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ヴィタール

ヴィタール(初回限定生産)ヴィタール(初回限定生産)
2004年/日本/86分
製作・監督・脚本:塚本晋也
音楽:石川忠
出演:浅野忠信、岸部一徳、國村隼、串田和美、リリィ、木野花、利重剛、他
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「鉄男」「東京フィスト」「BULLET BALLET バレット・バレエ」「六月の蛇」などで有名な塚本晋也監督作品。この作品、公開は2004年でしたが、観たい観たいと思いつつようやく鑑賞。

結果的には2006年に観た映画、今のところ No.1 になりました。まず、「人間性とは何ぞや?」といった普遍的な大きなテーマに挑んでいること。「肉体」と「記憶」といったテーマも脚本の中にうまく入っていること。さらに、脚本を通じてこの作品に対する塚本監督の並々ならない取材力を感じたこと。などで印象的な1本となりました。

主演の浅野忠信さんが意外と「普通の人」というか「ヒューマニズム」を感じる役柄に挑戦していたのは意外と新鮮でした。

もちろん岸辺一徳さんの独特の語り口も光っていたのですが、利重剛監督もいい味をだしていました。彼の演技は何故か「クロエ」に出演していた塚本晋也監督の演技そのもの、のような印象を受けました。2人の関係がそうさせるのでようか。青山真治監督の「ユリイカ」と利重剛監督の「クロエ」を観ても2人の演技は相関的になっている気がします。不思議です。

これまで「鉄男」や「双生児」など、とかく「美術の人」と思われがちな塚本監督ですが、この作品は人間の根源的、普遍的なテーマに正面から挑戦しており、「妖怪ハンターヒルコ」などの頃と比べると、映像も洗練され、人間的、というか反ミニマリズム的な意味で「巨匠」という単語を思い出したりもするようになりました。


■公式サイト
http://www.vital-movie.com/


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コメント (3)

なるほど、ありがとうございます。

たしかに、管理人さんのおっしゃる通り、塚本監督の映画は、なにかと向き合う姿勢があらわれるようになってきていますよね。以前は、テーマがあるようでも、なんだか掲げられているだけで、それについてどうこうというのはありませんでした。

女性についてのご意見は「ヴァタール」の見方をより豊かにしていただきました。主人公をあの行為へと向かわせるもの(記憶)が人間性を生みだしているんですね。
ホラーで描かれるような愛と違いがでてくるのは、解剖実習を徹底的に取材した成果なのでしょうね。異常さとか医学的な興味との差を取材したことではっきり表せるようになったのでしょう。

今回はほんとうにありがとうございました。
とても参考になりました。

管理人:

コメントありがとうございます。

塚本監督のテーマについてですが、僕が思いつく限り、『鉄男』『鉄男2』『東京フィスト』などでは単に「塚本監督のパンク的なエネルギー=何かに対する情熱」がカッコよくかつユーモラスに描かれいるのが自分にとって塚本作品の魅力でした。「サイバーパンク」といわれているものだと思います。

所謂、作品のテーマ的なものはあまりないんだろうなと思っていたのが正直なところです。何かと「向き合う」ような姿勢は、僕は塚本作品には感じられず、むしろ、監督自身の頭の中のファンタジーをフィルムに再現している感じ(=ミニマリズム的)がしていました。

また、「女性」についてですが、「東京フィスト」で初めて登場ていましたが「おっかなびっくり」していた印象があります。『バレットバレー』『六月の蛇』では女性自身を放任していたように思います。(イニシアチブ?)『ヴィタール』では女性に対する主体的な関わり(男目線?)を感じます。その結果がどうであれ、人と人が関わりあう関係性をシビアに描いていたのには驚きでした。

それと同時に、綿密な取材により、かつての恋人を解剖する、といった人を人たらしめる記憶を、即物的に描くことに対して、真摯に取り組んでいるところに「人間性とは?という大きなテーマ」をまっすぐ描いているように思います。ただ、その姿勢は、度を越しているのでホラーというか、オカルトのように映るかもしれません。それはそれで見方のひとつだと思います。

こんな感じで答えになっているでしょうか?

こんにちは。はじめまして。

「ヴィタール」の感想について、もうすこしお話していただきたくてコメントしました。よろしくおねがいします。

酒井さんが見る塚本監督のテーマについてですが、
>「人間性とは何ぞや?」といった普遍的な大きなテーマ
>「肉体」と「記憶」といったテーマ
もうすこしくわしくいうとどういうところがそうなんでしょう?
そして以前の映画にくらべての変化もありましたらおねがいしたします。


自分が「ヴィタール」をDVDでみたときは、
幽霊話を思いうかべました(みたまんま単純ですが)。
怪談ではない、昔ながらの幽霊譚です。
男女関係は「バレットバレー」「双生児」「六月の蛇」もそうですが、
うまくいってない関係であるにもかかわらず女性にイニシアチブをとられている、
その変奏であるように感じました。
もちろんそのテーマの追求が進んでいないわけではなく、
これまでの映画にでてくる男の想いが、片思い・ストーカー的偏執に似ているのに気づいたから「六月の蛇」ではあえて登場人物をストーカーにしてみたのではないかと思います。
「ヴィタール」では男側の力から女側の力にして描いたのではと思いました。幽霊譚では女の幽霊は生身の男を黄泉へと誘います。


また、酒井さんのいうとおり、塚本監督は美術のひとと思われがちだけれども、それだけではないというのには賛成です。ミニマリズムっていう用語がわからなかったのでWikipediaで調べると、なにかの表現としてみるのではなく物質の美しさをみる、ようなことが書かれていたいたので、塚本監督がミニマリズムではないというのにも同意です。

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2006年03月07日 07:51
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