2006年10月

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アフターダーク

アフターダークアフターダーク
村上 春樹

講談社

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先月、文庫におちた村上春樹氏の「アフターダーク」を読み始める。

村上春樹作品は、文庫モノは全て読み続けている数すくない作品郡ですが、不思議と彼の小説は一般でいうところの大作(文庫で600ページ以上くらい)が普通の長編、長編(350ページくらい)のものは短編、という感じがする。単に文体が軽いからかもしれませんが。

350ページくらいの長編では、登場人物の設定の説明だけで全体の半分以上のページを割いてしまっている印象があり、それ以外の「本当に読みたい部分」の分量に物足りなさを感じる。

オチというか尻切れで終わることは仕方ないにしても、そこに至るまでの描写はじっくり読ませてほしいものです。

ザ・コーポレーション

ザ・コーポレーションザ・コーポレーション
The Corporation
2004年/カナダ/145分
製作・監督:マーク・アクバー、ジェニファー・アボット
原作・脚本:ジョエル・ベイカン
音楽:レナード・J・ボール
出演:マイケル・ムーア、ノーム・チョムスキー、ナオミ・クライン、ジェーン・エイカー、レイ・アンダーソン、他
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「現代社会をどう生き抜くか?」というようなキャッチの「ナイキ」など大手企業を批判したアメリカンドキュメンタリー。

日本の番組や低予算記録映画などとは異なり、「これでもか」くらい取材をおかない、ふんだんに著作権料を支払って過去の偉大な映像を使用した、贅沢なドキュメンタリー。

実際に作るとなると、取材拒否や映像使用料などが問題で端折っていくうちに、作品自体がチープになってしまう作品が多いなか、大健闘した作品だと思う。

少しは関わりはもっているが、個人的には馴染みの薄い「経済モノ」ですが、ブラックなユーモアと速い展開、莫大な情報量に飽きる暇がなかった。

ただ、「これだけ大風呂敷を広げてしまって、どうオチをつけるつもりなのだろう」と観てる最中に気になりましたが、結論がどうこう、というより、「発信すること自体に意義がある」的な雰囲気が感じられ、残念なところもあった。

「マル投げ的な問いかけ」って、一見、問う=批判しているように見えるが、ただ、収拾がつかなくなって安易に責任逃れをしているだけ、のようにも思う。自分の落ち度を認めたくないがゆえに相手の責任に転換してしまっているような。

いずれにしても、オーバーアクションおのアメリカ人って良くも悪くも滑稽です。「そこが面白い」といえばそうなのではあるのですが。

アンテナ

アンテナ スペシャル・エディションアンテナ スペシャル・エディション
2003年/日本/117分
監督・脚本:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:田口ランディ
音楽:赤犬 、松本章
出演:加瀬亮、小林明実、木崎大輔、宇崎竜童、麻丘めぐみ、大森博、小市慢太郎、甲野優美、入川保則、黒沼弘巳、占部房子、榎戸耕史、春海四方、寺島進、光岡涌太郎、他
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数年前に国際映画祭(ベルリンあるいはベネチア)に出品しているとの情報はあったが、ロードショーを見逃がし、近くのツタヤにもDVDが入荷されていなかったが、ふと渋谷ツタヤをみていたらDVDを発見し、即鑑賞。

原作の田口ランディ氏の「アンテナ」は読んでいたのですが、「こんな話だったっけ?」というのが正直なところ。

忘れてしまっている部分は多いとは思いますが、「アンテナ」という言葉が指し示す内容が映像で膨らんでいる、というより説明されるにとどまっている、という部分でがっかりした。

メイキングで熊切監督本人も言っていますが「家族の物語」として成立しているように思う。

夢がこぼれた時の表現の方法など工夫の余地はあったのでは。同じランディ作品ならば中原俊監督の「コンセント」のラスト間際のストリーキングのシーンなどは圧巻だったことを思い出すと、脚色力に欠けている感は否めない。

とはいえ、加瀬亮さんをリアルなまでに追い込んでいく演出はいつもの熊切節をみれた気持ちになり、観た映画が腹にたまる感じ。しかも腹持ちはよい。

かえるのうた

かえるのうたかえるのうた
2002年/日本/65分/R-18
監督・脚本:いまおかしんじ
製作:朝倉大介
撮影:前井一作
出演:向夏、平沢里菜子、吉岡睦雄、七瀬くるみ、川瀬陽太、他
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誰がどう観ても「かえるのうた」という感じの映画。なぜ「かえる」なのかはわかりませんが、一貫して「かえる」でした。ロケ地は下北沢が中心で行ったことのある場所、見たことのある風景が多々ありました。

主演は最近「ビタースイート」にも出演していた向夏さん、吉岡睦雄さんはいまおか監督の「たまもの」にも出演していました。

なんというか形式的には「濡れ場」のシーンは多いですが、あまりポルノグラフィックではないように思う。

「濡れ場」をとばしたら映画は成立しないとは思いますが、ポルノではないナチュラルな裸のシーンが、特にラブホテルでの平沢里菜子さんとの2人のカットが印象的。

「自分の墓場まで持ち帰りたい映画か?」と問われれば分かりませんが、いい映画です。

24アワー・パーティ・ピープル

24アワー・パーティ・ピープル24アワー・パーティ・ピープル
24 Hour Party People
2002年/イギリス/115分
監督:マイケル・ウィンターボトム
原作:トニー・ウィルソン
脚本:フランク・コットレル・ボイス、撮影:ロビー・ミュラー
出演:スティーヴ・クーガン、シャーリー・ヘンダーソン、アンディ・サーキス、レニー・ジェームズ、他
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長い間気にはなっていたのですが「9songs」に続いてようやく鑑賞。

マイケル・ウィンターボトム監督作品はその「9songs」だけだったのですが、「今、イギリスで一番勢いのある映画監督の一人」と聞いて観た「9songs」は企画はまぁいいにせよ、構成・演出がシンプルすぎ、というか、役者任せな部分が全編を通じて感じられてしまい、カチンコ感は評価すべきだと思うけど、映画としてはものたりないところもあった。

それにひきかえこの「24アワー・パーティ・ピープル」の出来のすばらしいこと。久々にこんな面白い映画を観た気がする。

ピンク四天王の瀬々隆久監督が「ここ数年、マイケル・ムーアやマイケル・ウィンターボトムなどがDVで作品を製作し、カンヌなどのコンペティションで上映している」と「ユダ」のDVDの特典映像で言っていましたが、そのカンヌに出品したのがこの作品。

DVは素材がフィルムではないので、「フィルム=映画」という考え方の映画際では映画でなない映像として扱われますが(ビデオ部門など)最終的に35ミリに落とすなどしているはずですが「DV作品がカンヌのコンペティションで上映」という事実には驚いた。知らなかった自分が恥ずかしい・・・。

内容はイギリス、マンチェスターを舞台にした、パンクムーブメント~アシッドハウスの終焉まで(1976年~1992年)までの音楽シーンを記録的に描いた異色作。

この映画とても手が込んでいて面白いのですが、マスコミ的なキャッチが難しいように思う。「ギャガの売り方やよくない」といいたいわけではなく、作品の面白さを伝えるのが難しいように思う。

雑多な部分が面白かったりするのですが、決してくだらない感じではなく、ある意味とても真面目に撮っていると思うが、くそ真面目にやるというよりは、音楽シーンを知らなくても楽しめる作品に仕上がっている。

それと、驚くべきはその画量。だれにでも撮ることが可能なDVだからこそ、そのその膨大なカットを観てしまうと、脚本と撮影の労力がうかがえる。機動力とメディアのコストがかからないという利点をその臨界点まで存分に活かしている作品。

映画「24アワー・パーティ・ピープル」公式サイト
http://www.gaga.ne.jp/24hour/

9 Songs ナイン・ソングス

9 Songs/ナイン・ソングスナイン・ソングス
9 Songs
2004年/イギリス/69分/R-18
監督・製作・脚本・編集:マイケル・ウィンターボトム
撮影:マルセル・ザイスキンド
出演:キーラン・オブライエン、マルゴ・スティリー、プライマル・スクリーム、フランツ・フェルディナンド、マイケル・ナイマン、他
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この「9 Songs ナイン・ソングス」が初めてのマイケル・ウィンターボトム監督作品。「CODE46」などよくツタヤなどで見かけてはいたけれどもなかなか手が伸びなかった。

今のイギリス映画界を見ると、ウィンターボトム監督が近年活躍が華々しいようで、さしあたり最近DVDに落ちたこの作品を観てみる。

嫌いな映画ではありませんが、こういうアドリブいっぱいの作品は「観る」より「作る」ほうが楽しいだろうな、とまず思う。

「イギリスで世界に誇れるもの=音楽」が映画の全面に文字通り「出ていて」これはこれで新鮮ではありました。

ただ「映画」としては、ある意味、ピンク映画(ブルーフィルム)やアダルトビデオ(AV)を超えた一般映画(でもたぶん18禁)であるところがみどころとなるのだろうか。

「男女の緊密な感情」を描くといい、役者に即興で本番させる手法って、プライマルとかフランツ・フェルディナンド、とかマイケル・ナイマンが出ていなかったならば、南極のロケがなかったならば、ただのポルノになってしまうくらい、「人間描写が浅い」と感じるのは私だけだろうか。

ヌードやからみがなくて作品に重みがない映画が多いなか、からみばっかりで人間味が薄い映画は、ある意味珍しいといえばそうかもしれない。

「9 Songs ナイン・ソングス」公式サイト【日本】
http://www.cinecrew.co.jp/9songs/

「9 Songs ナイン・ソングス」公式サイト【フランス】
http://www.9songs-lefilm

たまもの

たまものたまもの
2004年/日本/65分/R-18
監督・脚本:いまおかしんじ
企画:朝倉大介
撮影:鈴木一博
出演:林由美香、吉岡睦雄、華沢レモン、栗原良、桜井一紀、 川瀬陽太、他
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第17回ピンク映画大賞受賞作品。

主演は数年前に他界した左利きの林由美香さん。

原題は「熟女・発情タマしゃぶり」で2004年のユーロスペースでのレイトロードショーでは改題し「たまもの」として公開された。

いまおかしんじ監督の素朴なアイデアがぎっしり詰まった作品。監督のこの映画に懸ける想いが伝わってくる作品です。

カットしてあるのかもしれませんが、ピンク映画のはずなのに、所謂「濡れ場」的な濡れ場はあまりなく、ちょっといやらしい一般映画を観ている感じだった。一般映画的にはいいと思うけれど、これでピンク映画といえるのだろうか。

DVD特典映像の初日舞台挨拶を見ると、ピンク映画界の現状が垣間見れ刺激的。

林由美香さんが素敵でした。

シンプルな情熱

シンプルな情熱シンプルな情熱
アニー エルノー

堀 茂樹・訳

早川書房
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アゴタ・クリストフの訳者、堀茂樹氏つながりで同じくハヤカワepi文庫のアニー・エルノーに挑戦。

結果的にはあまり楽しめませんでしたが、ある人にとっては「恋愛はサイケデリックだ」ということを思い知りました。

文体は堀氏もあとがきに書いているように「客観的」といえばそうですが、喰いついてしまうような魅力は感じられなかった。

アゴタ・クリストフとアニー・エルノー、同じ訳者でともに女流作家ではありますが、全然違う、という当たり前のことを実感。

SWEET SIXTEEN

SWEET SIXTEENSWEET SIXTEEN
2002年/イギリス・ドイツ・スペイン/106分
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァーティ
撮影:バリー・アクロイド
出演:マーティン・コムストン、ミッシェル・クルター、アンマリー・フルトン、ウィリアム・ルアン、ゲイリー・マコーマック、他
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ケン・ローチ監督の切なく胸しめつけられる恋愛モノではない青春映画。観ていて、北野武監督の「キッズ・リターン」を思い出したりした。

この映画「SWEET SIXTEEN」には「救い」はほとんどないが、一方で、安い救いなら無い方がましだとも思う。ないならないなりに見る側はカタルシスを感じることはできる。

不器用で男気のある青年が主人公でしたが、自分の理想に向って行動することは大切だが、努力すればいいわけではなく、報われるわけでもないことを実感。

知識はあまりないが、現在、タジキスタン共和国など、経済状況が悪い国では、若者が手っ取り早くお金を得る手段としてコカインなどの麻薬密売があとを絶たないようだが、「意識」だけでは解決できないだけに難しい問題ように思う。

ケン・ローチ監督はある個人を描いており、それは個人から多へ広がるというよりは、個人を通して階級などの社会を描いているので「社会派」と呼ばれるような作品を撮っているのだろう、と思うが、それは同時に、物語として個人があまり反映されなくなるわけで、そこには物足りなさを感じてしまうことも再確認。

白昼の幻想

白昼の幻想白昼の幻想
The Trip
1967年/アメリカ/79分
監督・製作:ロジャー・コーマン
脚本:ジャック・ニコルソン
撮影:アーチ・R・ダルゼル
出演:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ブルース・ダーン、スーザン・ストラスバーグ、ルアナ・アンダース、他
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「若手CM監督が実際にLSDをやってみる」というだけの話のアメリカン・ニューシネマ。

DVDの特典映像によると、監督のロジャー・コーマンは、撮影前に数名のスタッフと交代で実際にLSDを体験したいたよう。

脚本はジャック・ニコルソン、主演はピーター・ドンダ。他にデニス・ホッパー出演しており、2年後の「イージー・ライダー」の布石となった記念碑的映画。

今観て目を惹くのは、「60年代後半」という時代の空気や勢いと当時の最新の視覚効果。

限られた予算、時間の中での、照明や撮影監督や編集などのスタッフの知恵と努力がにじみ出ていて好印象。

照明がトグロを巻いているピーター・フォンダのベッドシーンはISO(ASA)50のフィルムで撮影したものを4倍に増感しているようです。

こういう制作費的にB級映画は、今の日本なら、ピンク映画やVシネに変換可能なはずだと思うのですが、この映画のような「みずみずしさ」のある映画は自主映画からでてくるのかもしれません。

エロス番長1「ユダ」

ユダエロス番長1「ユダ」
2004年/日本/104分
監督・脚本:瀬々敬久
脚本:佐藤有記
撮影:斉藤幸一
音楽:安川午朗
出演:岡元夕紀子、光石研、本多一麻、三浦誠己、下元史朗、他
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ピンク四天王の一人、瀬々敬久監督作品。同型のDVカメラ、同予算で「新人監督発掘」のために製作された「映画番長」シリーズの1つ、「エロス番長」シリーズの番長こと瀬々敬久監修による作品。

瀬々作品は「エロス+同時代の社会事件+ドキュメンタリー的要素」が特徴のように思うが今回のその特徴にのっとている。

「理解はできないけれど、殺人者の哀しみのようなことを表現したかった」と瀬々監督はDVDの特典映像で言っていた通りの内容。

一見「小雪」風の風情のある主演の岡元夕紀子さんは初めて演技を観ましたが、腹の据わった感じは伝わってくるものがありました。元、雑誌「セブンティーン」のモデル、と聞くと小規模映画とかは駄目そうなように思っていましたが、観てびっくり。110分のうち100分くらいは彼女のアップばかりが映っていた印象。よほど監督のお気に入りなのか。「汚いかっこうをさせても清潔感がある」と監督も言っていましたが、その清楚な顔立ちはエロスをかきたてる。

また、前述の「肌の隙間」と同様に脚本は佐藤有記さんですが、「女流脚本家」ばかりが脚光を浴びがちなピンク的な映画で彼女と瀬々監督とのコンビの作品が自分には一番しっくりくる。

「撮影はDVの24Pで行われた」とのことなのでおそらくカメラはパナソニックのAG-150あたりが使われていた可能性が高いように思う。

監督も言っていましたが、本来、メディアに即した脚本で映画は撮られるべき。35ミリ、16ミリ、8ミリ、ハイビジョン、DV。

DVDを観て、これだけの映像で撮れるのならば、パーソナルな事柄に関してはDVが一番だ、と再認識。フィルムだと、予算とか観客のこととか、作りたいもののこと以上に、考えなければならないことも発生してきてしまうので、当たり前といえばそうだが、自分が撮りたいものはDVで撮るのが順当。マイケル・ウィンターボトムなどのように。

エロス番長1「ユダ」公式サイト
http://www.eigabancho.com/

ピンクリボン

ピンクリボンピンクリボン
Pink Ribbon
2004年/日本/118分
監督・脚本・撮影:藤井謙二郎
出演:黒沢清、高橋伴明、井筒和幸、女池充、池島ゆたか、若松孝二、渡辺護、足立正生、田尻裕司、林田義行、他
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「乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝えるシンボルマーク」ではない方の「ピンクリボン」。近年40周年を迎えたピンク映画のドキュメンタリーフィルムを鑑賞する。

最近、パッケージ画像につられて一般公開されたピンク映画のDVDを観る機会が多いのですが、思えばこんな機会があるのもVHSからDVDへとメディアが変化するタイミングと、一般公開するピンク映画が出始めるタイミングが重なったからなんだろうか。

この「ピンクリボン」を観て驚いたことは、まず、ピンク映画などで「製作」としてとしてクレジットされている「朝倉大介」氏が女性であったこと。若松孝二監督が「ねえさん」と呼んでいたのが印象的。

黒沢清監督の日活ロマンポルノ「神田川淫乱戦争」は日活側の判断で公開されなかったこと。

ずっと「コワもて」系の人だと思っていた高橋伴明監督がとても温和でやさしい感じの人柄のように見えたこと。

撮影中に「神と交信する」という女池充監督の現場風景が見れたこと。

などでしょうか。他にも最近面白い作品を撮る人だな、と思っていた田尻裕司監督の姿や、若松孝二監督の冷静な会社経営能力=予算管理能力(ひたすら情熱的に湯水のように使ってしまう印象がありました)が垣間見れたのは刺激的だった。

舞台挨拶など観ても「昭和の香り」漂う人によって支えられているとは思いましたが、思っていたとおり後継者がいない、というか、メディア形態として瀕死の状態であることも実感できました。「20年前にあと10年でなくなる」と言われていた理由がわかります。2015年にはどうなっていることやら。

フィルム撮りのオールアフレコ、という形式は8ミリ映画に通ずるところを感じ、ピンク映画製作の膨大なノウハウはそのまま低予算フィルム映画作りのノウハウとして受け継ぐ場所が存続して欲しいことも強く感じます。


「ピンクリボン」公式サイト
http://www.uplink.co.jp/pinkribbon/

フルメタル・ジャケット

フルメタル・ジャケットフルメタル・ジャケット
Full Metal Jacket
1987年/アメリカ/116分
監督・脚本:スタンリー・キューブリック
原作・脚本:グスタフ・ハスフォード
撮影:ダグラス・ミルサム
音楽:アビゲイル・ミード
出演:マシュー・モディーン、アダム・ボールドウィン、ヴィンセント・ドノフリオ、R・リー・アーメイ、ドリアン・ヘアウッド、他
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「フルメタルジャケット」はこれでたぶん3度目となる鑑賞。

回を増すことに冷静に観れるようになってくるとは思うが、退屈に感じないばかりか、新たな発見もあるように思い、自分の状況や考え方の変化も感じられ刺激的な映画。

最初はただ衝撃を受け、前回は映画の構成が気になり、今回はこの作品が表現している表象が気になった。

一般的に「ベトナム反戦映画」の一本とされるが、キューブリックは過去の「突撃」においてもあからさまに「戦争反対」を作中で謳ったりはしない。

アレクサンドル・ソクーロフ監督の「太陽」などのように、戦争の当事者・主人公に対して扇情的に描くようなことはしない。

被害者も加害者も同等の価値で登場する。このストイシズム的ともいえる客観的な描写により、この映画を真剣に観るものは撃たれることになる。

ドキュメンタリーでもないにも関わらず、ある意味、ドキュメンタリー以上に、客観的に描写されると、観るものは結果的に、その観点、倫理観を問われることとなる。

自分の存在に関する倫理観。こんなことは死ぬまで考えることはない人も大勢いるだろうが、世界はこの倫理観の上になりたっている。

この「前提のない思考」は観るものに困惑や恐怖を与えかねないが、抜本的に問うためにはまさに必要不可欠な作用である。

チープなシシリズムを強要されることに比べたら、このカタルシスは他と比類がない。

全く稀有な映画だ。

デウスの棄て児

デウスの棄て児デウスの棄て児
嶽本野ばら

小学館
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「ミシン」「世界の終わりという名の雑貨店」などの嶽本野ばら氏による、江戸時代の天草四郎を描いた、歴史小説、というより時代小説。

映画でもそうですが、作品のなかで成功する人、失敗する人、生き残る人、死ぬ人、結果的にそれぞれ描かれるわけですが、どのようなキャラクターの人物がどうなるのか? というのは作者の倫理観が反映されるところだと思う。

この「デウスの棄て児」でもそんな倫理観が垣間見られた。自分がその作家(作品)を好きになれるかどうかはこの倫理観によるところが大きいように思う。

「こんな奴には死んでもらいたい」と思う人物は実際に死んでいくし、「生き残ってもらいたい」と願う人物は生き残っている。

この倫理観は初見でハッキリ解かるもの、かつ、異なる層になることはあるが、そう変わるものでもないので好きな作家ならば基本的に安心してたのしめることになる。そこであらたな刺激が得られるかどうかはその作品のクオリティー次第ではありますが。

内容とはまったく関係ありませんが、そんなことを思った一冊です。

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「映画喫茶」は自主映画監督、酒井啓が鑑賞した映画や小説などについて綴った備忘録ブログです。プロフィールなどの詳細は下記公式サイトへどうぞ。
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