2006年05月

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肌の隙間

肌の隙間肌の隙間
2004年/日本/77分/R-18
監督:瀬々敬久
脚本:佐藤有記
撮影:斉藤幸一
出演:不二子、小谷健仁、伊藤洋三郎、三浦誠己、他
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瀬々監督作品は、学生時代にたしかユーロスペースやテアトル新宿などで「雷魚」「汚れた女」「冷血の罠」「Histeric」などを観ていましたが、気づいたら何年も間があいてしまっていました。

自分がいったい何をしていたのか不思議にすら思います。この作品を観終えると、未見の「Moon Child」「ユダ」など、がぜん観たくなってしまいました。

この映画は音楽等を含め「説明」が少ないのが、逆に、この映画が何を撮っているのかが前面にでている。商業的に商品として成立しているのかはわかりませんが、18禁にもなってしまっているし。

でもエンタテイメントではなく、ポルノ映画でもない、純文学的な意味での純映画は、自分にとってはみどころ満載です。

DVD版の特典映像には瀬々敬久監督、主演の不二子さん、小谷健仁さんへのインタビューを収録。


■アルゴピクチャーズ「肌の隙間」
http://www.argopictures.jp/lineup/hadano

ねじまき鳥クロニクル

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編ねじまき鳥クロニクル
〈第1部〉泥棒かささぎ編

村上 春樹

新潮社
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ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編ねじまき鳥クロニクル
〈第2部〉予言する鳥編

村上 春樹

新潮社
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ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編ねじまき鳥クロニクル
〈第3部〉鳥刺し男編

村上 春樹

新潮社
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5年程前にハードカバー版を1冊だけ読んで挫折してしまった。村上春樹の小説としては初めての体験でしたが、気を取り直して再チャレンジ。

去年「海辺のカフカ」が文庫になりそのときは久々の村上春樹の文章でしたが、今回はどちらかというと「羊をめぐる冒険」や「ダンス・ダンス・ダンス」などが頭にちらついて、つい比較しながら読んでしまいました。どちらも高校生の時とかだったので「当時の印象」というようなものしか覚えてはいなかったのですが。

結果的には「読んでいる最中は面白かったが、読み終えたときの満足感はそれほど高いものではなかった」という感じです。映画でいうならば3時間オーバーの長尺モノですが、たくさん登場人物が出てきたわりには、そのつながりは薄かったのでは、という感じがしてしまいます。

ただ、「戦争」「中絶」などの扱いにくいテーマをうまく村上ワールドの中に組み込んでいる感じはとてもしました。「風の…」「…ピンボール」「羊を…」などと比べても単純に主人公の年齢が高くなったからかもしれませんが、物語の中の社会性や、人物像の描写がちゃんとしてきているように思いました。

上中下巻もので一息に読めてしまう作品なんて少ないので貴重な作家の1人です。

惑星ソラリス

惑星ソラリス惑星ソラリス
Солярис/Solaris
1972年/ソ連/165分
監督・脚本:アンドレイ・タルコフスキー
原作:スタニスワフ・レム
出演:ナターリヤ・ボンダルチュク、ドナタス・バニオニス、ユーリ・ヤルヴェット、他
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作品の長さが気になったり、ソダーバーグ版ばかり観ていてなかなか観れませんでしたがようやく無事鑑賞。

漠然ともっと「難解な映画」と思っていたのですが、思ったより普通の出来栄えという印象。設定等のコンテクストがソダーバーグ版で頭に入っていたことに拠るところが大きいとは思うのですが。

観た人は感じると思いますが「跪いて許しを請う」シーンの印象が強く、そこはタルコフスキーの演出なのか、原作を再現しているのか判別しがたいところがあります。

いずれにせよ、設定等、このレムの書いた原作はとても映画向きのものであったことは間違いなく、ジェームス・キャメロンが「タイタニック」で儲けたお金でその版権を買ったことも大きく頷けます。

今となっては観たかどうかも疑わしいタルコフスキー作品なのですが、折に触れて観かえしたい監督の一人です。なかなか長尺ではあるのですが。


■イメージフォーラム
生誕70周年アンドレイ・タルコフスキー映画祭「惑星ソラリス」

http://imageforum.co.jp/tarkovsky/wksslr.html

ソラリス

ソラリス <特別編>ソラリス <特別編>
Solaris
2002年/アメリカ/99分
監督・脚本:スティーブン・ソダーバーグ
製作:ジェームズ・キャメロン、他
原作:スタニスワフ・レム
撮影:ピーター・アンドリュース
出演:ジョージ・クルーニー、ジェレミー・デイビス、ナターシャ・マケルホーン、ヴィオラ・デイヴィス、ウルリッヒ・トゥクール、他
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今回でこの計作品5回目の鑑賞。ブログの記録を見ると前観たのはちょうど一年前。

そもそもこの作品「大人の恋愛映画」と謳って宣伝していましたが、そもそも「恋愛映画」として成立しているのだかとても疑わしい。そんなふうに感じる映画は思えば少なく、そういうことを考えること自体、この映画を楽しんだことにはなるのですが。

この作品「10年に1度の作品」なんでしょうか。
どうなんでしょうね。

180分のディレクターズカット版がもし出るなら期待大です。

GO! GO! L.A.

GO! GO! L.A. デラックス版GO! GO! L.A. デラックス版
L.A. Without a Map
1998年/イギリス・フランス・フィンランド・アメリカ/107分
監督・脚本:ミカ・カウリスマキ
原作・脚本:リチャード・レイナー
撮影:ミシェル・アマテュー
出演:デビッド・テナント、ヴィネッサ・ショウ、ヴィンセント・ギャロ、ジュリー・デルピー、ジョニー・デップ、他
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ついに観れました。たしか5年くらい前にユーロスペースなどでアキ・カウリスマキ特集などをやっていた時から、ミカ・カウリスマキの作品も観たいと思っていたのですが、何故か延び延びになってしまっていました。

イギリス、フィンランド、フランス、アメリカといった国々のスタッフ・キャストらによる国際色豊かな青春ラブコメディー。

チラシ(ジャケット)ではヴィンセント・ギャロとジェリー・デルピーが大写しになっていたのでもっと出演時間が長いのかと思っていましたが、ジョニー・デップ等含めたベテランが脇をかため、それ程国際的には知名度のない2人が主演でした。それぞれの役者はいい味を出していてうまく融合している感が強かった。

アキもそうかもしれませんが、おそらくミカは現場でも淡々と演出を付けていそうで、日本では黒沢清監督などもそうですが、変な気負い、のような空気ではなく、真剣なかつ穏やか雰囲気が画面から伝わってきて心地よい映画でした。

あまりこいうことはないはずなのですが、われしらず笑い声がもれてしまっていたようです。


■ミカ・カウリスマキ公式サイト
http://mikakaurismaki.com/

アッシュベイビー

アッシュベイビーアッシュベイビー
金原 ひとみ

集英社

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思わぬタイミングで読むことになりました。自分で選ぶとつい読んだことのある作家のものがおおくなってしまうので新鮮でした。

読み終えて気づいたのですが、金原ひとみさんって、あの数年前の綿谷りささんと同時に、村上龍氏が選考委員だった時の芥川受賞者だったのですね。

綿谷さんの方は、「インストール」が映画化されたり、「なんとなく大学の後輩」的な感じで「今年卒業するらしい」など情報は入ってくるのですが、(ということは学校には行っていたということか)、なぜか金原さんはすっかりノーマークでした。

率直にこういう作品は「好きです」。「殺してください」などと口走ってしまいそうですが、次は彼女の400ページ以上の長編を読んでみたい気持ちになりました。

こういう作品は小説の特長を映像で表現するには向かないかもしれません。情景を忠実に再現してもきっと面白くないので主演次第だとは思いますが、独自の脚色が不可欠かもしれません。

表紙のハンス・ベルメールの写真がなつかしくもありました。

亀虫

亀虫亀虫
2003年/日本/61分
監督・原案:冨永昌敬
撮影・照明:月永雄太
音楽:ノーシーズ
出演:杉山彦々、安彦麻理絵、木村 文、尾本貴史、冴嶋園子、大塚風子、他
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神保町ジャニスで、ふとDVDパッケージを手に取ると、なんと「メロドラマチック」「臍下の快楽」などの漫画家、安彦麻理絵さんが出演している映画があるではないか。どんな顔なのか知りたい一心で鑑賞開始。

「姉」役でしたが、なかなかお姉さんっぷりを発揮していてよかったです。作品によって顔が違うようにも思うのですが、作品の撮影が比較的長期に渡っていることが推測されます。漫画をコツコツ書いている画が思い浮かびにくいのは僕だけでしょうか?

作品は無音を切ったナレーションなどが独特の風合いを出していた。破綻しそうでしない作風などを観ると、自分も参考にしなければならない、と自問自答。

日本の小規模映画を観ると勝手に身に積まされてしまうことは多いのですが。たんたんとした語り口の中にある整合性のようなものが感じられて、面白かったです。


■Opaluc
http://www.h7.dion.ne.jp/~opaluc2/

火の馬

火の馬火の馬
Тени забытых предков
Shadows of Forgotten Ancestors
1964年/ソ連/95分
監督:セルゲイ・パラジャーノフ
出演:イワン・ミコライチュク、ラリサ・カドーチニコワ、他
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たしか、1960年代、モスクワ大学卒業後、助監督などをした後に製作されたセルゲイ・パラジャーノフ監督の長編第一作作品。

「アシク・ケリブ」「ザクロの色」と比べると、「分かれそうになるがもとさやに戻る」といった、相変わらずストーリーはとてもシンプルながら必然的でない絵画的な画の積み上げと、それによっていわゆる映画的な文法が破綻してしまうとことろは共通しているが、特に作品後半の映像から感じられる緊張感は他の2作と比べてずば抜けておりそこだけでも観る価値のある作品。

民族主義的な部分を差し引いて冷静に考えても画作りはかなりユニークな作品。「気持ちよさ」より「驚き」を感じないわけにはいられない。

この作品の後パラジャーノフは当時のソビエト連邦当局によって目をつけられ、計15年間にわたって強制労働させられることになるが、そのポイントはどこだったのかはよくわからないだけに気になるところです。

パッション

パッション デジタルニューマスター版パッション デジタルニューマスター版
Passion
1982年/スイス・フランス/88分
監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ラウール・クタール
出演:イザベル・ユペール 、ハンナ・シグラ 、イエジー・ラジヴィオヴィッチ 、ミリアム・ルーセル 、ミシェル・ピッコリ、他
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「勝手に逃げろ/人生」に続く、80年代ゴダールの商業映画復帰第2作目といわれる作品。

個人的には最近は「8人の女たち」などで活躍しているうら若きイザベル・ユペールが初々しい演技を披露しているところで単純に心奪われてしまいました。

作品には明確なストーリーはなく、一連のゴダール作品にみられるような、「答え」の用意されていない抽象的な「問い」が起てられるが、特にチラシやパッケージに使われているカットに代表されるような、絵画的な美しさのある画が積み上げられているので、それだけでつい見続けてしまう。

この作品、いろんな解釈は可能だと思うのですが、能動的に感じるところがあれば、観る価値があったのだと思います。

フレンチなしあわせのみつけ方

フレンチなしあわせのみつけ方フレンチなしあわせのみつけ方
ils se marierent et eurent beaucoup d'enfants
2004年/フランス/100分/R-15
監督・脚本・出演:イヴァン・アタル
撮影:レミー・シェヴラン
出演:シャルロット・ゲンズブール、エマニュエル・セニエ、アヌーク・エーメ、クロード・ベリ、他
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「生意気シャルロット」等でフレンチロリータとしてアイドル的存在だったシャルロット・ゲンズブール主演の恋愛映画。相手役のイヴァン・アタルは実生活でも彼女のパートナーで、この作品では監督と脚本も兼任している。

作品はストーリー展開よりも手持ちカメラでのカット割りと台詞まわしの早さが印象的。テーマとしては凡庸というか普遍的だがシャルロット・ゲンズブールが実の夫が監督でかつ相手役、2人の実の子供とともに出演しているところなどに、インディペンデントなスピリッツがあらわれている。

すこし前にヴァネッサ・パラディーとの間に子供をもうけたジョニー・デップが、シャルロット・ゲンズブールの淡いアパンチュールの相手役として、通りすがりの人としては観る者に大きな印象を与えている。

監督・脚本・主演をこなしたはイヴァン・アタルは、製作、脚本の段階から、アメリカのインディペンデント映画の父、ジョン・カサヴェテスを意識していたようだ。

でもシャルロット・ゲンズブール=イヴァン・アタル組はジーナ・ローランス=ジョン・カサヴェテス組には現地点では及んでいない。日本でいうと保守的なゴールデンなどのデレビドラマのような印象がある。

インディペンデントなスピリッツを持ちながら、そのような印象を与えられるのはある意味貴重なことだと思う。

シャルロットがすっかり大人の女になっていたのも印象的だったが、近年「H Story」に出演していた「ベティ・ブルー」のベアトリス・ダルがそうだったように、口が半分開いている、というか、いつも垂れ流してしまっている感じの半分狂気の世界にいるような表情をする女優になっていたことは印象的だった。


■オフィシャルサイト
http://www.gaga.ne.jp/french/index.htm

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