると思う。


■「ジョゼと虎と魚たち」公式Webサイト
http://jozeetora.com/

その男狂棒に突き

その男狂棒に突きその男狂棒に突き
2003年/日本/75分
監督・脚本・撮影・編集・出演:山下敦弘
プロデューサー:富岡邦彦
撮影・出演:定者如文
出演:山本剛史、里美瑶子、三上良太、南堂元気、他
Amazonで詳しく見る

エロい映画を期待してレンタル。「その男凶暴につき」は北野武の監督作品だったことをふと思い出す。

この「その男狂棒に突き」は自称、刑事兼アダルトビデオ(AV)の汁男優(女優とのカラミはおこなわずマスターベーションで射精する男優、詳しくは本編で)がいっぱしのAV男優として女優とのSEXに挑戦する話。

プロット的には「暗い」というか「夢がない」話ですが、観ているうちにだんだん汁刑事のキャラクターがかわいらしくなってきて「撮って?」という台詞には切なさがあってキュンとしてしまいました。

瀬々隆久監督の「肌の隙間」を観たときもそうでしたが、撮影現場の雰囲気が想像しにくい作品で、DVDの特典映像に付いていた「メイキング映像」が面白かった。

10分間の「汁刑事」、25分間?の「その男狂棒に突き」と併せて、この「メイキング映像」30分くらい?を観て、作品と映画作りを味わうと色々楽しみは深まるのではないでしょうか。

ストーリー的に所謂女性は観づらい作品だとは思いますが、もし観る人がいれば、どんなところに喰いついて観るのか気になるところです。お笑いにを観る感じと似てくるのかな。

あまり期待していなかっただけに、久々に良い印象の作品に出会えてよかった。


■アップリンク 実録シリーズ その男狂棒に突き
http://www.uplink.co.jp/factory/log/001040.php

嫌われ松子の一生

嫌われ松子の一生 (上)嫌われ松子の一生 (上)
山田宗樹

幻冬舎 2004
Amazonで詳しく見る
嫌われ松子の一生 (下)嫌われ松子の一生 (下)
山田宗樹

幻冬舎 2004
Amazonで詳しく見る

本編を観る前に、その原作を読んでも、大概、自分で作ったイメージと実際の映画の差異にげんなりしてしまうことが多いのですが、それを承知で「鑑賞者」ではなく「作り手」の気持ちで、製作前の脚本を読む感じで原作に挑戦しました。

経験的には9割くらいは原作を先に読んでしまうと映画は楽しめないのですが…。そもそも小説自体を楽しめることも少ないといえば少ないのですが…。

文庫版の「嫌われ松子の一生」は上下巻本なのですが、上巻の120ページくらいまでは「何がどのように語られるのか」がわからずとても辛い時間を過ごした。真面目なのにうまく生きれない女性をイタイ感じで描く、というプロットは思い出したくもない嫌なこととをつい思い出してしまうので、とても嫌いなのですが、他の登場人物も「思慮」に欠ける人物が多く、出てくる人がほとんど嫌いな感じの人で、自分が嫌われ…になってしまいそうで、勝手に身に積まされてしまいました。嫌な思いまでして小説を読み進める必要はあるのか? と問わずにはいられませんでした。

途中から「楳図かずお」だ。と思うようになってからめくるめくエピソードが待ち遠しくなり、後半までのスピーディな展開に魅了されてしまいました。

構成は「映画的」というか、時間や話法が凝っていて面白かったのですが、結果的に同じエピソードの説明の重複がだるい部分もありました。

読み始めたときは「何がこんなに嫌なのか」がわからなったのですが、面白くなるうちにしだいに自覚的になり、その感じは、変な気もしますが、自分にはカタルシスでした。

映画化は自体はある程度のお金があれば難しくはない、というか、面白くなる要素は多いと思いますが、中島哲也監督がこの小説をどう映画化しているのかが俄然気になります。

原作のエピソードをただ2時間に凝縮してもそれが映画的に面白いとは限らないし、こういう作品は、画作りに凝ってもあまり報われないだろうし、登場人物が多いのでうまく魅せれば、NHKドラマ「おしん」のような「お涙ちょうだい」的な「国民的映画」になってもおかしくないとは思うのですが、綺麗だけど、どうも存在感の薄い中谷美紀さんの主演では難しいかな…と辛口なことを思ってみたり。

さよならみどりちゃん

さよならみどりちゃんさよならみどりちゃん
2004年/日本/90分
監督:古厩智之
原作:南Q太
脚本:渡辺千穂
撮影:池内義浩
出演:星野真里、西島秀俊、松尾敏伸、岩佐真悠子、佐藤二朗、他
Amazonで詳しく見る
さよならみどりちゃんさよならみどりちゃん
南 Q太

祥伝社 1997-07
売り上げランキング : 35025

Amazonで詳しく見る

たしか、大学時代、色々な漫画を読み漁っていた頃、1997年頃に原作のほうを読んでいたのですが「何故今、映画化?」と強く思いながらDVDを鑑賞。

主演の星野真里さんは、初めて目にしたのですが、金髪先生などテレビでいろいろ活躍しているよう。「もう脱がないつもりなのだろう」と半ばあきらめかけた、ラストに近いシーンでいきなりヌードになっていて少し驚きでした。初々しい演技が印象的。

DVDの特典映像についているナント映画祭などの映像を見ると星野さんはいたくかわいらしく見え、それと比べるとフィルムに映っている彼女はとかく幼くみえた。

緊張していたのかもしれませんが、照明の足りない35ミリ独特の「じとっと」した感じによるところなのかもしれない。

西島秀俊さんは、癖のある役を演じていましたが「タンクトップ」だけでキャラクターの多くを表現しているようにも思いました。西島さんがこの役を演じているのは面白い。タンクトップを着出てきて最初はびっくりしてしまったのですが。

「灼熱のドッジボール」「この窓は君のもの」のなどの古厩監督ですが青山真治監督「Helpless」で助監督をしていたのは知りませんでした。

最近はテレビ作品を多く手がけているようですが、オリジナル脚本の長編映画を観たいものです。


■さよならみどりちゃん公式サイト
http://actcine.com/midorichan/

悪童日記

悪童日記悪童日記
Le Grand Cahier / Agota Kristof
1986年(フランス)、1991年(日本)
アゴタ・クリストフ/堀茂樹 訳

早川書房
Amazonで詳しく見る

最後に読んだのはいつだったか思い出せないほど久しぶりの翻訳小説。

翻訳ものって映画も少しそうだけれど、読んでいて勢いにのりにくい。ダイレクトに身体に入ってくる感じがあまりしないので、なかなか読む機会が少なくなってしまいました。映画だったら「画」がありますが、とかく「文字」だけだと……。

とても珍しいことなのですが、読みやすいにもかかわらず、読んでいて驚きの多い作品でした。翻訳ものだからかもしれませんが、演劇的なセリフ回しは多少気になりましたが、展開・落としどころに関しては舌を巻いてしまいます。

あと「辛辣なこと」「セクシャルなこと」「グロテスクなこと」の描写に結果的にエレジーが感じられ、感覚的にはワンクッションなして鑑賞できる。

堀氏の訳語では題名は「悪童日記」だが、内容を考えるとあっているようには思いますが、これだとジャン・ジュネの「泥棒日記」の二番煎じ、みたいになっってしまいかねないので、「ル・グラン・カイエ」でいいんではないかと思うのは私だけでしょうか。

2days 4girls

2days 4girls2days 4girls
村上 龍

集英社

Amazonで詳しく見る

最近、集英社から文庫になった、村上龍氏の2000年~02年に「小説すばる」に発表された小説。

この小説、構成は面白いと思うのですが、どうなんでしょう。文学的な評価は村上龍氏の近年の作品群のなかでは高い、という位置づけになるのだろうか。

個人的には「矢崎」などが登場する一連の作品が好みだったのでそういう内容を期待していたのですが、内容的には遠くないのですが、一見説明的でナチュラルだけど結構強引な「展開」で読ませる、よりは「形式的」になっているように感じました。この内容ならば1/3の文字数でコンパクトにまとめることも可能だったのでは、とも思います。

映画もそうですが、小説も「展開」を魅せるだけのものではありませんが、近年の村上龍氏の作品にはおのずと求めてしまいます。

なかば強引ではありますが、それとちょっと言葉にしにくいような事柄を普遍化するところも読んでいてつい「そうかもね」などと思ったりして楽しんでしまいます。

この作品を機に「新たな局面に」なんてことがあれば新しい期待を持てるのですが……。


■「Japan Mail Media」
村上龍氏が編集長を務めるメールマガジン
http://ryumurakami.jmm.co.jp/

春眠り世田谷

春眠り世田谷春眠り世田谷
2001年/日本/80分
監督・脚本・編集:山田英治
撮影:郡司掛雅之
出演:大森南朋、今井あずさ、紀伊修平、川屋せっちん、永井英里、他
Amazonで詳しく見る

ここ数年、三池崇史監督の「殺し屋1」やNTTドコモのCMなど活躍の場を広げている、大森南朋さん主演の自主映画作品。大森南朋さん、父は大駱駝艦の麿赤兒さん、お兄さんは「ゲルマニウムの夜」などの大森立嗣監督。とても映画一家。こうなると麿さんの奥さんの姿なども見てみたくなります。

さて映画ですが、いわゆるメタ映画、というか「主人公が映画をつくろうとする」話。といっても、製作段階というよりは、撮影段階等に至るまでの準備、はらを決めるまでの葛藤、といったところか。大森南朋さんのかわいらしい、というか、かざることのない、ナチュラルな魅力が表現されていました。

作中8ミリフィルム映像とDV映像を融合させて作品として成立させていく手法は、手法としては思いつくけれど、それを効果的に実現することは難しく、なかなか手がだせずにいたのですが、この作品で前向きになれました。

等々、主人公が映画撮るために会社辞めたのに毎日ぷらぷらしているところなども、個人的に身に積まされる部分は大きい作品でした。ある意味「僕などのための作品」と思っていいようにすら感じてしまいました。

赤線

赤線赤線
2004年/日本/90分
監督・音楽:奥秀太郎
脚本:小柳奈穂子
音楽:宮田芳郎
出演:中村獅童、つぐみ、小松和重、片山佳、荒川良々、今奈良孝行、山田広野、野田秀樹、森本訓央、野村朋子、安元遊香、るう、大政智己、藤崎ルキノ、植田裕一、岸建太朗、田丸こよみ、佐藤貴史、他
Amazonで詳しく見る

オープニングからカッコイイ音楽が印象的でした。音楽監督には監督の奥秀太郎さんも参加している。

予算の関係か、浅草六区? の「赤線」地帯の街並はワンセットしか作られていませんでしたが、当時の状況を全く知らない私には興味津々でした。

映画は、芝居の演出が映画的、というよりコテコテに演劇的だったので、私の好みではありませんでしたが、特に、主役の中村獅童さん、つぐみさん、永井荷風役の小松和重さんなどの魅力が満載。


■「赤線」公式ウェブページ
http://nega.co.jp/aka_sen/

青い車

青い車 プレミアム・エディション青い車 プレミアム・エディション
2004年/日本/90分
監督・脚本:奥原浩志
原作:よしもとよしとも「青い車」イースト・プレス
脚本:向井康介
撮影:斉藤幸一
音楽:曽我部恵一
出演:ARATA、宮崎あおい、麻生久美子、田口トモロヲ、水橋研二、曽我部恵一、他
Amazonで詳しく見る

こういう脚本(ストーリー)は好みではありませんが、僕が観たいと思っている役者陣が魅力的でした。

青山真治監督の「シェイディー・グローブ」が印象的だったARATAさんや渡辺謙作監督の「ラブドガン」などの宮崎あおいさん、黒沢清監督の「回路」などが印象的な麻生久美子さん、塚本晋也監督の「鉄男」などの田口トモロヲさんなど、こんなに自分の好みの人ばかりが出演する映画ってあまりない。

監督の奥原浩志さんの作品は「タイムレス・メロディー」以来久しぶりに観ましたが、適切な画を積み上げることができる監督に感じられ好印象です。原作の漫画に忠実なのかもしれませんが、この作品はクローズアップが必要以上に多かったようにも思う。奥原監督のオリジナル脚本作品を次回は期待したいところです。

出ている役者さんがそれぞれ持ち味を発揮していて、満足感が大きい映画でした。

元サニーデイ・サービスのボーカル・曽我部恵一さんの音楽も印象的です。

プロフィール

「映画喫茶」は自主映画監督、酒井啓が鑑賞した映画や小説などについて綴った備忘録ブログです。プロフィールなどの詳細は下記公式サイトへどうぞ。
■公式サイト(日本語・Japanese)
http://www.sakaiakira.net/
■公式サイト(英語・English)
SAKAI Akira Official Website
http://en.sakaiakira.net/
■「映画喫茶」モバイル版
http://m.sakaiakira.net/

About 2006年06月

2006年06月にブログ「映画喫茶」に投稿されたすべてのエントリーです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のアーカイブ→2006年05月

次のアーカイブ→2006年07月

他にも多くの記事があります。
メインページ
アーカイブページ



« この他の記事の一覧はこちらから »

Copyright 2007 sakaiakira.net All Rights Reserved.