2006年04月

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バルスーズ

バルスーズバルスーズ
Les Valseuses
1973年/フランス/119分
監督・脚本:ベルトラン・ブリエ
撮影:ブルーノ・ニュイッテン
音楽:ステファーヌ・グラッペリ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ミュウ=ミュウ、パトリック・ドヴェール、イザベル・ユペール、ジャンヌ・モロー、他
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まず、僕が生まれる1前年、1973年の製作で、「ジェラール・ドパルデューが若いなぁ」などと思っていたら、誰にでもすぐに股を開いてしまう女役はなんと「読書する女」などのミュウ=ミュウではありませんか。「若い」の一言。

2人はこの作品のヒットで俳優としての地位を確立した模様。「パッション」「ピアニスト」「ジョルジュ・バタイユ ママン」などのイザベル・ユペールに至っては、家族でのキャンプ中に処女を失う女の子役だったかもしれない、くらいしかわかりませんでした。ジャンヌ・モローだけはハッキリわかりましたが・・・。

監督は「私の男」などエロスものを得意とすると言われているベルトラン・ブリエ。この長編第一作であるこの作品は良くも悪くも荒削りな仕上がりですが、「私の男」など、近年の作品はしっかりとしていて安心して観ていられるものを作っている。

映画はアメリカでいうところの「ピッピー」のロードムービーといったところでしょうか。二十歳そころこの2人若造が、次々とたわいもない罪を犯していきますが、そこには犯罪性は描かれない。

それよりむしろ「人の純粋な愛」にスポットがあたっているように思う。そいういう考え方は、なまぬるい、ものですが、そこには他には代えられない「疑似家族」のような愛があると思う。「長くは続かないだろう」ことを前提に考えると切ない気持ちになります。

人にはあまり勧められる内容ではありませんがかなり好きな映画の中の1本。

ヒストリー・オブ・バイオレンス

ヒストリー・オブ・バイオレンスヒストリー・オブ・バイオレンス
A HISTORY OF VIOLENCE
2005年/アメリカ/96分/R-15
監督・製作:デヴィッド・クローネンバーグ
脚本:ジョシュ・オルソン
撮影: ピーター・サシツキー
音楽:ハワード・ショア
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マリア・ベロ、ウィリアム・ハート、他
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良質な映画でした。製作はNEW LINE CINEMA ですが、絵図らなど、とても低予算で作られていました。ちょうど、ホラーなどのエンタテイメントではない、日本映画のそれに近い感じのバジェットだったように思う。

テアトル新宿では先週から2週間のみのロードショーですが、土曜の19:30〜の回で20〜30人しかお客さんが入っていなかったのは、想像していたけれど「興行的に大丈夫なのかなぁ」と心配になってしまう。クローネンバーグ作品なら全国のツタヤで1本くらいは置かれるだろうから大丈夫なのだろうか。

原作は読んでいませんがこの映画、2005年度のアカデミー脚色賞にノミネートされていました。脚本の組み立て、構成がしっかりしていて見終えても、ストイックまでに無駄のない感じ=しかるべきカットがしかるべき場所にある感じ、がしました。

これぐらいテーマに対して構成のしかっりした映画を撮ってみたいものです。派手にお金をかけている作品ではないだけに、励みになります。

デヴィッド・クローネンバーグといえば「ザ・フライ」「裸のランチ」などが有名ですが、この作品はサスペンス的な力で魅せていく部分は大きいですが、暴力って…、というテーマと、家族、愛、などが絡み合っていて、「クローネンバーグなのに人間ドラマ?」というところに食いついてしまう。

でも、そんなヒューマンドラマ的な雰囲気をかもしだしながらも、頭を打ち抜かれた人間の描写などでは一目で「あっ、クローネンバーグ」とわかってしまうほど頑張ってしまっていたところなどは微笑ましくなってしまう。


冒頭の音楽が印象的なこの作品、その音楽は、下記公式サイトのBGMとして使われている。
さらに、そこでは「普段の生活から、彼・夫の信頼度をこっそりチェック!」することもできる。


■公式サイト
http://www.hov.jp/

惜春

惜春惜春
花村 萬月

講談社

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ふと、お茶の水の丸善をふらふらしていたら、新しい花村作品の文庫を発見。即購入。

読み終えて、まず、素直に「雄琴」とググってみると出るわ出るわソープ情報。

吉原がそういうところだということは知っていたのですが、雄琴は知りませんでした。巣鴨生まれの私は、巣鴨が「ピンサロの発祥の地」であることはどこからか聞いていたのですが、滋賀県にそんなところがあったとは…全く知らなかった自分にびっくり。

さて、内容です。いつもの花村作品のように、じんわりと切なくなる感じ、はありましたが、この作品は対個人のそれ、というよりむしろ、主人公の佐山豊の取り巻く人々のそれ、の感が強いと思う。

主人公の設定が「苦悩する童貞青年」なのでそうなったのかもしれませんが、人と人の、男と女の、関わり、交わり、という点では、良くも悪くもさらりとしているように思う。

この作品はいやらしくて、えげつないけれど、若気かもしれないけれど、救いがないわけでもないけれど、読んでいると、長く生きること=醜いこと、のような単純な図式が頭をよぎる。美しいのは必死で何かに向かっている時だけなのかなと思う。というか、その最中には美にも醜にも気づいていないだけなのかもしれませんが。

ざくろの色

ざくろの色ざくろの色
The Color of Pomegranates
1971年/ソ連/73分
監督・原案:セルゲイ・パラジャーノフ
撮影:スウレン・シャフバジャン
音楽:チグラン・マンスウリヤン
出演:ソフィコ・チアウレリ、M・アレクヤン、V・ガスチャン、他
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凄い映画だった。「溢れ出る詩情(イマジネーション)」とはこういう映画のことを言うのかもしれません。

ワンカットワンカットの構図は絵画的で、シークエンス単位で何かを感じる、というよりは、画力で魅せていく感じの映画でした。

しかも、その一枚一枚は「手作り感覚的」というか、ある種作家が抱きがちな、切迫感のような「よけいな気負い」のようなものが感じられず、単純に撮る対象に対する集中力がとても高いように思う。

それは結果として、観る側に暖かい気持ちを抱かせるように思う。これほど見終えた後に「印象的なカット」を感じる映画は少ない。

いわゆる「映画文法」をおおいに逸脱した、イマジネーション豊かな純度の高い詩映画。


■参考ページ
コロンビアミュージッック「ざくろの色」


アシク・ケリブ

アシク・ケリブ【デジタル完全復元盤】アシク・ケリブ【デジタル完全復元盤】
Ashik Kerib
1988年/ソ連/78分
監督:セルゲイ・パラジャーノフ
原作:ミハイル・レールモントフ
脚本:ギーヤ・バドリッゼ
撮影:アルベルト・ヤブリヤ
出演:ユーリー・ムゴヤン、ヴェロニカ・メトニーゼ、他
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会社近くの「ジャニス」に、大学時代、早稲田松竹で観た「火の馬」の監督、セルゲイ・パラジャーノフの作品が複数置いてあることを発見。そして鑑賞。

http://blog.sakaiakira.net/cat19/post_231/を観たのはたしか10年程前ですが、パラジャーノフは「民族意識(アルメニア)と詩的な映像」が印象的だった。日常的なリズムの中で、ふと、彼の作品にふれると、とても異界を味わうことができる。

映像は詩的というか構図などが絵画的なところが前面に出ていて、プロット的には最初の10分くらいで想像がつく程シンプル。カット割りも荒削りで、パッケージとしての作品の完成度を目指していない点で、「自主映画」を思い起こさせる映画でした。

個人的に好きな監督ですが、たびたび出てくる「ザクロ」や衣装などの根拠が自分の民族的な処によるものと。はっきりわかってしまうので、その「根拠=テーマ」も独創的だったならばどんな映画をつくるのだろう、と、つい期待してしまいます。

監督本人も絵やコラージュも制作しているようですが、「画が印象的」というところでは、鈴木清順監督の「ツゴイネルワイゼン」「陽炎座」「夢二」の大正浪漫三部作やジャン=ジャック・ベネックスの「青い夢の女」を思い出しますが、ぶっとび度はポーランドのアンジェイ・ヤロシェヴィチ監督の「ワルシャワの柔肌」に匹敵します。


ウィキペディア:セルゲイ・パラジャーノフ

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