2005年06月

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モーリス

モーリス restored versionモーリス restored version
Maurice
1987年/イギリス/140分
監督・脚本:ジェームズ・アイヴォリー
原作:E・M・フォースター
撮影:ピエール・ロム
出演:ジェームズ・ウィルビー、ヒュー・グラント、ルパート・グレイヴス、他
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ジェームス・アイボリー監督、E.M.フォースター原作のイギリス映画。ちなみにジェームス・アイボリーはアメリカ人監督。

若く美しい英国人の同性愛を耽美的に描いた映画。いまや「フォー・ウエディング」などハリウッドでも大成功を収めたヒュー・グラントがまだ青臭い雰囲気をかもしだしながらの演技が新鮮。彼はこの作品の成功をきっかけに役者のキャリアを積んでいくこととなった。

ヒュー・グラントの役所は「眺めのいい部屋」でいうところのダニエル・デイ・ルイス的なポジション。ダニエルと比べるとどうしても演技力や存在感がとても劣っている。「実力と成功が比例するとは限らない」ことを再確認。

ヒュー・グラントの魅力は、どの作品に出演してもヒュー・グラントであるということで、それはそれでダニエル・デイ・ルイスとは違うタイプということ。

演技の中に見られる所作がいつも同じなのです。愛すべき役者ということか。

グッバイ、レーニン!

グッバイ、レーニン!グッバイ、レーニン!
Good Bye Lenin!
2003年/ドイツ/121分
監督・脚本:ヴォルフガング・ベッカー
撮影:マルティン・ククラ
出演:ダニエル・ブリュール、カトリーン・サーズ、チュルパン・ハマートヴァ、マリア・シモン、他
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東西ドイツ壁崩壊前後の時代を描いたライトなタッチの社会派ドラマ。悲劇を喜劇として描いているためか、鑑賞後、特有の「切なさ」がこみ上げてくる。

キャラクターの設定も「こんな人が実際にいたかもしれない」と感じさせる点でちょうどティム・バートンの「ビッグ・フィッシュ」のようなさじ加減のリアリティーがある。

あらかじめ「東西ドイツの問題」や「社会主義」などの対する問題を真摯に受け止めていると、エンタテイメント的な部分が鼻につくかもしれないが、逆にこのこと、それほど現実離れしていないドラマ仕立てになっていることが、ドイツ本国や世界的に成功を収めた要因だったと思う。

10年程前から「ラン・ローラ・ラン」など世界的な成功を収める新しいドイツ映画(ヴェンダース以来?)が出てきているように思うが、アート的であったり、単なるスマッシュヒットに留まらない、内容的、興行的にバランスがとれ、英語圏での上映も加味しながら製作されたドイツのインディペンデント映画といった感じ。

日本でもこれくらいのバランスの映画を数多く製作できたらと思うのは私だけだろうか。

ヴァージン・ビューティ

ヴァージン・ビューティヴァージン・ビューティ
斎藤 綾子

新潮社
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新潮文庫の「Yonda?ストラップ」欲しさになるべく「いやらしさ」を求めて購入。

女性の視線で書かれた「いやらしい」短編を7編収録。

文庫版の表紙は漫画家の安野モヨコ氏が担当しているだけあって行為自体はそうではないですが、あっさりとした読み心地でからりとしている。変に濃ゆくないのでテレビの深夜ドラマなどでいけそうな感じがする。

あと、「いやらし」くて「グロテスク」な割にさらりと読めてしまうのは、文庫版のあとがきにも書いてあるように、文章のリズムがとてもよいからなんだろう。

出口のないくどいところで留まらずそれはそれとしてリズムよく描いていることによると思う。大人版「ハッピーマニア」?

ニッポニア・ニッポン

ニッポニアニッポンニッポニアニッポン
阿部 和重

新潮社
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たしかようやく最近「芥川賞」を受賞した阿部和重氏の著作。

読み終えると、漠然と期待していた「インディビジュアル・プロジェクション」や「アメリカの夜」や「ABC戦争」のような「臨界感?」は感じなかった。

あってないような作者の作為をうっすらと感じながら読み進める感じが新鮮に感じた。現代文学っぽいということか。

この作品を映画化するならば、主人公の心理描写はモノローグで、役者は設定と年齢はずれるが西島秀俊さんあたりでいけるように思う。インディーズ映画向けの原作ということか。

ただ根本的な大問題は、今は別に「トキ」の言葉にアクチュアリティがあるわけではないことと、その実写を撮ることは不可能のように思うので、そこらへんがうまくできそうにないからという理由から「パロディー」「コメディ」に予定調和的になってしまいそうなので、そこらへんをどうクリアすべきか。ところのような気がする。

ブエナ・ビスタ 王国記2

ブエナ・ビスタ―王国記〈2〉ブエナ・ビスタ―王国記〈2〉
花村 萬月

文藝春秋
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花村萬月氏の芥川賞受賞作となった「ゲルマニウムの夜」の続編小説。だいぶ前に買ってはいたんだけどしばらく放置してようやく読めました。

萬月=長編、の頭があったため「勝手に長編だ」と思いこんでいて、正直、半分で1編が終わってしまった時にはかなり拍子抜けした。萬月作品の中では、登場人物が庶民的でない、というか、わかりやすく落伍者ではないためか「真面目」な作風だった印象。

今のままの萬月も好きだけれど、もう少し全般的にストイックになったらどうなるのだろう、などと考えてみた。

硬い文体で。柔らかい文体が読みやすいのが特徴の作家のようにも思うのですが、澁澤龍彦の小説ばりの硬~い文体で書かれた花村萬月作品も読んでみたいものです。

愛の嵐

愛の嵐-無修正ノーカット完全版-愛の嵐-無修正ノーカット完全版-
Il Portiere di notte
1973年/イタリア・アメリカ/117分
監督・脚本:リリアーナ・カバーニ
撮影:アルフィオ・コンティーニ
出演:ダーク・ボガート、シャーロット・ランプリング、フィリップ・ルロワ、イザ・ミランダ、他
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大学時代に新宿のゴールデン街のある店にこの映画のポスターが貼ってあるのを見て以来、12年越しにようやく鑑賞できた。最近はこういうセレクトが多い。。

「ベニスに死す」のダーク・ボガード、最近では「スイミングプール」「まぼろし」のシャーロット・ランプリング、主演。ちなみに彼女は大島渚の「マックス・モナムール」にも主演したはず。

「愛の嵐」はランプリングの「体当たりの演技に脱帽」といったところか。

作中でも数年の経過が感じられ、撮ることを考えると、撮影は数年間に及んだ、というか、途中で頓挫しそうになったはず、で結果的に完成した作品は役者の年輪を感じさせる程のスケールの大きい作品になっていると思う。

ポスターやチラシになっているカットも実際の本編に使用されているものだが、見終えた後の印象は、そいういキャッチーなものというより、地味、デカダン、な印象が強いように思う。

空港にて

空港にて空港にて
村上 龍

文藝春秋
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久々の村上龍作品でしたが、言われてみると読んだのはどれも長編ばかりで、今回のような短編集は初めてのような気がする。

どの作品も「映像」が頭に思い描きやすい表現になっており、これは後書きを読むと龍氏の近代日本文学に対する彼の考え方が現れているように思う。

基本的に映画もそうだけど「心にのこる短編」というのはほとんどないんだけど、この本の最後に収録されている、表題にもなっている「空港にて」はなかなかよかったです。

あまり関係ないのですが、龍氏の作品に限ったことではないのですが、文学の善悪って何なんだろう、ということをたまに考える。

映画などもそうだた思うのですが、最終的にはその作品に触れた末端の読者や観客にとって「善い」作品ならばその数に応じて善い、ということになるとは思うのだけど、そこのスタートラインを左右しかねない批評家や学者、出版社などがある程度の価値付け、を新人賞や他の文学賞などで決めるけれども、なんだか「馬鹿みたい」というかシラケた気分になってしまうことがある。

売れた方がその作品に関わる人々の生活を含めて「幸せ」になる確率は高いと思うのですが、そういうわかりやすい作品はとても「媚び」が現れているように思い、あざとさを感じてしまうことが大半だ。

かといって、ナルシスティックに「我が道」を行かれてしまっても「そんなことは一人で個人的にやってくれ」と思うことも往々にしてある。

権力のある者が「善い」といってもその感性に迎合するのが手間に感じてしまう時などはなおさらそんなことを思ってしまう。

スタイル?スタンス?なかなか難しいね。

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