2007年10月

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去年マリエンバートで

去年マリエンバートで去年マリエンバートで
L'anne'e dernie're a' Marienbad
1960年/フランス・イタリア/94分
監督:アラン・レネ
原作・脚本:アラン・ロブ・グリエ
撮影:サッシャ・ヴィエルニー、音楽:フランシス・セイリグ
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ジョルジュ・アルベルタッツィ、サッシャ・ピトエフ、他
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たしか大学1年の時に観て多大な感銘を受けた映画の1本。 当時、映画はもとより熱心にフランス語に励んでいただけに「・・・jardin du Luxembourg・・・」くらいの言葉でもその言葉の響きにうっとりとしていた記憶がある。小規模映画の臭いがぷんぷん漂うところも好印象である。

しかもうっとりさせるのは言葉だけでななくデルフィーヌ・セイリ(ン)グの造形的な美貌にある。彼女が女優として優れているかはわからないが、ちょうどレオス・カラックス監督の「ボーイミールガール」のミレーユ・ペリエのように彼女の魅力は色あせない。ちょうど2本ともモノクロ作品であることを考えると、実物+ブラック&ホワイト特有の幻想感が混ざり合っているのかもしれない。

それに加え、原作・脚本のアラン・ロブグリエは後に自身で「消しゴム」など様々な作品の監督もつとめているが、ぬるい心理描写などを一切排除したストイックな脚本は完璧な撮影監督によって映画化されている。撮影監督のサッシャ・ヴィエルニーは後に「ZOO」「コックと泥棒、その妻と愛人」「プロスペローの本」などピーター・グリーナウェイ監督作品群の撮影を担当している。

そして監督のアラン・レネ。「ヒロシマ・モナムール」(24時間の情事)「夜と霧」などが有名だが、初期のアラン・レネ作品は野心がありかつ実験色が強い作品を発表し続けておりどの作品も目が離せない。

これら全てが一つの作品に収まっているような映画は他に存在しないし、これからもないだろう・・・。


ちなみにこの映画のDVDは現在廃盤となっており、このサイトでリンクを貼っているアマゾンでは、中古で2万5000円くらいで取引きされているかなりのレアもののようだ。

ディーバ

ディーバディーバ
Diva
1981年/フランス/118分
監督・脚本:ジャン=ジャック・ベネックス
原作:ドラコルタ、撮影:フィリップ・ルスロ
出演:ウィルヘルメニア・フェルナンデス、フレデリック・アンドレイ、リシャール・ボーランジェ、チュイ・アン・リュー、他
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今となってはジャン=ジャック・ベネックス監督作品で一番好きな映画。2000年に「青い夢の女」を撮っているが、もう7年もたつので、善くも悪くも今後の量産は期待できない。

「IP5」から「青い夢の女」までも8年くらい空いている。たしかに1、2で一本作っていたら積み上げれば凄い量になるが、内容は伴わない。生活の糧を考えなければこれくらいのペースになるのだろうか。

ベナックス監督本人は哲学と薬学を学んだ育ちのよいインテリさんのようだが、かなり前に行った東京大学での講演(「青い夢の女」のプロモーション?)では「単なる女好きのエロおやじ」の感も少しあったが、大学では哲学を学び、現場では撮影も行い自分でファインダーを覗くという、スタイルは自分が求めるスタイルに近く、以外と実践している映画監督はほとんど皆無なので、個人的にかなりシンパシーを感じる数少ない監督の一人。

この「ディーバ」は監督の長編第1作だが、低予算ながらも、シンプルなカメラ回しながらも、少年がディーバの手を握るシーンなどは映画史に残るほど印象的なカットとなった。

ある流れのなかで、「この部分の感覚をこれくらい観たい」というような雲を掴むようなところでまったく正しい選択をしているところに、映画に無限の可能性を感じた瞬間があり、そんなことを思うのは自分の年齢も感じてしまうこのごる、新鮮な思いに立ち返ることができる作品。

シッコ

Sicko (Ws Amar)Sicko (Ws Amar)
SICKO
2007年/アメリカ/123分
監督・製作・脚本・出演:マイケル・ムーア
製作:メガン・オハラ
撮影:クリストフ・ヴィット
音楽:エリン・オハラ
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「ボウリング・フォー・コロンナイン」「華氏911」などのマイケル・ムーア監督の最新映画。前作などは軽はずみな演出が鼻についたが、今回はイライラすることなく楽しく鑑賞。

印象的だったのは「ディフィカルト(difficult)」という言葉。
世界中では様々な制度をもった国があるが、それぞれは他の国の事情をしっかりと理解することは難しい。それぞれの国で言語の前提となるような文化・風土・価値感等は異なるので、仮に結果を「人間的な暮らし」と考えると、終着点はもちろん異なるし、そこまでの過程も異なるのである。文明人が未開人に文明について説明するのはまったくもって「ディフィカルト(difficult)」である。

だいたい「自由の名のもとに団結して戦争を始める国」に国民の平和がたもたれるはずはない。

この「シッコ」はフィクションというよりはドキュメンタリーだが、ドキュメンタリー的なのは「登場する人々が役者でないのと演技をしていない」点。言ってしまえばドラマ仕立てですらあるくらいだ。作品としては「ディズニーランド」と同様に「マイケル・ムーアショー」。

しっかりとした「健康」「自信」「教育」を持ち合わせない国民が多い日本で、この映画がどれくらい影響を及ぼせるだろうか。

「シッコ」公式サイト【日本語】
http://sicko.gyao.jp/
「シッコ」公式サイト【英語】
http://www.sicko-themovie.com/


ツィゴイネルワイゼン

ツィゴイネルワイゼン デラックス版ツィゴイネルワイゼン デラックス版
1980年/日本/145分
監督:鈴木清順
製作:荒戸源治郎
原作:内田百間(「サラサーテの盤」)
脚本:田中陽造
撮影:永塚一栄、音楽:河内紀
出演:原田芳雄、藤田敏八、大谷直子、大楠道代、麿赤兒、樹木希林、他
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初めて観たのはたしか大学1年生時。この映画はロードショーは、「赤目四十八瀧心中未遂」の荒戸源治郎氏などによって、プラネタリウムのような感じで上映され当時話題となったらしいが、是非、今、そんな形で上映される機会があれば脚を運びたいもの。

特に印象的なカットは大谷直子さんが「ちぎりこんにゃく」をちぎるシーン。「赤目・・・」ではたしか「肝」か何かだったが、「生々しい造形の食べ物」が映画の雰囲気と相まって何とも言えない効果を出しているように感じる。

何度観ても脚本的に「解釈不能」に陥るが、それはこの映画が解釈を求めていないからのような気がする。同じことは他の鈴木清順監督作品の「大正浪漫三部作」にも通ずる。

「日常的な妖艶さ」をどっぷりと表現するには、つじつまを合わせるような明確なプロットは必要がないことを学んだ映画。

この映画の原田芳雄バージョンのポスターを部屋に貼っていると、部屋の雰囲気ごともってかれる感アリ。

最近はこの「ツィゴイネルワイゼン」などの三部作は、スチールを見ると「新しい」印象を覚え、十代などの若者の支持も得られるように感じるが、映画の中身をじっくり観ると、やっぱりかなりディープ。


世界の終わりという名の雑貨店

世界の終わりという名の雑貨店世界の終わりという名の雑貨店
2001年/日本/94分
監督・脚本:濱田樹石
原作:嶽本野ばら(小学館刊『ミシン』収蔵)
脚本:鷲見剛一
撮影:大橋仁
出演:西島秀俊、高橋マリ子、真行寺君枝、益富信孝、川合千春、他
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主演はたしかこの頃、「J-PHONE」のCMやモデルなどで脚光を浴びていた、高橋マリ子さんの、おそらく映画初主演作。相手役には「脚本で出演する作品を選ぶ」という西島英俊さん。そして、原作は最近、新宿三丁目で「大麻所持」か何かで逮捕されてしまった嶽本野ばら氏。

原作とキャストの組み合わせとして、大いに興味を惹いた作品だった。制作に「小学館」が入っていることからも「原作ありき」の映画。

そのせいかどうだかはわからないが、なんというか映画的な魅せ方に乏しい映画なような気がした。たしかどこかの映画祭で監督は新人賞か何かを取ったらしいが、一般の観客が観るには正直しんどい映画だと思う。

ただ、原作(「ミシン」に収録)や嶽本野ばら氏のファンならば楽しめるはずではある。高橋マリ子の存在感が初々しい。

お葬式

伊丹十三DVDコレクション お葬式伊丹十三DVDコレクション お葬式
1984年/日本/124分
監督・脚本:伊丹十三
撮影:前田米造、助監督:平山秀幸
出演:山崎努、宮本信子、菅井きん、大滝秀治、奥村公延、財津一郎、江戸家猫八、友里千賀子、尾藤イサオ、岸部一徳、津川雅彦、横山道代、小林薫、池内万平、西川ひかる、海老名美どり、津村隆、高瀬春奈、香川良介、藤原釜足、田中春男、吉川満子、加藤善博、関弘子、佐野浅夫、関山耕司、左右田一平、利重剛、井上陽水、黒沢清、笠智衆、他
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思えば謎の飛び降り自殺からはや10年が経った、伊丹十三監督の第1回監督作品。

序盤のCM監督役で出演していた黒沢清監督が若々しかったのが印象的だったが、宮本信子さんや岸部一徳さんやその他の出演者全員の肌艶がよく、それだけで微笑ましい感じだった。

映画はなんというか「アート・シアター・ギルド」風で、俳優出身の監督の割には、まず、カメラワークや作画にその意欲を感じた。

製作から25年近くたって観ても、古めかしさはもちろんあるが、十分に観れる作品。

この映画の製作時には伊丹氏は50歳過ぎ。マルチタレントのはしりにとどまらない年齢だ。フランスのヌーヴェルヴァーグの一人とされるエリック・ロメールもたしか40歳過ぎて「獅子座」を撮っていたような気がする。彼は「カイエ・デュ・シネマ」の編集?をしていたようだが、壮年になってから映画をとるようになった巨匠たちは、振り返って作品群を眺めるとさすがにまとまりがある感が強い。

当時、青姦シーンに対するクレームはあったようだが、言ってしまえば、この作品の客層はおそらく広かったので、こんなエロシーンで喜ぶ人はいても不快に感じる人が多かったのも予想できる。東京ディズニーランドで青姦していたら、クレームをつける人も少なくないことが想像できるのと同じである。

それと、監督の存命中はどちらかというと、興行的に成功していた妬みからかどちらかと言うと「しゃくに障る」監督と感じていたが、この「お葬式」を改めて観ると、監督の映画に対する情熱と可能性をビシビシと感じ、個人的にはそういう意味で刺激のある作品だった。

なんというかアンダーグラウンドなものが、陽の目を見ると不当ともいえるところで非難されることを思い起こさせた作品。

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