2005年05月

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鬱
花村 萬月

双葉社

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花村萬月の著作。

ある小説家志望の男の子の青春もの? 600頁弱だったと思うけど長さは気にならない。先に先に「読ませる」文章力は健在。本人は「ガス抜き」的にこの小説を書いた部分もあるよう。

他の花村作品に見られるように「ニーチェ」や「キリスト教」についての言及が節々に見られ、娯楽(性楽?)作品にそれ以上の世界観を与えている。

そのニーチェなどの言説が小説のコンテクストの中で語られる手法だけれど、苦にならない、というよりすんなりと入ってきて気持がよいのです。

ハムレット・ゴーズ・ビジネス

ハムレット ゴーズ ビジネスハムレット ゴーズ ビジネス
Hamlet Goes Business
1987年/フィンランド/86分
監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:ピルッカ・ペッカ・ペテリウス、カティ・オウティネン、他
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アキ・カウリスマキ監督作品ですが、他のカウリスマキ作品のような彼独自の演出手法は見られず。「正攻法の演出」といった感が強いように思う。むしろ「サスペンスもの」のせいか「初期ヒッチコック作品」などを彷彿とさせる。

脚本もよくできてるし撮りかたもいいと思うのだけど、今となっては見る前に勝手に期待してしまう「カウリスマキ的なもの」を観れないと「物足りなさ」に近いものを感じてしまいます。

そうとはいえ、ハリウッドでぱっとしなかったサスペンスを観るよりは明らかに面白い作りになっているのは「さすが」の一言。

マッチ工場の少女

マッチ工場の少女マッチ工場の少女
Tulttikkutehtaan tytto
(The Match Factory Girl)
1990年/フィンランド/70分
監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:カティ・オウティネン、エリナ・サロ、エスコ・ニッカリ、他
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とても昔の映画かと思ったのですが、クレジットを見ると1990年ということで15年前、というか天安門事件など80年代の雰囲気が漂っている。でもその雰囲気は欧米や日本のそれとは大きく異なっており、時事的には80年代のはずだけれど絵ズラ(音楽を含む)は70年代? のようなちょっと変わった感じでした。

ひとことで言えば「ダサイ」というか「スタイリッシュではない」ということなんだけど、別にそういうものを目指しているものではないはずなのでいいのですが。

あとこの映画の題名の「少女」役らしいカティ・オウティネンがどう見ても少女には見えない。むしろ熟女。他に「この人が少女ではないだろう」「他に少女役がいるに違いない」といった気持ちを押さえられなかった。

そんな画の雰囲気もあいまってか、「とても暗い」、というか「やり場のない」感じで観ました。カティ・オウティネンがとても痛々しいのです。後でポスター、ビデオのパッケージ画像を見ると、「どうやらコメディ(ブラック?)」でもあったらしいことを発見。

他の多くのアキ・カウリスマキ作品のようにカティ・オウティネンが体現するカウリスマキ演出が全編にわたって炸裂していました。

ワンテイクが長いわけでもないのですが「簡単に」撮っているカメラワークもカウリスマキ作品的。

ソラリス

ソラリス <特別編>ソラリス <特別編>
Solaris
2002年/アメリカ/99分
監督・脚本:スティーブン・ソダーバーグ
製作:ジェームズ・キャメロン、他
原作:スタニスワフ・レム
撮影:ピーター・アンドリュース
出演:ジョージ・クルーニー、ジェレミー・デイビス、ナターシャ・マケルホーン、ヴィオラ・デイヴィス、ウルリッヒ・トゥクール、他
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観るのは今回でたぶん4回目になります。初見では音楽の印象が強く、未だにタルコフスキー版や原作に目を通していない自分にとっては心地のよく合点と不可解の間をさまよい続けています。

省略が多く分かりそうでわからない、でも違和感はない。というような感覚。これが余韻なのか?

DVDをコメンタリーで観ていたら、たしか粗編集が終わった段階では完成品の3倍も尺があり、もともとこの映画版権をもっていた、製作のジェームス・キャメロンに「もっと切れ」みたいなことを言われ、現在の尺になったようだが、完成品を観たキャメロンは「切り過ぎだ」と思ったそうで、これくらいのバジェットの作品で1/3って演出の転換では? とも思うのですが、ソダーバーグ監督のストイックというか贅沢な編集を感じます。

画は全体的にスタティックで安定感のあるものが積み重ねあげられとても完成度が高い。

ストーリーはあやういと言えばかなりあやういように思いますが、僕には好印象で、「違うもの」と言われているけれど、タルコフスキー版も早く観たくなってしました。

それにしてもこの映画の音楽、素晴らしい。

ペイチェック 消された記憶

ペイチェック 消された記憶ペイチェック 消された記憶
PAYCHECK
2003年/アメリカ/118分
監督・製作:ジョン・ウー
原作:フィリップ・K・ディック
脚本:ディーン・ジョーガリス
撮影:ジェフリー・L・キンボール
出演:ベン・アフレック、アーロン・エッカート、ユマ・サーマン、他
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ユマ・サーマンが出演しているとのことで鑑賞。監督は「男たちの挽歌」「ミッション・インポシブル」などハリウッドでも商業的成功を収めたジョン・ウー。

主演はベン・アフレック。彼の出演作は初めて見たのですが、「軽いけどいい奴でまじめ」な性格、ハリウッド的?がハマっていたように思う。

それと比べると、ユマ・サーマンの方は、本人の意向ではないようだが、一連のタランティーノ作品の影響で、アクション俳優、のようなイメージも強いせいか、その部分は活かされていたと思う。

個人的には、夫のイーサン・ホークと競演したリチャード・リンクレイターのDV作品「テープ」などの「しっとりとした演技」が好みなのですが。

それにしても「キル・ビル2」あたりから「バロン」の貝殻から生まれたての姿の彼女とのギャップをとても感じてしまうのは私だけだろうか? 「パルプ・フィクション」の頃の彼女とね。

ねこぢる草

ねこぢる草ねこぢる草
Cat Soup
2000年/日本/33分
監督・脚本・構成:佐藤竜雄
原作:ねこぢる(月刊ガロ・青林堂)
構成・脚本・作画:湯浅政明
音楽:手使海ユトロ
キングレコード
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ストーリーは部分的に漫画(紙)の方で観たことがあるものだったような気がする。

何年か前に「CD-ROM漫画」のようなものが少し流行って、その時の「BGM入り漫画」は見たことがあるけれど、動く「にゃっ太」と「にゃー子」が見れたのは驚きだった。それと鳴き声。にゃ~。

この世の外へ クラブ進駐軍

この世の外へ クラブ進駐軍この世の外へ クラブ進駐軍
2003年/日本/123分
監督・脚本:阪本順治
プロデューサー:椎井友紀子
撮影:笠松則通
出演:萩原聖人、オダギリジョー、松岡俊介、MITCH、村上淳、他
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いつものように役者への「抑えた演出」がひかる映画。阪本順治監督は「911」事件をきっかけに脚本を執筆したよう。

公開当時は「オダギリ・ジョー」の出演や「ジャズ」の演奏シーンなどが話題になりましたが、観終えるとふと「戦場のメリークリスマス」なんかを思い出しそうになりました。ちがうのだけれど。

群像劇として役者陣が魅力的に描かれていたのが印象的。「顔」のインパクトにはかなわないかもしれないけれど、そこらへんはジャンルが違う、ということで。

ブラウン・バニー

ブラウン・バニーブラウン・バニー
The Brown Bunny
2003年/アメリカ・日本/90分
監督・製作・脚本・撮影・美術・編集・衣装:ヴィンセント・ギャロ
音楽:ゴードン・ライトフット
出演:ヴィンセント・ギャロ、クロエ・セヴィニー
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ロードショーを観に行った友達が「イマイチ」というようなことを言っていたのですが、ヴィンセント・ギャロの自主映画のノリのロードムービーのようだった。

クロエ・セヴィニーとのフェラチオからの口内射精にはちょっとびっくりしましたが、ヴィンセント・ギャロが主演で監督ならこんな映画も成立するのかなぁ、という感じです。日本ではモザイク処理が大きく入りますが、海外ではそれこそモロだしになると思うのでどうなんでしょう。

構成や語り口などが斬新というわけではないと思う。ヴィンセント・ギャロが好きは人にはいいのだろうか。「バッファロー’66」の驚きにはかなわなかったが、嫌いな作風ではない、というかロードムービーが単に好きということなのか。。

ビッグ・フィッシュ

ビッグ・フィッシュ コレクターズ・エディションビッグ・フィッシュ コレクターズ・エディション
Big Fish
2003年/アメリカ/125分
監督:ティム・バートン
原作:ダニエル・ウォレス
脚本:ジョン・オーガスト
撮影:フィリップ・ルースロ
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、スティーヴ・ブシェミ、他
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まず、あのティム・バートンが「物語」を描いている! とプロットの予想外に真面目な展開に驚きましたが、DVDの特典映像を観ると、考えてみると彼も「いっぱしの大人」の年齢になっているのでしょうか。たしかにファンタジーを前面にだした作風も何度もやれば飽きるような気もします。

この作品の魅力は出演者のユアン・マクレガーや監督のティム・バートンも言っていましたが、ティム・バートン的なファンタジーを損なうことなく「物語」を描いていること。

いわゆるファンタジーの部分でも全くありえない絵空事ではなく、どこか物語の中で現実味を帯びていて、同じ物事を描いた映像でも、現実的な側面と、非現実的(ファンタジック)な側面からの両方からのアプローチがあると、表現として豊なものになるところにあるように思う。

どちらかといえばファンタジックな表現のほうが他の映画監督と比べても表現として抜きに出ているとは思いますが。

アップルシード

APPLESEEDAPPLESEED
2004年/日本/103分
原作:士郎正宗
製作:曽利文彦
監督:荒牧伸志
音楽:Boom Boom Satellites
声優:小林愛、小杉十郎太、松岡由貴、他
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「イノセンス」と同時期の公開で、「フル3DCG」、などで話題になったアニメだったと思います。ゴンゾなども「フル3DCG」ものをやっているようなのですが、「凄い!」と思う画もあるのですが、映画として通して観ると描写にバラつきがあるように感じてしまうのは私だけでしょうか?

気の強い女の子が主役、というのは「攻殻機動隊」にも通じますが、こちらの方がベタた意味でのアニメの画に近いタッチでキャラクターを描いていたように思います。ここらへんは作画監督の違いによるものか…。

プロットが「古風」というより「保守的」な感じがしましたが、こういうのは観る側の勝手な期待なのだろうか。そうこういいつつも最後まで一気に観てしまい。観せ方などの完成度は高い、ということか。

過去のない男

過去のない男過去のない男
Mies Vailla Menneisyytta
2002年/フィンランド・ドイツ・フランス/97分
監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:マルック・ペルトラ、カティ・オウティネン、アンニッキ・タハティ、ユハニ・ニユミラ、他
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特に何が起こる、というわけでもないのについ心地よく観てしまうカウリスマキ作品ですが、カンヌのパルムドールを受賞したこの作品もそれまでの作品とかわらない作家性が現れていた。

カウリスマキの演出は脚本(テキスト)を厳格に再現するものと、大枠だけつくっておいて即興を交えて細部まで作り上げる手法の2つがあるようですがどっちにしても、画面に現れる役者は説明的な台詞を省き「多くを語らない」、北野武にも通ずるような、一見シラけた演出はわれわれだけに馴染みのあるものなのだろうか?

いずれにせよ、よけいなものがなく、必要なものだけが結果的に必然的にそこにある、というように気張ったりすることなく、そこにあるものを心地よく受け入れることができる。

シンプルでわかりやすいのだけど、明らかにしようとするとつかみどころのないところが魅力。

こういう地味な作品が評価されるのをみると分かりやすくなくても国籍を超えて普遍的に伝わる「何か」は確実に存在していることを再確認できてほっとします。

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